犬の去勢手術のデメリット
男の子のわんちゃんを迎え入れた時、避けては通れないのが去勢手術を「する」か「しない」かという悩み。手術の中では難易度は低めで短時間で終わることが多いのが去勢手術ですが、行うからにはデメリットも生まれます。
一度去勢手術を行ってしまうと元の体の状態に戻ることは不可能なため、飼い主さんは愛犬のためにメリットとデメリットを比較して、本当に愛犬にとって必要なのか判断してあげたいですね。
愛犬に去勢手術を行うことで生まれるデメリットとはどんなものなのかを知り、家族で話し合う時の材料にしてみましょう。
子孫を残せなくなる
去勢手術は、オス特有の生殖器である精巣を完全に切除する手術です。精子を作る機能がなくなるため、愛犬の子犬を見たいと後で思っても不可能になります。
去勢手術の最大のデメリットは、子孫を残す機能が失われてしまうことだと言えるでしょう。
ホルモンバランスが崩れる
精巣を去勢手術で摘出すると分泌される雄性ホルモンが減少するため、体の中のホルモンバランスは大きく変化します。
その結果これまで生殖本能に使われてきたエネルギーが体の中で不要になったり、基礎代謝が変化することから、いつもと同じ量のご飯を食べているはずなのに去勢手術後から太りやすくなる犬が多くなる傾向があります。
そのため、去勢手術後は愛犬の食事内容の再検討や、カロリーコントロールがより重要です。
また、ホルモンバランスの変化が皮膚や被毛に影響を及ぼし、毛艶や毛質が変化したと感じる飼い主さんもいます。
性格がかわる
去勢手術後には、性ホルモンが作用していたためにあった他の犬への積極性がなくなるためか、性格が変化したと感じる場合もあります。
他のオス犬に対して張り合いたいと感じたり、発情中のメスにアピールしたいと感じることがなくなることで、シャイ・甘えん坊になったと実感することもあるようです。
性格が変化する理由は獣医学的に証明されているとは言えませんが、去勢手術によって動物病院に預けられるという体験や、手術の前後に感じた恐怖心やストレスが影響している可能性も指摘されています。
全身麻酔や手術による影響
精巣を摘出する去勢手術は、両方の精巣が成長過程できちんと降りてきていれば、お腹を開けることなく小さな傷と短時間の麻酔のみで済みます。
しかし、手術というからには術中の痛みを抑えるための麻酔は不可欠であり、手術に臨むわんちゃんの恐怖を減らし、獣医師が安全に手術するためという意味でも全身麻酔を行わなければいけません。
飼い主さんの多くが心配する全身麻酔のリスクは、手術前にきちんと体の状態を調べる検査を行っておくことでかなり減らすことができますが、ゼロにすることは不可能です。
また、精巣がお腹の中に留まったままである場合は開腹手術が必要になる場合もあり、術式が大きく変わるために術後の痛みレベルや麻酔時間の変化などによる体への負担も増してしまいます。
術後にきちんと傷口の衛生管理ができていなければ合併症を併発することもあるため、信頼できる獣医師の元で手術に臨むことが大切です。
- 去勢手術は精巣を摘出する手術のため、オスとしての生殖機能は完全になくなる
- ホルモンバランスの変化により太りやすさや被毛の状態行動の仕方に変化を生じさせることがある
- 全身麻酔や術後の合併症に関するリスクは事前の準備で限りなく減らすことはできてもゼロにすることはできない
犬の去勢手術の必要性について
先ほどご紹介したように去勢手術にはデメリットもありますが、人の社会に混じって暮らしていく犬にとっては去勢手術を行う方が暮らしやすくなることも多いものです。
中でも性衝動が関わる行動は愛犬とその飼い主さんだけでなく、周囲の人やわんちゃんに影響を与えるため、愛犬の子孫を残す予定がなければ去勢手術を行う方が大きなメリットを得られることもあります。
去勢手術を行うことによってどんなメリットが得られるのかを知れば、自分自身と愛犬との暮らしに去勢手術が必要かどうか整理しやすくなるでしょう。
望まない交配を避ける
去勢手術によって子孫を残すことができなくなることがデメリットである反面、言い換えれば思いもよらない交配を防ぎ、発情期を迎えている女の子のわんちゃん・その飼い主さんとのトラブルを防ぐことができます。
