犬がクンクン鳴く主な理由
愛犬がクンクン鳴くのには、さまざまな気持ちが隠されています。その声に込められた主な理由を理解することが、愛犬とのコミュニケーションの第一歩です。
甘えたい・注目してほしい
犬がクンクン鳴く最も一般的な理由の一つが、飼い主さんにもっと構ってほしい、注目してほしいという気持ちです。そばに来て見つめたり、前足で軽く触れたり(パウイング)しながら鳴くのは、甘えたいサインかもしれません。過去に鳴いて応じてもらえた経験から学習している場合もあります。
不安や恐怖を感じている
雷や花火の大きな音、見慣れない人や場所、あるいは飼い主さんと離れること(分離不安症・分離不安障害)など、犬が不安や恐怖を感じた時にクンクン鳴くことがあります。体を震わせたり、落ち着きなく動き回ったりといった他のサインが見られることも。犬は繊細な動物なので、何かに怯えているのかもしれません。
要求を伝えようとしている
「お腹が空いた」「散歩に行きたい」「遊んでほしい」など、具体的なことを飼い主さんに要求している場合もクンクン鳴きます。これは「要求鳴き」の一種で、目的がはっきりしているのが特徴です。賢い犬は、鳴けば要求が通ることを学習していることがあります。
興奮している
クンクン鳴きは、必ずしもネガティブな時だけではありません。嬉しいことや楽しい遊びを前にして、期待感でワクワクと興奮している時にも、思わず声が出てしまうことがあります。尻尾を振ったり、飛び跳ねたり、口角を引く、瞳孔が拡大するといった喜びや興奮の表現と一緒によく見られます。
体調不良や怪我による痛み
最も注意したいのが、体のどこかに痛みや不快感があり、それを訴えているケースです。普段と違う弱々しい声で鳴いたり、特定の場所を触られるのを嫌がったりする場合は、病気や怪我のサインかもしれません。元気がない、食欲がないなどの他の症状も伴うことが多く、このような場合は直ちに動物病院へ相談しましょう。
犬がクンクン鳴くときの対処法
愛犬がクンクン鳴いているとき、どう対応すれば良いか悩む飼い主さんは多いでしょう。大切なのは、まず「なぜ鳴いているのか?」その理由を冷静に見極めることです。理由によって適切な対処法は大きく異なります。
甘えや要求で鳴くときの接し方
愛犬が「もっと撫でてほしい」「おやつが欲しい」といった甘えや要求でクンクン鳴いている場合、鳴いている最中にすぐその要求に応えてしまうのは避けましょう。「鳴けば言うことを聞いてもらえる」と犬が学習してしまい、クンクン鳴きがエスカレートする可能性があります。
効果的な接し方は以下の通りです。
- 犬が鳴きやんで落ち着くまで待ちます。
- 静かになったら、優しく声をかけたり、褒めたりしてあげましょう。
- 要求に応えるのは、犬が落ち着いた後、飼い主さんのタイミングで行います。
- 無視することも時には有効ですが、長時間の無視は逆効果になる犬もいるため、行動カウンセラーに相談する選択肢もあります。
例えば、ごはんの前にクンクン鳴く柴犬には、鳴きやんで「おすわり」や「マテ」ができたタイミングでごはんを与える、といった対応が効果的です。
不安や恐怖で鳴くときのケア
雷の音や知らない場所で愛犬が不安や恐怖を感じてクンクン鳴いている場合は、安心感を与えることが最優先です。叱ったり、無理に音に慣れさせたりするのは逆効果になることがあります。
飼い主さんができるケアは以下の通りです。
- 落ち着いた優しい声で話しかけ、そばにいてあげましょう。
- 犬が安心できる自分だけの場所(クレートやベッドなど)に誘導します。
- 可能であれば、不安の原因となっているものから遠ざけます。
- 優しく体を撫でたり、マッサージをしたりするのもリラックス効果が期待できます。
