犬のマッサージの効果
犬のマッサージには大きく2種類に分けられ、ひとつは運動器の疾患による治療や術後のリハビリテーションによる身体的なもの。もうひとつは、飼い主さんとのコミュニケーション手段としての精神的なものです。
それでは、そういったマッサージによって犬にどのような効果が期待できるのでしょうか?
- 筋肉の硬直緩和
- 血行促進
- 幸せホルモン分泌
- 信頼関係の向上
筋肉の硬直緩和
犬にマッサージをおこなうことで、筋肉の硬直緩和効果が期待できます。特に、治療や術後の際のリハビリテーションにマッサージは大変役立つものと言えます。
また、犬も筋肉などが硬直してしまうと、関節の可動域が狭くなったり動かしづらくなってしまうので、それらの神経機能改善にも効果的と言えるでしょう。
血行促進
マッサージをすることで、血行促進の効果があります。血液やリンパの流れを良くすることで老廃物を除去し、患部に酸素や栄養を送り込むことで回復の促進を促してくれます。
運動不足が気になる犬や、年々運動する時間が減ってきた老犬には、マッサージをすることで、むくみの原因になる寝たきりの症状や病気予防、筋肉の維持や健康維持が期待できるでしょう。
幸せホルモン分泌
犬にマッサージをおこなうことで得られる効果の三つ目は、幸せホルモン分泌による長寿効果です。犬とのコミュニケーションの一環である撫でるという行為やマッサージは、幸せホルモンの「オキシトシン」を分泌させるもっとも簡単で効果的な一つとされています。
そのため、この幸せホルモン(オキシトシンやセロトニンなど)の分泌が多い犬は、性格が穏やかになったりストレス値が低く、長生きの元になったりといった効果があると言われています。
信頼関係の向上
犬のマッサージで得られる効果の最後に挙げるのは、飼い主様ご自身と愛犬の信頼関係の向上です。前述の通り、犬の幸せホルモンである「オキシトシン」は、犬を撫でたりマッサージすることによって分泌されます。
そのため日々のコミュニケーションにおいて、お互いがリラックスした状態でマッサージを施すということは、信頼関係が深まり、また、触ってあげるだけで脳に刺激を与えるので、認知症などの予防といった効果も期待出来ます。
犬の基本的なマッサージの方法
それではまず、犬への基本的なマッサージ方法についてご紹介しましょう。マッサージにはいくつかの方法がありますが、ここではご自宅でおこなう時のマッサージ方法をご紹介します。
マッサージをおこなう際は、ご自身と愛犬双方がリラックスできる空間、落ち着いた状況で行い、また愛犬の怪我防止のため、事前に爪を切っておくことも忘れないであげてくださいね。
軽擦法(撫でる)
それでは、基本的なマッサージの一つ目、軽擦法(撫でる)をご紹介します。この方法は、もっとも基本的なマッサージ方法で、手のひら全体で犬の体を撫でてあげる方法です。
ゆっくりと優しく一定方向に犬の体を撫でてあげ、リラックスさせることで飼い主様ご自身のみならず、愛犬の血圧を下げることが出来ます。
ツボマッサージ法(東洋医学)
基本的なマッサージの二つ目は、ツボマッサージ法(東洋医学)です。動物の体にも人間同様ツボ(経穴)が存在し、一般的にツボは経絡と呼ばれる全身を網目状に走行するルート上に存在します。
代表的な経絡は14本存在し、中には「気」、「血」、「水」といったそれぞれ身体の機能に関係する津液(しんえき)が巡っていて、それらが生命バランスを整えていると言われています。
ただ、ツボマッサージ法は場所がわかりづらいといったデメリットがあるため、そうした時に効果的なのが、犬の背中側に一直線に沿った経絡掴みです。方法は簡単で、両手の5本指全部を使い、皮膚を強く引っ張りあげます。
皮膚は全体の約20%を占めており、体のバリア機能を備えているため、この経絡掴みは、皮膚の体操になり体調を整えてくれる方法になります。
テリントン・Tタッチ・メソッド法
基本的なマッサージの最後にご紹介するのは、テリントン・Tタッチ・メソッドというカナダ人の馬調教師であったリンダ・テリントン-ジョーンズ氏によって考案された動物の体に優しいマッサージ方法です。
Tタッチのマッサージは、手で時計回りに1と1/4の弧を描くことで、犬のリラックス効果を引き出し、恐怖や興奮をなだめるのに特に効果的だと言われています。
主な強さは、1~6度にまで分かれており、通常はまぶたにそっと触れる程度からまぶたの上に非常に軽い圧力を感じる程度がTタッチの基本となります。
次からは部位別でマッサージのやり方をご紹介していきます!
