犬がキシリトールを食べる危険性とは?
私たちが普段食べているものの中にも、犬が食べると重篤な症状に陥ってしまうものはいくつかあります。キシリトールは、その中の一つです。
キシリトールとは、人間用のガムやお菓子に使われることが多い甘味料の一種です。人間では、口腔内環境の改善が期待されています。
では、キシリトールは犬にどのような影響を与えるのでしょうか。ここでは、キシリトールが犬に与える危険性について紹介します。
キシリトールは犬に中毒症状を引き起こす
キシリトールは、犬が摂取すると中毒症状を引き起こし、場合によっては死亡する危険性のある、非常に注意すべき甘味料です。
人間用のガムや歯磨き粉など、身近な製品に含まれているため、犬が誤食してしまうことが多いと言われています。
中には、キシリトールは無害であると謳っていて、キシリトールが少量含まれる商品も存在します。たしかに、少量であれば無症状のこともありますが、空腹時に摂取した場合など摂取した際の条件によっては、危険な場合もあります。
犬用に開発されたデンタルグッズや、野菜や果物などに入っているキシリトールは、含有量が少ないため比較的問題にならないものもありますが、人間用に開発された製品はキシリトール含有量が多く、犬へのリスクは高いと考えられます。
ガムや歯磨き粉などは犬の誤食を起こしやすい
私たちの生活環境には、キシリトールを含む製品が多く存在します。キシリトールは、人間の口腔内環境の改善に効果があるため、たくさんの食品に含まれています。
そして清涼感や保湿効果もあるため、食品以外にも、ハンドクリームや化粧品など多くのものに入っています。つまり、キシリトールを含む製品が多いということは、それだけ誤食する危険性も高くなるということです。
また、キシリトールには甘味があります。犬はもともと甘味への感受性が高いと言われている動物です。そのため、キシリトールを誤食してしまう危険性はさらに高くなると考えられます。
身近に存在するキシリトール含有製品
キシリトールを含む人間用の製品として、最もわかりやすいものは、歯磨き粉やキシリトールガム、キシリトールタブレットなどだと思います。では、そのほかにどのようなものがあるのでしょうか。
例えば、野菜や果物にもキシリトールを含むものがあります。有名なものとして、いちごやレタスが挙げられますが、含有量はごく少量です。
また、人間用のお菓子にもキシリトールが配合されている商品はたくさんあります。例えば、飴、ラムネ、グミ、チョコレートなどです。
特に子どものいる家庭では、これらのお菓子があることが多く、犬が届く場所に置いてしまう場合や、子どもが誤ってあげてしまう場合があるため、注意が必要です。
注意すべき犬用のデンタルグッズ
犬用のデンタルグッズの中には、少量のキシリトールが含まれるものが存在します。ごく少量の場合には、問題が起きることは少ないと考えてよいと思いますが、空腹時は食後に比べて中毒になりやすいため、与えないほうが良いでしょう。
なぜ、空腹時は食後に比べて中毒症状のリスクが高まるかというと、キシリトールは犬の血糖値を下げる作用が強いからです。空腹時は食後に比べて血糖値は低くなっています。
もとから低い値を維持しているところに、キシリトールによる血糖降下作用が加わることで、血糖値が低くなりすぎてしまい、中毒症状を呈する危険性がより高くなるのです。
また、犬の場合に問題となるのは、虫歯よりも歯周病です。したがって、虫歯予防に効果のあるキシリトールを犬に与えても、口腔内環境の改善に対する効果はあまり期待できません。
なぜそのデンタルグッズを愛犬に与えるのか、再度確認してみてくださいね。
犬のキシリトールによる中毒症状
犬がキシリトールを摂取したことで起こる中毒症状の原因は、インスリンと呼ばれる血糖値を低下させるホルモンの過剰分泌です。人間がキシリトールを食べた場合には、インスリンは分泌されません。
しかし、犬の場合には人間と逆で、インスリンを大量に分泌してしまいます。その量は、同じ量のグルコースを摂取した時の6倍ともいわれており、血糖値の上昇に対してインスリンが多く出過ぎてしまうのです。
インスリンの過剰分泌により「低血糖」になる
インスリンとは、血液中に含まれている糖を細胞が取り込めるように、細胞のドアを開ける鍵の役割を果たしています。通常は血糖値の上昇に合わせて、適量分泌され、血糖値を一定に保つ働きをしています。
しかし、インスリンが血液中に多くあると、たくさんの糖を細胞内に取り込んでしまい、血中の糖の濃度が下がり、低血糖という状態になります。
余談ですが、このインスリンというホルモンが足りていない状態を糖尿病といいます。糖尿病はインスリンがないために、血液中の糖を細胞内に取り込むことができないため、血液中にたくさん糖がある高血糖という状態になります。
人間を含め動物は、糖が血液中に多く存在する高血糖よりも、糖が少ない低血糖のほうが命に危険が及ぶといわれています。つまり、犬がキシリトールを摂取するということは、命にかかわる危険な状態に陥るかもしれないということです。
低血糖になると、以下のような症状が見られます。
- ふらつき
- 活動量の低下
- 嘔吐
- 下痢
- 傾眠
- 沈鬱
これらの症状が見られても治療を行わなかった場合には、さらに悪化し、次のような症状が現れます。
- 虚脱
- けいれん発作
さらに症状が進行すると、最終的に死に至ります。低血糖は非常に危険な状態なのです。
肝臓へのダメージから「急性肝不全」に陥ることもある
