家の中で起きる愛犬の誤飲誤食事故
時代の変化とともに、昔は屋外、今は屋内で飼育されることが多くなったわんちゃん達。
そういった生活環境の変化から、犬と飼い主さんが出会うトラブルも刻々と変化しています。
獣医師として動物病院に勤める中で、「どの家庭でも起こりうる」と思う事故もたくさんありました。
そんな愛犬と飼い主のトラブル、気をつけたい点について例をあげながらまとめてました。
犬に誤飲誤食させてはいけない室内にある毒物
室内で飼育することで、愛犬とのコミニュケーションが増え、病気や体調不良の早期発見ができる機会も増えています。
その反面、人間と近く暮らすことで危険な目に遭うこともあるんですよ。
お母さんの薬を飲んで死線をさまよった龍くん
龍くんは、かわいい豆柴の男の子。
お子さんが皆さん大きくなられて、子育てが一段落し寂しくなった一家のアイドルとしてたいへんかわいがられていました。
そんな龍くんがいきなり、緊急で病院に担ぎ込まれたのです。
完全に意識不明で呼吸もかぼそく、命が危ぶまれる状態・・・。
即刻入院となり、血液検査で原因を探り点滴で治療を開始しました。
肝機能の数値が大変高く意識障害があることから、毒物を口にした可能性が高いため、自宅で食べてしまった可能性があるものを探していただきました。
その結果、龍くんが食べてしまったのは「お母さんの風邪薬」であることが判明しました。
点滴治療で、3日後にやっと意識をとりもどした龍くん。
飼い主さんは、テーブルになんとなく放置しておいたお薬のことを深く悔やんでいらっしゃいました。
人間が飲む風邪薬、実は犬にとっては毒になってしまうことをご存じでしょうか?
動物病院で処方される薬は、人間のものを利用しているものもありますが、しっかりと検証された犬の健康に害のないものだけを使っています。
頭痛薬、風邪薬の成分には犬にとって有害な成分が入っています。
もちろんそれ以外の薬でも、人間の飲む量を体重が半分以下の犬が飲むことで大きなトラブルになることもあります。
お薬は、お子様や犬が届かずしっかり密閉出来る場所に保管しましょう。
涼しくしてあげたいという親心がアダになった、リンちゃん
リンちゃんが、大慌ての飼い主さんに抱かれて病院に来院されました。
飼い主さん曰く「暑いから、凍らせても硬くならない枕を与えたら、かじって舐めてしまった」とのこと。
病院のスタッフは、それを聞いて真っ青になりました。
実は、凍らせても硬くならないアイスパックには不凍液が入っていることが多いからです。
不凍液とは、車でも使われている凍らない液体で、主成分はエチレングリコールという化学物質です。
このエチレングリコール、非常に危険な液体なんです。
体に入ると嘔吐・多飲多尿・意識混濁などを引き起こしてしまいます。
この不凍液は困ったことに、甘くて美味しいという特徴があります。
犬が唯一感じることのできる味覚が甘味であるため、不凍液はまさに甘く危険な罠。
そしてさらにこのエチレングリコールは、体内で危険な物質に変化して腎臓にも負担をかけます。
噛みグセのあるワンちゃんには、冷えるグッズも気をつけて使用するようにしてください。
万が一、噛んで中身を飲み込んでしまった場合は、その現物をもって動物病院でご相談ください。
商品名などで内容を確かめ、的確な処置を行うことができます。
意外に多い油かす好きのワンちゃん
愛犬家の夢は、自宅の素敵なお庭で愛犬とくつろぐ時間だといっても過言はありませんよね。
そんなお庭で多い事故が「油かす」の誤食事故です。
油かすは、大豆油などの絞りかすを利用した肥料の一種です。
しかし、油は日にちが経つと酸化して有毒な油に変化していきます。
ニオイで「美味しいもの」を判断するワンちゃんたちにとって、油のニオイはまさにご馳走の証。
お庭で、花や樹木のためにまいた油かすを食べて、嘔吐がとまらなくなる事故が大変多いんです。
そのほかにも、ナメクジ除去剤は酵母のニオイがするため、犬が誤食する事故が絶えません。
これらの有毒物質は、食べて症状が出ている時点では出来る治療が少ないこともあります。
いつ・どれくらいの量を食べてしまったのかによって、治療も変わる場合があるのでキチンと把握することが大事ですね。
お庭では、有毒植物にも注意したいですが、油かすには一番注意が必要だと知っておきましょう。
かじり癖のある愛犬は要注意!誤飲誤食につながるもの
子犬では歯の生え変わりの時期に、ムズムズしていろんなものを噛んでしまうワンちゃんは多いようです。
そのほかにも成犬であっても、お留守番など暇になってしまうとイタズラをやめられないワンちゃんもいますよね?