- お気に入りのおもちゃや毛布などで気を紛らわせてあげるのも良いでしょう。
犬の恐怖症状には、徐々に刺激に慣らす「系統的脱感作」や、不安を別の行動に置き換える「拮抗条件付け」といった行動療法が効果的なこともあります。何に対して不安を感じやすいのかを日頃から観察し、事前に準備しておくことも大切です。
興奮を落ち着かせるコツ
嬉しい時や楽しい時に興奮してクンクン鳴くのは自然な行動ですが、あまりにも興奮しすぎてコントロールが効かなくなる場合は、落ち着かせる練習が必要です。
興奮を鎮めるためのコツは以下の通りです。
- 一度「おすわり」や「フセ」などの指示で落ち着かせます。
- 決まったマットの上で静かにする練習(マットトレーニング)も効果的です。
- 興奮がおさまるまで、静かに待つ時間を作ります。
- おやつやおもちゃで注意を引き、落ち着いた行動を促します。
- 興奮しやすい状況が予測できる場合は、事前に少し運動させておくのも良いでしょう。
体調不良が疑われるなら動物病院へ
クンクン鳴きに加えて、元気がない、食欲不振、嘔吐、下痢、震え、触ると痛がるなど、普段と違う様子が見られる場合は、自己判断せず早めに動物病院を受診しましょう。犬の正常体温(38~39℃)や安静時呼吸数(10~30回/分)を目安に、異常を感じたら獣医師に相談してください。
犬がクンクン鳴きをやめさせるしつけや予防策
犬のクンクン鳴きは、時に飼い主さんの悩みの種になることもありますが、適切なしつけや日頃の予防策によって、ある程度コントロールすることが可能です。大切なのは、愛犬との信頼関係を築き、犬が安心して暮らせる環境を整え、一貫したルールを教えることです。
欲求不満にさせない工夫(運動・遊び)
犬がクンクン鳴く理由の一つに、エネルギーが有り余っていたり、退屈している「欲求不満」があります。これを解消するためには、毎日の適切な運動と遊びの時間を確保することが非常に重要です。
具体的な工夫としては、以下のようなものがあります。
- 犬種や年齢に合った十分な散歩時間を確保します。
- ドッグランで思い切り走らせたり、他の犬と交流させたりします。
- 室内でも、おもちゃを使った引っ張りっこやボール遊びを取り入れます。
- 知育トイ(パズルトイ)を使って、頭を使う遊びをさせるのも効果的です。
例えば、ボーダー・コリーやジャック・ラッセル・テリアのような運動能力が高い犬種は、運動不足がストレスに繋がりやすいため、特に意識してエネルギーを発散させてあげる必要があります。
安心できるテリトリーを作る
犬にとって、自分だけの安心できる場所(テリトリー)があることは精神的な安定に繋がります。特に不安を感じやすい犬や留守番が苦手な犬には、クレートやサークルを快適な寝床として用意し、そこに慣れさせる「クレートトレーニング(ハウストレーニング)」が有効です。クレートが「安全で落ち着ける場所」と認識できれば、雷が鳴った時や来客時などに自ら避難したり、留守番中の不安を軽減する効果が期待できます。クレートは、犬が立って方向転換できる程度のサイズが目安です。
「マテ」や「静かに」のコマンドを教える
興奮している時や要求でクンクン鳴いている時に、「マテ」や「シズカニ(またはシー)」といったコマンド(指示語)で落ち着かせる練習も効果的です。最初は短い時間から始め、犬が指示に従って静かにできたら1秒以内に褒めてご褒美をあげます。これを繰り返すことで、犬は「静かにすると良いことがある」と学習し、飼い主さんの指示で興奮を鎮めたり、無駄鳴きを抑えたりできるようになります。根気が必要ですが、日常生活のさまざまな場面で役立つでしょう。
要求鳴きには応えない