犬が気持ちいい顔のマッサージ
ではまず、犬の顔のマッサージからご紹介しましょう。犬の表情は猫の表情と違ってコロコロ変わるイメージが強いですよね。
嬉しい時や悲しい時、怒ってる時なんかも表情豊かでとても可愛らしいですが、その中でも特に口周りや耳周りの筋肉は結構使われている部分の一つではないでしょうか。
そこで、顔のマッサージにとても有効な方法として、Tタッチをおすすめします。口周りや耳周りのマッサージでは、前述でお伝えした通り、まぶたにそっと触れる程度の力で、指先で小さく弧を描くマッサージをおこなって下さい。
Tタッチの手法においては、口周りのマッサージは大脳辺縁系に刺激を与え、興奮やストレス軽減などに効果を発揮します。
もしも、口の中(歯茎)などを触らせてくれるようなわんちゃんであるなら、口周りのマッサージの延長で口の中も同様に指の先で弧を描くようにマッサージしてあげてください。耳についても、耳の付け根を持って優しく弧を描くと、気持ちを落ち着かせたりすることが出来ます。
犬の目付近には眼球疲労を軽減させることが期待されているツボが集約しています。両目の周囲を優しく撫でることで適度な刺激をツボに与えられ、目の緊張をほぐせます。目の周りをマッサージする際は、犬が暴れて指が眼球に触れないよう鼻先を優しく固定しながらマッサージしてあげてください。
犬が気持ちいい首・肩・背中・腰のマッサージ
犬は常に四足歩行で行動しているため、特に前肢に負担がかかる事による肩こりは、血液循環の滞りや筋肉の拘縮などを招きかねません。そこで、首~肩~背中~腰にかけてのマッサージに効果的な方法としてオススメなのがツボマッサージです。
自分の手をコームに見立て、首から背中へ、肩から腕へストロークしていきます。肩甲骨を基準にすることで、体の流れに沿ったマッサージが可能になります。
また、督脈(とくみゃく)と言われる背中の中央を走行する経絡は、腰痛に効果的と言われており、この経絡を体の流れに沿ってストロークすることで、滞っている気の流れを改善します。
犬が気持ちいいお腹のマッサージ
お腹のマッサージに効果的なマッサージ方法としては、こちらもツボマッサージがオススメです。ツボマッサージにおけるお腹へのアプローチは、主に胃腸が弱い子におへそを中心に円を描くマッサージを施してあげてください。
また、便秘や下痢がある場合には、犬の1番後ろの肋骨から数えて4番目に位置する背骨の左右にある大腸兪と、骨盤の一番前に位置する背骨の左右にある小腸兪を同時に押すことで効果が得られます。
犬が気持ちいい手足・肉球のマッサージ
それでは最後に手足・肉球のマッサージについて、ご紹介します。日頃わんちゃんの散歩や日常を手助けしてくれている手足は、外を散歩したり、冬場は凍傷などの危険から皮膚を守ってくれる肉球は、犬にとってとても大切な器官の一つですよね。
そんな犬たちの手足や肉球のマッサージにおすすめなのが、Tタッチとツボマッサージの、両方と言えます。Tタッチでは、90度の角度に曲げた指先の先端で1と1/4の弧を小さく弱い力で足全体を描くことで股関節形成不全による痛みや肉球、爪などの敏感さを軽減したりすることが出来ます。
また、ツボマッサージでは、四肢の各指の付け根の両側にあるツボを押すことで、やる気を向上させたり、後ろ足の裏の一番大きな肉球の上にある湧泉(ゆうせん)というツボは、利尿作用があり、疲労回復に効果的です。
犬にマッサージする際の注意点
犬のその日の体調を理解する
どんなマッサージをする際にも、犬が発熱している時や、妊娠中のマッサージなどは避けましょう。また空腹時や食後も避けた方が良いでしょう。炎症や外傷がある場合も、マッサージを行うのは避け、まずはその治療を優先するようにしてください。
