犬の肛門腺の切除手術について【獣医師執筆】

犬の肛門腺の切除手術について【獣医師執筆】

肛門腺切除手術のを検討する飼い主さんもいらっしゃると思います。セルフケアも可能な肛門腺のケア、皆さんはどんなふうにされていますか?獣医師の視点から、愛犬の性格にあわせた肛門腺のベストケア法、肛門腺切除手術のメリット・デメリットなどわかりやすく解説しました。

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愛犬の肛門腺のトラブルから切除手術を考える飼い主

犬のお尻

自宅でのケアで問題なく過ごせるワンちゃんもいますが、肛門腺のトラブルで病院にお世話になるワンちゃんも多いことをご存じですか?

獣医師の私が思い出す肛門腺といえば・・・遥かむかし、新米獣医師として仕事を始めた頃毎日のように肛門腺しぼりをしていたのを思い出しますね。肛門腺にトラブルが起こっていなければ、新米獣医師でもケアできる簡単な処置だということがお分かりいただけますでしょうか?

そんな肛門腺、毎回処置するのは面倒だし匂いも嫌という飼い主さんもいらっしゃるようです。そんな中「肛門腺切除」という手術で肛門腺の問題を解決したいというご相談を受けたことがあります。そこで、肛門腺のあれこれについてわかりやすく、それぞれのわんちゃんに必要なポイントがわかるようにお話してみようと思います。

犬の肛門腺は手術でとってしまっても良いのか

手術

これは一概に言いづらい難しい問題です。利点と欠点の両方について、ご説明しようと思います。

現代の犬には肛門腺は必須ではない

狩りをしたり縄張りを主張し、子孫繁栄してきた時代の犬達にとって肛門腺の匂いは「テレビニュース」並に重要な情報でした。しかし、現代の犬たちは狩りもしませんし人間のつくったテリトリーの中で暮らしていますよね。ですから、肛門腺がなくても困ることはないというのが事実です。

犬の肛門腺を取ることの利点

肛門腺を絞り出そうとすると、お尻の穴をぎゅーっと掴む感じになりますよね。これを痛がるワンちゃんや嫌がるワンちゃんは多いです。「一度やってみたら痛がって、次からお尻を触らせてくれない」と来院される飼い主さんもいらっしゃいます。

もっとひどくなると、病院でも怒って噛み付こうとして大変な場合もありますね。そんな怖がりのワンちゃんにとって、肛門腺を手術で取るということは大きな利点があります。肛門腺をとってしまえば、溜まることがなくなり絞る必要もないからです。

肛門腺膿瘍の予防

肛門腺の入り口が長期間詰まってしまい、分泌液が溜まり続けることで肛門腺が化膿することがあります(肛門腺膿瘍)。お尻の横が大きく腫れあがり強い痛みを感じ、放置しておくと皮膚が裂けて血膿がでたり穴があいてしまうことも。肛門腺をとってしまえば、このような膿瘍を予防することができます。

肛門腺の分泌液は犬それぞれの体質によって、粘り気が強かったり、固形になりやすかったりします。こういうタイプのワンちゃんは、分泌液が中で詰まって肛門腺膿瘍が出来やすいため、定期的に肛門腺を絞って中を空っぽにすることが勧められます。

犬に肛門腺がなくなる欠点

愛犬の精神面での欠点

人間からは、犬の気持ちは想像することしかできませんよね。匂いがとても重要な情報源である犬たちにとって、肛門腺の匂いは自分の個性を表すものです。人間に例えて言えば、「自分らしい服装」とでもいえば近いかもしれません。

そこで、肛門腺を手術でとってしまうことは、愛犬が自分のウンチを嗅いでも自分の匂いを感じることができなくなるということではないかと私は思います。もちろん、皮脂や汗の匂いも自分の匂いですが人間でも嗅ぎ取れるほどの肛門腺の匂いにはかないません。

肛門腺を失った愛犬は「素っ裸」で公園にいったり、他の犬と会っているような気持ちになっているのかもしれません。もちろん、時間がたてばその状況に慣れてくれますが自分をアピールする匂いがなくなるというのは、愛犬にとって嬉しいことではないかもしれないと私は考えています。

手術の後に考えられる欠点

手術というと、体にメスをいれるということ。やはり気になる部分のある飼い主さんは多いようです。そんな飼い主さんたちが聞いてみたいポイントについてもお答えしてみますね。

肛門腺切除手術でウンチが出にくくならないか

この点については、やはり手術の方法やその獣医師が手術に熟練しているかどうかなどが関係してくると思います。キチンと手術する先生が執刀して、術後のケアもキチンとできていればウンチが出づらくなるということは考えにくいです。肛門腺は、肛門周囲のほんの一部の組織に過ぎないので術後化膿などを起こさなければそれほど心配ないと思ってよいですよ。

脱肛の原因になることはないか

脱肛というのは、ウンチが出づらい状態が続くことで踏ん張りすぎておこります。肛門のすぐ内側にある直腸(大腸の一部)が裏返って肛門からはみ出てしまい、痛みをともない不快感の強い状態が続きます。

手術の直後は、肛門に違和感や不快感を覚えるなどして、踏ん張り気味なってしまうと脱肛が起こりやすくなるかもしれません。また術後は一定期間、手術した部位をなめないようにエリザベスカラーなどを使うことになりますが、神経質なワンちゃんには手術した上にエリザベスカラーをつけられて、おしりをなめることはできないのは、大きなストレスになるでしょう。そのような場合には、肛門腺にトラブルのない限り肛門腺切除手術は向かないかもしれないということですね。