私が出会った「びっくりする」誤食の例をいくつかご紹介しましょう。
ゴールデンレトリバーのゴンちゃんの武勇伝
ゴンちゃんは可愛いさかりの6ヶ月のゴールデンレトリバーです。
飼い主さんが、朝ゴミ出しのためにちょっと目を離したすきに大事件を起こしてしまいました。
ゴミ出しから帰った飼い主さんがみつけたのは、見事に破壊された木製の椅子でした。
足が一本完全にバラバラになっていて、いくら破片を組み合わせてみても、全然1本分には足りません。
レントゲンでは木材は写らないため、内視鏡で胃内の検査をすることになり全身麻酔に・・・。
犬の顎の力は、とても強いです。
実際に大型犬が本気で噛めば、人間の大人の腕の骨は簡単に折れてしまうくらいです。
ですから、ゴンちゃんにとって椅子の脚などポッキーをかじるようなものだったのでしょう。
結局胃腸を傷つける可能性があるため、ゴンちゃんは回復手術で椅子の残骸を胃から取り出すことになりました。
ちょっと目を離したすきに取り返しのつかない事故になることもあるので気をつけたいですね。
なんども胃切開をしたソラくん
病院の受付にソラくんをみると、スタッフは黙ってレントゲンの用意を始めます。
実はソラくん、誤食の名手。
飼い主さんの匂いのするものであればなんでも噛んで飲み込んでしまうこまったさんなんです。
この時も、ハンドタオルが胃の出口に詰まっており、胃切開をして取り除きました。
とくに衣類を飲み込むことが多く、靴下2足が胃から取り出されたことも。
繊維は消化できないので、胃腸に詰まり命に関わるトラブルになります。
家の中でともに暮らすからこそのトラブル、しつけも大事ですが、まず最初のきっかけを作らないという対策も重要ですよ。
犬のお散歩中に気をつけたい誤飲誤食
お散歩タイムは、飼い主さんと愛犬の一番の楽しみですよね。
一緒にあるく時間をゆったり楽しみたいのに、いろいろなものを拾ってしまうワンちゃんも多いようです。
そんなお散歩中に気をつけたい誤飲誤食についてもお話します。
ケンちゃんに海辺は厳禁
ケンちゃんは、海辺のお散歩は禁止です。
その理由は、なんども釣り針と釣り糸を飲み込んでしまっているからです。
もちろん、そんなものを捨てていく釣り人も悪いのですが、ケンちゃんがそれを食べてしまうことを覚えてしまったので、海辺のお散歩は禁止になりました。
海岸には、毒性のあるクラゲや魚が打ち上げられていることもあります。
犬にとって、死んだ生物の匂いはたまらなく興味深く、体につけてみたくなるワンちゃんも多いようです。
人間と異なる感覚を持っているワンちゃんたちの特性を理解して、気をつけて散歩コースを選びましょう。
いつまでたっても減らない毒入り餌事件
犬の散歩道や公園に毒入り餌をまく悪意のある人間は後を絶ちません。
お散歩するときはリードを短く持って、愛犬が地面のものを食べることのないようにしましょう。
普段から、愛犬が食べる時に口周りに触れたり、口を開ける練習をすることで、いざ不審物を食べた時に「オフ」など掛け声を決めて、口から一旦出すという躾をされるのもオススメしますよ。
毒入り餌は、犬への悪意の印。
飼い主さんには大好きな愛犬でも、犬の嫌いな人もいることを忘れずに、いろんな人がいる公園ではキチンとマナーを守って礼儀正しく行動することが必要です。
犬を見ないで井戸端会議・・・ノーリードでのお散歩、糞のおきっぱなしなど迷惑行為をみんなでなくしていけば、愛犬家もそうでない人も楽しめるお散歩コースが作れますね。
愛犬が誤飲誤食させないために心がけること
犬と人間では「食べていいもの、わるいもの」の感覚が全く違います。
ともに暮らす家族でも、私たち人間とは違う祖先、違う感覚をもつ愛犬たち。
その気持ちや考え方をしっかり理解して、危険な目にあわないように気をつけてあげられるのが人間です。
気をつけていても、しまった!という場合には落ち着いて行動しましょう。
飲んでしまった・食べてしまったもののパッケージをチェックし、消費者センターに問合わせれば毒性などの情報を教えてもらえます。
そのままパッケージを持って、動物病院に行くのも良案ですね。
どんなものをどれくらいの量食べてしまったのかわかると、治療がスムーズに進みます。
予防策
誤飲誤食は、たいてい飼い主さんの目の届かないところで起きてしまいます。
ですから、目を離すときはサークルやクレートを利用して、安全にお留守番できる環境をつくりましょう。
お散歩の時に誤飲や誤食が多いワンちゃんの場合は、顔を上げて散歩する習慣付けや、コースの選択、見た目は悪いかもしれませんが、口輪を使うことも愛犬の身を守るために必要ですよ。
ほんの少しの注意で、危険のない楽しい毎日を送ることができます。
愛犬のため、しっかり人間が考えて対策してあげることが大事ということがわかりますね。
ユーザーのコメント
40代 女性 SUSU
ハンガーやスリッパ、破壊したおもちゃのかけら、真っ青になったことは何度もあります。