病気や怪我をしている場合は動物病院に相談する
犬をマッサージする際、足やお腹など特定の部位に触れると怒る、もしくは嫌がるようであれば病気やケガを抱え込んでいる可能性があります。犬を刺激しないように嫌がる場所をチェックし、ケガや炎症など異常な要因を見かけた場合は速やかに動物病院を受診しましょう。
犬の気持ちいいサインと嫌がっているサインを見極める
当然ですが犬は、良い気持ちや嫌な気持ちを口に出して伝えることはできません。そのため、マッサージを施す上で大事なのは、犬の仕草や表情を常に気にかけることです。
もしも犬があくびや頭を振ったりその場を離れたがるようなら、それはマッサージをされる部位に不満があるのかもしれません。その時は無理に同じところをマッサージするのではなく、別の場所に変えたり、時間を置いて再度行ってあげるようにして下さい。
また、逆に目を細めたりその場に大人しく座ったり、マッサージ中に眠ってしまうようなら、それは気持ちが良いというサインでしょう。優しく引き続きマッサージを施してあげてくださいね。
シニア犬におすすめのマッサージと注意点
体力が衰え、体調不良が増えがちなシニア犬にとってマッサージには多くのメリットがあります。血行改善や精神的ストレスの解消、皮膚の違和感に早く気付けるなどが期待できます。その一方で、シニア犬へのマッサージには注意すべき点も存在します。
シニア犬マッサージのポイント
シニア犬も若い犬同様、全身の筋肉を優しく揉みほぐす流れで行います。追加で意識するポイントとして、間接付近も丁寧にマッサージしてあげましょう。体力低下に伴い運動量が低下しがちなシニア犬は、関節付近の筋肉が硬くなりやすいです。適度なマッサージを施すことでシニア犬が動きやすくなります。
またお腹周りのマッサージも重要です。便秘気味なシニア犬の場合、適度にお腹をマッサージすることで腸の蠕動運動促進が期待できます。 ただし、腹部は触られること嫌がるワンちゃんも多いため無理に行わないようにしましょう。
シニア犬のマッサージにおける注意点
シニア犬をマッサージする際は、力強く体を刺激しないようにしましょう。体力が低下しているシニア犬にとって、不適切なマッサージは体に負担を与えストレスの原因となります。あくまでも、やさしく気持ちよくなるマッサージを心掛けましょう。
また、食後のマッサージもオススメしません。食べてすぐマッサージを施してしまうと、消化不良を助長させる恐れがあります。
犬のマッサージを学習する方法
今までマッサージについて、どんな方法があるかなどを紹介してきましたが、続いては、犬のマッサージをもっと知りたい人にオススメな学習方法をご紹介します。セミナーや講習の有無、通信での取得など、ご自身で指導されたい方から気軽に学びたいという方までのご参考になれば幸いです。
まとめ
現代社会において動物は、人にとってとてもかけがえのない存在になり、犬の寿命も随分と伸びました。
しかし、寿命が伸びる一方で病気になるリスクは避けて通れないといったこともあるでしょう。今やホリスティックケア(全体的な視点で行うケア)は犬や猫に当たり前のように浸透し、人同様マッサージも様々な種類が犬に施されています。
犬に施すマッサージは、人と違って言葉を話せない以上、力の加減や痛みの状態などを知ることが難しく、学ぼうと思ったら決して簡単なものでは無いかもしれませんが、少しでも愛犬のために健康的なマッサージを行えるようになるなら、ご自身の時間の一部を学びに使ってみるのも良いのではないでしょうか。