万が一望まぬ交配によって相手のわんちゃんが妊娠してしまった場合、父犬の飼い主さんにも生まれてくる子犬と妊娠・出産のケアが必要になる母犬に対する責任が発生します。
中にはあらかじめ交配相手を決めていたのに愛犬が父犬になってしまったことにより、相手側にとっては金銭的な損害を生み出してしまうケースもあるのです。
マーキングや威嚇行動の抑止
男性ホルモンによるオスとしての本能が強いと、
- メスをめぐっての喧嘩
- 同じオスに対する攻撃性や威嚇行動の増加
- 縄張り意識の強さから行うマーキングや遠吠え
などが問題となることがあります。
去勢手術を行うと、雄性ホルモンが関わるメスを追い求めたりライバルとなる他のオスへのアピール行動が抑えられるため、穏やかさを実感するようになる飼い主さんも多いと言われています。
性的欲求によるストレスを減らす
発情期真っただ中のメスのフェロモンを察知すると、オス犬にとっては興奮を抑えられず、本能的にメスを追い求めたいという衝動に駆られます。
しかし、飼い犬である場合は自由にメスを追い求めることはできないため、達成することができない本能的欲求を解消できずイライラとしたストレスにさいなまれることも。
時には思いもかけないタイミングで散歩中や自宅のドアを開けた途端に脱走してしまったり、脱走後もメスを追い求めてかなり早いスピードで遠い距離を移動してしまうことがあります。
発情期のメスの尿に含まれるフェロモンは数km離れた遠方のオスにも届くと言われているため、飼い主さんが知る身近に未避妊の女の子のわんちゃんがいなかったとしても注意が必要です。
生殖器に関係する病気予防
去勢手術を行うことは、雄性ホルモンが関わると言われている将来的な病気の予防にも役立つとされています。
- 前立腺肥大や前立腺炎などの前立腺疾患
- 精巣腫瘍
- 肛門周囲腺腫
特にお腹の中に精巣が残ったままの状態である停留睾丸(陰睾)では、陰嚢に降りてきている場合に比べて高い温度が保たれるために、お腹の中の精巣が徐々に変化し、腫瘍化するリスクが10倍以上になることが指摘されています。
また、未去勢のオスが老齢期になった時に発生することが多い前立腺疾患の唯一の治療法は去勢手術です。老犬期の病気になってから行う去勢手術よりも、あらかじめ若くて体力のあるうちに手術を行っておく方が術後の体への負担や麻酔リスクは低減し、術後の回復が早くなるというメリットもあります。
- 望まない交配による相手のメス犬や飼い主とのトラブルを避けることができる
- 性ホルモンが関わる攻撃性や縄張りアピールのための行動欲求が減る
- 老犬期に病気になってから手術するよりも未然に病気を予防するために手術しておいた方が体への負担は少ない
犬の去勢手術の時期や費用について
メリットとデメリットを比較して、いざ愛犬の去勢手術をしようと思った時には、いつ行うのかや去勢手術の流れが気になるものですよね。
詳しい内容はかかりつけの動物病院に相談するのがベストですが、あらかじめ飼い主さん自身で情報収集を行った上で話を聞くことができれば、自分が抱える手術への不安や心配を整理して、疑問に思ったことを獣医師に確認することができます。
獣医師からのインフォームド・コンセントをきちんと飼い主さん自身が理解した上で愛犬の去勢手術に臨めるよう、去勢手術のタイミングや準備を知ってみましょう。
犬の去勢手術を受ける時期
発情出血で性成熟を確認できる女の子に比べ、男の子のわんちゃんはいつ性成熟を迎えたのかというタイミングがわかりにくいものです。
一般的に生後1年程度が性成熟の目安となりますが、
- 足を挙げてのマーキング行動
- マウンティング
といった仕草で初めて気づくことも少なくありません。
足を挙げての排尿行為や縄張りを意識した威嚇行動などが習慣化した後に去勢手術を行っても治まらないことがよくあるため、オスとしての本能が強まる前の生後6ヶ月程度で去勢手術を行うのがベストだという意見もあります。
さらには、生後6ヶ月ほどにもなれば成犬の体格にも近づいて、体力や免疫力も安定し始める良いタイミングです。
ただし、全身麻酔で去勢手術を行うにあたって、抜けずに残っていた乳歯の抜歯処置や鼻涙管洗浄など、普段愛犬が起きている時には行えない処置を一緒に実施することもあります。
体の成長速度には個体差があり、乳歯の抜け具合なども異なってくるため、正確に愛犬の去勢手術を行う時期を決めるには獣医師による判断を優先しましょう。
