愛玩犬(あいがんけん)とは
犬にはさまざまな種類があり、ジャパンケネルクラブでは純血種を10のグループに分けて登録しています。犬種は、牧羊犬、使役犬、テリアなどのグループに分かれていますが、そのうちの1つが「愛玩犬」グループです。
愛玩犬は「コンパニオン&トイ・ドッグ」と呼ばれ、家庭犬、伴侶や愛玩目的の犬と定義されています。
他の犬種グループとの違い
愛玩犬が他のグループの犬種と大きく違うところは、猟犬や番犬としての役割をもたない点です。「働く犬」としてではなく、もっぱらペットとしてかわいがるために作られた犬種であるのが特徴です。
愛玩犬の種類
愛玩犬グループに含まれる代表的な犬種は、次のとおりです。
その他の犬種も合わせて、計26種が愛玩犬として登録されています。かわいがられるために生まれた犬というだけあって、小型犬が多いですね。
ただし意外なことに、かわいらしい見た目で人気のポメラニアンは愛玩犬グループに入っていません。ポメラニアンは「原始的な犬・スピッツ」グループに分類されており、家庭犬、番犬を目的とした犬種とされています。
グループとしては、日本犬(柴犬、秋田犬、四国犬、日本スピッツなど)と同じなのですよ!びっくりですね。ちなみに、日本原産の愛玩犬は「狆(ちん)」のみです。
愛玩犬の歴史
犬の歴史はとても古い
犬は、1万4千年~1万5千年前ごろに家畜化されたと言われています。気の遠くなるような昔ですが、時は中石器時代でした。それほど遠い過去のことですから、犬の家畜化については、遺跡から発掘された遺骨などから推測された仮説の状態です。
おそらく、人間の集落の残飯処理係や番犬、猟犬として飼われるようになったのではないかと言われています。そのころから犬をかわいがる人間もいたでしょうが、ペットとして飼うゆとりはなかったでしょう。
犬とともに暮らす際には、人懐っこい個体を選んで繁殖させてきたと考えられます。そして、次第に現在の犬のもととなる様々な毛色や特徴が生まれ、原始的な犬が発生することになりました。
人間は、各地で狩猟などの目的で犬の性質を固定するための繁殖を行い、さまざまな犬種を生み出しました。純血種の管理を目的とした犬種登録団体は、1873年に設立されたイギリスのザ・ケネルクラブが最古です。そこで、純血種の認定や分類が行われることになりました。
もちろん、純血種だけが愛玩犬というわけではありませんが、参考までに最古の愛玩犬と言われるマルチーズの歴史を見てみましょう。
最古の愛玩犬「マルチーズ」
マルチーズは、紀元前1500年ごろに地中海に持ち込まれました。その名の由来となったマルタ島で、当時からすでに船乗りたちのペットとしてかわいがられていたようです。
その後、ヨーロッパに広まり、15世紀のフランスでは貴婦人たちの抱き犬として人気を博しました。ドレスをまとった貴婦人が、マルチーズを抱いている絵画を見たことのある方もいるのではないでしょうか。
19世紀末には、イギリス市民の間でも大流行しました。同じ愛玩犬グループの犬種で言えば、日本原産の狆(ちん)は江戸時代の徳川幕府で愛された記録が残っており、キャバリアキングチャールズスパニエルはイギリス王室に愛されたからこそ「キング」の名前が入っています。
このように、愛玩犬は、姿の愛らしさや美しさ、体の小ささから、かわいがるために貴族や王族の人々が手にして流行した犬だったのです。
日本で人気の愛玩犬
ペット保険の会社「アニコム」が、新規加入した0歳の犬の数に基づいて、人気犬種のランキングを発表しています。2020年の1年間で最も人気のあった犬種ベスト5は以下のとおりです。
- 日本で人気の犬種
- 1位:トイプードル
2位:チワワ
3位:ミックス犬(10kg以下)
4位:柴犬(豆柴含む)
5位:ポメラニアン