家の中の物については極力注意をしてきたつもりでしたが、ある時、マンションの一斉点検でテレビの電波状況を確認するための業者の方が我が家にいらしたことがありました。点検が終わりその方が帰った後すぐに愛犬がテレビのそばで何かを咥えて遊んでいるのを見つけました。
おやつに気をそらしてもらっている間に取り上げて確認したところ、何かの錠剤でした。我が家では見たこともない色の薬でしたので、恐らくその業者の方が落として行かれたのだと思います。少し噛った後はありましたが、幸いにもカプセルに歯形が付いたのみで薬剤を飲み込んではおらず、大事には至らなかったのですが、他人の薬の場合にはどんな薬なのかも分からないため、非常に危険だと思います。業者の方など来客の方が何かを落とすということもありますので、家の中に人が入った後には念のために、確認をすることも大事かと思います。
なお、愛犬も落ち着いた年齢となった今、若い頃にしていたような拾い食い、家の中で珍しいものを何でも食べてしまうといったこともなくなってきたように思います。落ちているよ!と鼻でつついて教えてくれることはよくありますが、ありがとうとお礼をいうとそのまま去っていきます。
パピーの頃に比べて精神的に大人になったことが一番の理由だと思いますが、他に思い当たることといえば、頭ごなしに取り上げようとしないように心がけたということだと思います。
取られる!と思うと確認をする間もなく急いで食べてしまおう!と思うのも当然なのかもしれません。
錠剤など非常に危険なものは論外ですが、何だろう?と興味を持って近づいてきたものを全て取り上げてしまうよりも、そのままにしておくと、十分に匂いを嗅いで確認すると満足して立ち去ることも増えてきました。これはお散歩中も同じで、食べ物の匂いがあれば何だろう?と確認をしていることもあります。ついリードを引っ張って引き離してしまいたくなりますが、ここはぐっと我慢をして待つようにしています。すると、以前はとりあえず口にしていたのに匂いを確認し終わったら食べずに立ち去るようになりました。
取られると思うから取られるよりも前に食べてしまう→飼い主さんは余計に反応して取り上げるようになる→ワンコはますます興奮してそれよりも早く口に入れることばかりを考えてしまう→食べられる物かどうかの確認もないまま飲み込むことになり、危険な誤食が増える、といった負の連鎖になってしまうことも多いように思います。
お散歩から帰宅後、我が家では少し食べるのに時間のかかるおやつをあげることにしています。その際、待てなどせずにさっと渡すようにしています。もし自分の立場だとしたら、お腹が空いて帰ってきているのに、食べ物を目の前まで出しておいて待て!と言われるのはとても嫌な思いがするだろうなと思うからです。お散歩中によく分からない食べ物を食べなくても、帰ったらすぐにおやつがあるといった心の余裕、精神的な安定もこういった問題行動をなくすきっかけになるのではないかなと思っています。
女性 ラムネ
ワンコの性格にもよりますが、基本、噛むことが大好きなワンコは何でも口に入れます。
そして、匂いに敏感なワンコは意外なところにあるものにあってもすぐ見つけます。
我が子は幸いなことに誤飲はありませんが、親戚んちのワンコについてお話しします。
親戚んちのワンコはとにかく【かみ癖】が半端なく、家にある、ありとあらゆるものを噛むことに楽しんでおりました。ところがいつからかそれがエスカレートして意外なものを噛み砕いて飲み込んでいることに気付いたそうです。
病院に行き、検査したところお腹に入っていたのはぬいぐるみの残骸(目玉、耳、鼻などの付属品部分)。もちろんすぐにお腹を切開して取り出す手術を受けました。
ところが、それと一緒に叔母のストッキングも出てきたそうです。
びっくりですよね。まさか美味しくもないぬいぐるみやストッキングを飲み込むなんて・・・とはいえお腹空いていたんでしょうか?!それとも噛んだ勢いで飲み込んだのかもしれません。
それ以来、ワンコの周りのものには注意していたそうですが、またもや誤飲で手術をを受けたと知りました。二度目は遊んでいたゴムボールの残骸。恐らく部屋の隅っこにあった埃の塊などがそのまま出てきたそうです。。。全く呆れますね。※その子は1日2回のご飯はしっかり与えてもらっています(笑)
とはいえ、誤飲は飼い主の責任でもあります。その子は2回の切腹手術を受けたことで命には別状ありませんでしたが、切らなくてもいいお腹を2回も切ることになったのは決していいことではありません。
記事にもあるように、私達人間が「まさか、これは大丈夫だろう」なんて思っていてもワンコにとっては匂いがあれば区別が付かないので口に入れてしまってもおかしくはありません。
これは大丈夫なんていうものはありません!!!
ワンコの目につくところ、ワンコの届くところに誤飲しそうなものがないか、改めて確認しましょう。