また、成犬期以降になってから攻撃性などの問題行動の緩和を目的に行おうとしても、それがオスとしての本能ではなく
- 愛犬の性格
- これまでの体験から得た対処法
であった場合は、去勢手術をしても行動に変化は現れないでしょう。去勢手術をしたら性格が変わるわけではなく、オスとしての本能が抑えられるに過ぎないことを理解してあげてくださいね。
去勢手術の流れ
実施する動物病院の方針や、愛犬の体調などによって多少異なりますが、精巣を小さな傷のみで終えることができる去勢手術は通常日帰り手術です(停留睾丸で開腹手術をした場合は1泊になることもあります)。大まかには次のような流れとなることが多いでしょう。
- 手術前の検査の実施(身体検査・血液検査・胸部レントゲン検査など)
- 手術日の予約、獣医師によるインフォームド・コンセント
- 手術当日は一定時間以降絶食する
- 手術当日に午前中のうちに動物病院で預かり
- 昼の手術時間に去勢手術を実施
- 麻酔から醒めてしばらく病院で様子を見てから夕方に帰宅
- 手術後の検診、手術後10日程度で抜糸
手術前の絶食時間については現在様々な議論がされており、これまでのような長時間の絶食ではなく、消化の良い食事を数時間前にとることで術後の回復を早めたとするデータもあります。いつから絶食しておくのかは、きちんと担当の獣医師に確認しておきましょう。
横浜もみじ動物病院「《麻酔》麻酔前のごはんのお悩み「術前給与」」
手術当日の預かりの時には、質問事項などをゆっくりと話す時間が取れないかもしれません。手術の予約日までに気になることが出てきたら、事前に再度相談に訪れるのがおすすめです。
犬の去勢手術の費用
男の子の一般的な去勢手術では、開腹が必要ない分女の子の避妊手術より費用は安くなる傾向があり、麻酔料込みで2万円~3万円程度が目安です。
ただし、
- 手術前の検査内容
- 手術内容(開腹が必要な場合や乳歯抜歯を同時に行うなど)
- 短頭種や老犬、持病による麻酔リスクの有無
- 愛犬の体格(特に大型犬超大型犬)
といった条件が加われば料金が追加される可能性があるため、手術前の検査に踏み切る前に、一通りの費用の確認をしておくと良いでしょう。
去勢手術後の過ごし方
去勢手術後は、体の回復のために帰宅したその夜のうちから食事を始めることがほとんどです。
できるだけ術後の痛みが少ないよう鎮痛を重視して取り組んでいる動物病院も多いものですが、愛犬の性格によっては痛みや1日抱えていた不安感から食欲がなかなかわかない子もいます。
その場合は飼い主さんの手からご飯をあげたり、食事を温めて香りを出して愛犬の食べたい気持ちをアップさせるなど、ちょっとした工夫を取り入れてあげましょう。
また、手術後の感染予防で処方された抗生剤があれば、指示された通りの期間中、正しい飲み方できちんと飲み切るようにしましょう。万が一抗生剤が合わずに嘔吐や下痢の症状が現れるようであれば、遠慮なく担当の獣医師に相談してください。
傷口を愛犬が舐めたり噛んだりすると、縫合した場所が開いたり細菌感染を引き起こして化膿する危険があります。
エリザベスカラーなどを着用しつつ、雨や泥・尿汚れを避けて、抜糸までの間傷口の保護に努めるようにしてくださいね。
- 手術時期は生後6ヶ月程度を目安に愛犬の成長度合いや体調を見て獣医師と相談しよう
- マーキングが習慣化していたり威嚇や攻撃行動が性格などによるものであれば、去勢手術をしても変わらないことも多い
- 手術の流れや費用は動物病院によって異なるため、当日焦らないように早めの確認が大切!
まとめ:犬の去勢手術は必要性を見極めることが重要!
愛犬に去勢手術が必要だと感じるかどうかは、飼い主さんとの生活環境や愛犬の子どもを望むかどうかによって異なります。
しかし、発散できない性衝動によるストレスや脱走、マーキングといった行動などを抑制できることを思うと、家庭犬の場合はメリットとなることも多いものです。
また、老犬期になってから病気の治療のために去勢手術を行うとなると、体調の悪い愛犬にとっては手術のリスクも増し、見守る飼い主さんの後悔につながる可能性もあります。
「かわいそうだからしない」だけでなく、メリットとデメリットを冷静に比較した上で、愛犬の将来を考えてあげてくださいね。