いかがでしょうか。ペットショップの店頭で頻繁に見かける犬種と、見事に一致していませんか?つまり愛玩犬は今、最も「需要」のある犬種、「大量生産」されている犬種と言えます。
番犬をメインとした昔と違い、現在では住宅事情や犬を家族としてかわいがるなど価値観の変化により、愛玩犬に分類される犬種が人気です。特に日本では海外と異なり、室内や庭の狭さもあるため、小型犬が求められています。
ちなみに、海外(アメリカ)での人気犬種は以下のとおりです。やはり上位には、日本では飼うことが難しい大型犬が目立ちます。
- アメリカで人気の犬種
- 1位:ラブラドール・レトリーバー
2位:フレンチブルドッグ
3位:ジャーマンシェパード
4位:ゴールデン・レトリーバー
5位:ブルドッグ
参考文献:2020年の最も人気のある犬種|アメリカンケネルクラブ
愛玩犬を取り巻く問題点
「小型でかわいい」という特徴を持つ愛玩犬は、日本で絶大な人気が高まるにつれて、現在ではさまざまな問題も抱えるようになってしまいました。
命を軽く扱う業者側の問題
需要があるからこそ、ペットショップにも上に挙げたような犬種の子犬がたくさん並ぶわけですが、その裏にはパピーミルに代表される悪質な繁殖業者と、子犬を品物同然に扱うオークションと流通が存在します。
愛玩犬を含めて、「流行の犬種」の子犬をただ生み出すためだけに存在し、親犬は満足にお世話されない実態も少なくありません。
愛玩犬嫌いな人を生み出す飼い主側の問題
また、「愛玩犬」と呼ばれるために、まるでぬいぐるみやファッション小物を扱う感覚で、犬という生き物の習性を理解せずに、飼育している飼い主もいます。
人ごみの中を連れ回したり、「お散歩はほとんど必要ありません」というペットショップ店員のセールストークを鵜呑みにして、散歩という犬の最大の楽しみや、健全な心の成長の仕方を理解していなかったりすることもあります。
家族以外の人や他の動物と外で接することが少なかった愛玩犬は、咬傷事故や警戒心による吠えを引き起こすことも多く、「愛玩犬はうるさいから嫌い」「わがまま」といったマイナスイメージを持たれてしまうことも。
「愛玩犬」という言葉は、あくまで犬種の分類上の言葉ととらえて、あくまで「犬は犬である」ということを重視する必要があります。
愛玩犬を飼うときの心構え
猟犬や護衛犬のように働く犬でなくても、小型でかわいらしい見た目であっても、愛玩犬はあくまで体を動かすことが好きな犬という動物です。
また、愛玩犬の名前の通り、理想的な「伴侶犬(コンパニオンドッグ)」になるには、外で家族以外の人や犬と出会う社会勉強も必要です。
- 犬の本能を刺激する楽しいお散歩や遊びを取り入れてあげること(ストレス発散)
- 積極的に外に出て、室内では得られない音やにおい、出会いの刺激を得ること
- 犬同士・犬と人同士のあいさつの仕方を知ること
- 甘やかさずに、ダメなことはダメだと教えるしつけを行うこと
こういった暮らしを心がけて、愛犬との信頼関係を結んでいくことが大切です。
まとめ
犬種のグループとしての愛玩犬について、述べてきました。ですが、今やほとんどの人が、犬種にかかわりなく、かわいがるために犬と暮らしているのではないでしょうか。そういう意味では、ほとんどの犬が「愛玩」目的で飼育されていると言えます。
「愛玩」の辞書的な意味は、「愛でたり、大切にかわいがったりすること」です。わたし達は犬のかわいい姿や精悍な姿を愛で、それぞれのやり方で犬を大切にし、かわいがります。
犬を大切にし、かわいがる際には、くれぐれも人間目線ではなく、犬の習性を理解し、ニーズを満たすことを心がけたいものです。
「愛玩」は、ともすれば、おもちゃやぬいぐるみのように犬を扱うことにつながりますので、犬という生き物にとってのクオリティ・オブ・ライフを考え、正しくかわいがって幸せな犬生を送らせてあげられるよう、お互いに気をつけていきましょうね。