愛犬が「ごはんが欲しい」「遊んでほしい」とクンクン鳴いて要求してきたとき、その都度すぐに応えてしまうと、「鳴けば要求が通る」と学習してしまいます。これが習慣化すると、クンクン鳴きがエスカレートしてしまう可能性があります。
大切なのは、要求で鳴いている間は基本的に無視し、鳴き止んで落ち着いたタイミングで応えてあげることです。ただし、あまりに長時間要求が続く場合は、別室で数分間クールダウンさせる方法もあります。このルールは家族全員で統一し、一貫した態度で接することが非常に重要です。犬は賢いので、誰に要求すれば応じてもらえるかをすぐに見抜いてしまいます。
子犬の頃からの社会化トレーニング
将来的な不安や恐怖からくるクンクン鳴きを予防するためには、子犬の頃の「社会化期」にさまざまな経験をさせておくことが大切です。社会化期とは、生後3週齢頃から14~16週齢頃までの、新しい物事や環境、他の犬や人に順応しやすい非常に重要な時期を指します。この時期に、他の犬や多様なタイプの人と安全に触れ合わせたり、車の音や生活音に慣れさせたりすることで、成犬になった時に過度な警戒心や恐怖心を抱きにくくなり、問題行動の予防につながります。
犬がクンクン鳴くことで考えられる病気
愛犬がクンクンと鳴いている時、その背景には体の不調が隠れている可能性も考慮しなくてはなりません。以下に挙げる病名はあくまで考えられる可能性の一部であり、クンクン鳴きの原因は非常に多岐にわたります。愛犬の様子に異変を感じたら、自己判断せずに必ず動物病院を受診し、獣医師の診断と指示を受けてください。
関節炎
関節炎は、関節の炎症により痛みや腫れが生じる病気で、クンクン鳴きの原因となることがあります。特に高齢犬に多く、大型犬や肥満の犬も発症リスクが高いです。動き始めや特定の動作(階段昇降やジャンプなど)の際に痛がって鳴く、散歩を嫌がる、足を引きずる、触られるのを嫌うといった変化が見られます。
歯周病
犬に非常に一般的な歯周病もクンクン鳴きの一因です。歯垢や歯石内の細菌が歯ぐきや歯を支える組織に炎症を起こし、食事の際に口内の痛みや不快感から鳴くことがあります。毎日の歯磨きが重要な予防策です。
椎間板ヘルニア
椎間板ヘルニアは激しい痛みを伴い、突然キャンと鳴いたり、クンクン鳴き続けたりします。ミニチュア・ダックスフンドに多く発生します。軽度なら内科療法(安静・薬物治療)、重度なら外科手術が検討されます。
外耳炎
外耳道の炎症による外耳炎も原因となります。耳のかゆみや痛みが強く、耳を頻繁に振ったり掻いたりします。フレンチ・ブルドッグや垂れ耳の犬種で多く見られます。
認知機能不全症候群
高齢犬に起こる認知症です。夜間に理由なく鳴いたり、不安そうに徘徊したりします。サプリメント投与や環境エンリッチメント(刺激豊かな環境作り)が管理法として推奨されています。
上記以外でも、異物誤飲、胃腸炎、膵炎、けいれん、虚脱、青白い歯茎など緊急性の高い症状が現れたら直ちに動物病院へ行きましょう。
まとめ
愛犬がクンクン鳴くのには、甘えや不安、要求、そして体の不調など、さまざまな理由があります。そのサインを正しく理解するためには、日頃から愛犬の様子をよく観察し、状況や他の行動と合わせて考えることが何よりも大切です。
クンクン鳴きの理由に応じた適切な対応を心がけ、もし体調不良が疑われる場合は、決して自己判断せず、早めに動物病院の獣医師に相談してください。迷った時や判断が難しい場合も、獣医師や行動カウンセラーなど専門家に相談しましょう。
愛犬のクンクンという声は、飼い主さんへの大切なメッセージです。その声に耳を傾けることが、愛犬との絆をより一層深めるきっかけとなるでしょう。この記事が、その一助となれば幸いです。