脱肛ではなく、ウンチが愛犬の意思とは関係なく出てしまう「便失禁」が起こることがあります。これは手術を行った時に、肛門を締めておく「肛門括約筋」が傷つけられてしまったり、肛門括約筋の一部も切除しなければならなかった場合に起きることがあります。

手術を考える前に知っておきたい「犬の肛門腺の役割」

肛門腺は、犬・猫・たぬき・狐・スカンクなどの動物がもつ強烈な匂いのする分泌液を作り出しそれを溜めておく組織を言います。お尻の穴を時計の中心に例えると、4時と8時くらいの位置に肛門腺から繋がる管の出口が穴となって見ることができます。

犬にとって個性=肛門腺

人間が友達や敵を見分けるときは「見」ますよね。でも犬たちはモノクロに近いソフトフォーカスのかかったような視力しかもっていません。オオカミ時代、暗がりでじっとしている獲物を捕まえるために嗅覚と聴覚を発達させたためと考えられています。ですから、犬は「相手の匂い」「相手の出す音」で相手を見分けるということです。

お散歩中、よそのおうちのワンちゃんのオシッコのあとを鼻をくっつけるようにして嗅いでいる愛犬を見たことがありませんか?人間のとは比べものにならないほど鋭い嗅覚を持っているのに、他人のウンチやおしっこをあんなに一生懸命嗅いでいるのには理由があるんです。

犬がウンチをするとき、お尻の穴を通過するときに肛門腺の管をぎゅっと絞るようにして出てきます。そうすると、ウンチに肛門腺から出た分泌液のトッピングができるわけですね。ウンチのなかには、その犬の食事や環境の匂いが、肛門腺からの液にはその犬自身の匂いがついているんです。

犬のウンチと肛門腺の匂いをよく嗅いで、「この犬はどんなやつなのか?今の体調は?」などを判断していると言って良いでしょう。肛門腺の匂い=愛犬のプロフィール付き名刺と考えていただけるとわかりやすいですね。

犬の肛門腺はどうしたら良いのか

お尻を隠す犬

利点、欠点の両面についてお話しました。そこでご自分の愛犬と肛門腺の関係についてしっかり整理しておきましょう。

飼い主さんがセルフケアしてあげられるワンちゃんの場合

肛門腺の溜まるペースは、個々・年齢によっても変わってきます。お尻をむず痒がる(おすわりの姿勢でお尻を地面にこすりつける)様子や、お尻を盛んに舐めて気にする場合はケアしてあげましょう。

セルフケアの方法

肛門腺は強烈な匂いがします(腐った魚のような・・・)。汚れても困らない服装、場所を選んで行いましょう。私個人的には、シャンプーするときにお風呂で絞って洗い流してしまっています。お風呂以外で絞る場合は、トイレットペーパーやティッシュを3重くらいにかさねてお尻にあててしぼりましょう。

犬の肛門線の絞り方
  • 利き手と反対の手で尻尾をあげます。
  • お尻の穴を中心と考えて4時と8時の少し外側に、利き手の親指と人差し指を当てます。
  • 指をお尻の穴をはさむような気持ちでぐっと押し込みます。
  • コロコロとした袋状のものに触る感じがしたら袋ごと親指と人差し指でつまむようにして手前に引っ張ります。
  • 管が詰まっている場合出づらいことがあります、あくまでもセルフケアですので無理せず行ってください。

上記の方法でセルフケアできない場合は、プロの手腕が必要です。トリミングサロンや動物病院で気軽にやってもらうこともできるので実際にどんな風にするのが見学するのもいいですね。

怖がりでおうちの肛門腺のケアが難しい場合

この場合は、無理せずプロの手を借りましょう。獣医師やトリマーさんは、肛門腺の処置に慣れています。短時間できれいに処置してくれるので、愛犬にとってもストレスが少ない方法です。

無理なセルフケアで「肛門腺絞り恐怖症」にしてしまうくらいなら、初めからプロにやってもらうのも賢い方法。使えるものは上手に使って、愛犬にとって快適でストレスのない毎日を送らせてあげましょう。

動物病院やトリミングサロンでもケアが難しい場合

この場合は、肛門腺切除手術をおすすめします。
全身麻酔が必要ですが、それほど複雑な手術ではありません。費用的にも不妊手術と同じくらいが相場ではないでしょうか。肛門腺絞りを「全身で拒否」して嫌がるということは、それだけ大きなストレスだということです。定期的にそんな大きなストレスをかけるよりは、手術でとってしまった方が良い場合もあるでしょう。不妊手術と同時に行う飼い主さんもいらっしゃるようです。

犬の肛門線の切除手術に関するまとめ

犬の肛門腺、と単純にいっても、わんちゃんそれぞれの悩みがあると思います。「こういうときどうしたら良いかな?」とおもったら、バカバカしいと思わずに獣医師に気軽にお尋ねください

動物のスペシャリストとして、犬の気持ち・飼い主さんの負担いろいろを考えてお返事するのが獣医師の仕事。「こういうときってどうしたら良いですか?」という質問は大歓迎ですよ。

肛門腺のケア、うちの子にぴったりのケアを見つけて飼い主さんと愛犬どちらもハッピーに毎日を過ごせると良いですね。

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