犬がキシリトールを摂取した場合に、注意すべき症状として、低血糖以外に急性肝不全があります。具体的にどのような作用機序かは明らかになっていません。
キシリトールを代謝する際にATP(アデノシン三リン酸)が消費されることか、もしくは肝細胞に障害を与える活性酸素が産生されることが、肝臓の壊死に関与していると考えられています。
犬に中毒症状が現れる目安時間は早ければ30分以内
キシリトールを誤食した場合、低血糖症状がみられるのは、摂取後大体30分から60分以内だと言われています。
しかし、犬によっては12時間経過した後に症状が現れる場合もあり、摂取後24時間は獣医師の監視下で入院管理することが望ましいとされています。
犬にとって危険なキシリトールの摂取量
キシリトールによって中毒症状を発症するかどうかには、食べた量に関係します。つまり、たくさん食べたほうが、より危険性は増すということです。しかし、少量であった場合でも、条件によっては危険な状態に陥ります。
では、どの程度食べると中毒を起こす危険性があるのか、具体的に説明します。
低血糖になる危険性がある摂取量
キシリトールを食べて中毒症状を起こすかどうかは、その犬の状況により異なるため、具体的な致死量は明らかになっていません。
しかし、100mg/kg、つまり10kgの犬が1gのキシリトールを摂取すると、中毒症状を起こす可能性があるという報告があります。一般的なキシリトール入りのガムには、1粒に0.5gのキシリトールが入っているので、2粒で中毒症状を起こす危険性があるということになります。
空腹時の誤食はさらに危険
前述したとおり、キシリトールを摂取して中毒症状を起こすかどうかは、その犬の状況によって異なります。
中毒症状の発症の有無にかかわるものに、咀嚼の有無や、摂取した製品の形状などがありますが、特に注意しなければならないのは、空腹時かどうかです。空腹時はさらに低血糖になりやすく、少量でも危険です。
肝不全になる危険性がある摂取量
肝不全になるかどうかも、個体差がありますが、キシリトール500mg/kg以上の摂取は肝不全に関与しているという報告があります。
500mg/kgということは、10kgの犬に対しては5gということになり、キシリトール含有量が1粒あたり0.5gのガム10粒分です。
犬がキシリトールを食べてしまった時の対処法
では、キシリトールを食べてしまった時はどのように対処すればよいのでしょうか。症状を悪化させないためには適切な対応が必要です。対応方法は低血糖症状の有無により異なります。
ここでは、飼い主さんができる対応方法と、動物病院で行われる可能性のある応急処置について説明します。
低血糖症状がない場合
これから起こるかもしれない低血糖に備えて、フードやおやつ、砂糖水などを少量与えましょう。
この時、必ず低血糖の症状である、意識の低下や脱力などが出ていないことを確認してから与えてください。心配な場合には、動物病院を受診しましょう。
低血糖症状がある場合
低血糖症状がみられる場合には、早急に動物病院を受診してください。低血糖は命の危険がある状態です。
その際、何をどれくらい食べたかわかるように、パッケージなど食べたものの詳細がわかるものがあれば持参しましょう。
家では無理して吐かせない
キシリトールについての記事の中には、摂取してしまった場合には、低血糖が起きる前に吐かせたほうが良いと書かれているものもあります。
催吐処置には誤嚥性肺炎などの危険が伴うため、知識を持たない飼い主さんが行うのはお勧めできません。もし行う必要がある場合には、必ず獣医師の指示に従って行動するようにしましょう。
包装紙も食べた場合
誤食の際に、包装紙も一緒に食べてしまった場合には、後日それらが排泄されたか確認しましょう。稀に未消化物としておなかに残り、問題となる場合もあります。
動物病院にて行う血液検査の測定項目
動物病院ではまず、血糖値の測定を行い、低血糖の有無や程度を確認します。低血糖に陥っている場合には、グルコースの投与を行います。
血糖値と同時に、電解質やリン、肝酵素を測定します。低カリウム血症や低リン酸血症の場合には、それぞれを補充する治療を行います。急性肝不全の場合には、肝臓保護剤や抗酸化剤の投与を行います。
動物病院で催吐処置を行う条件
キシリトールが吸収される前であれば吐かせることによって、低血糖を回避できます。よって、動物病院への受診が摂取後30分以内だった場合には、催吐処置を行う可能性があります。
この処置を行う場合には、衰弱が見られないことが前提です。衰弱している状態で嘔吐すると、誤嚥を起こしてしまう危険性があるため、無理に吐かせることはしません。
また、吸収されてからでは意味がないため、摂取してから時間が経過している場合には行いません。
動物病院で行う低血糖の治療法
低血糖症状を示す場合には、グルコースの点滴を行い、血糖値を改善します。それと同時に電解質の補正も行います。血糖値と電解質は定期的にモニタリングする必要があるため、入院管理となります。
まとめ
人間では、歯の健康に良いとされ、さまざまな製品に含まれているキシリトールですが、犬にとっては命の危険をもたらします。まずは犬の届く範囲にキシリトール含有製品を置かないことが重要です。
そして、もし誤って食べてしまった場合には、落ち着いて対処しましょう。食べてしまったことをどれくらい早く気付いけるかが、その後の状況に大きく影響を与えます。日ごろから愛犬の様子をみることを心がけてあげましょう。