犬がスキップするのは危険信号?膝蓋骨脱臼(パテラ)の可能性と対処法

犬がスキップするのは危険信号?膝蓋骨脱臼(パテラ)の可能性と対処法

犬が歩行中にスキップ(跛行)を見せる理由や、膝蓋骨脱臼(パテラ)の症状、原因、治療、予防法を詳しく解説。小型犬に多い膝関節のトラブルについて、日頃から飼い主ができる観察ポイントや適切な対応方法を紹介します。

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記事の監修

麻布大学獣医学部獣医学科卒業後、神奈川県内の動物病院にて勤務。獣医師の電話相談窓口やペットショップの巡回を経て、横浜市に自身の動物病院を開院。開院後、ASC永田の皮膚科塾を修了。皮膚科や小児科、産科分野に興味があり、日々の診療で力を入れさせていただいています。

犬がスキップするのはなぜ?

駆け足のトイプードル

犬が歩くときに時折見られる、片足を軽く上げる動作は「スキップ」と表現されますが、医学的には「跛行(はこう)」と呼ばれています。一見かわいらしい仕草にも見えますが、この動作の背後には犬の健康上の問題が隠れていることもあります。

一時的なスキップ|嬉しいとき

愛犬が喜んだり興奮したりしたときに、一時的に軽やかにスキップのような足を上げる仕草を見せることがあります。これは犬の感情表現や癖によるもので、通常は特に心配する必要はありません。ただし、犬のスキップが一過性であっても頻度や強度が増すようなら、念のため注意して観察しましょう。

慢性的なスキップ|病気の可能性あり

一方、犬が頻繁に、または継続的に特定の足をかばってスキップ(跛行)する場合は注意が必要です。慢性的な犬のスキップは関節の痛みや骨格の異常など、深刻な病気の可能性があります。

特に犬が足に触れるのを嫌がる、運動を避ける、痛そうな鳴き声をあげるなどの症状がある場合は、早めに動物病院を受診しましょう。

動物病院へ行くべき判断基準

以下のような行動が確認される場合は、獣医師による診察が必要です。

  • 跛行(スキップ)する頻度が徐々に増えている
  • 常に特定の足をかばって歩いている
  • 足を触ることを極端に嫌がる
  • 歩行に消極的になり、運動を避けるようになった
  • スキップ以外にも足を引きずるなどの歩き方の異常がある
  • 安静時にも痛がって鳴き声を上げる
  • 元気がなく、食欲が減少している

犬は痛みを我慢する習性があるため、飼い主が日頃から観察し、変化に早めに気付くことが重要です。

犬の膝蓋骨脱臼(パテラ)とは

抱きかかえられてしょんぼりとしている小型犬

膝蓋骨脱臼(しつがいこつだっきゅう)、通称「パテラ」は、犬の膝のお皿(膝蓋骨)が正常な位置からずれてしまう病気です。

特に小型犬に多く見られますが、犬の体格に関わらずどんな犬種でも起こる可能性があります。放置すると痛みや関節の異常が進行するため、犬のスキップが頻繁に見られる場合は早期発見と適切な対処が求められます。

膝蓋骨脱臼のメカニズム

膝蓋骨は本来、膝関節の溝(滑車溝)にぴったりとはまり、筋肉の動きと連動して膝を伸ばす役割を担っています。この膝蓋骨が外側や内側にずれてしまうことで脱臼が起こります。膝蓋骨がずれると関節の動きが不安定になり、違和感や痛みを感じることがあります。

膝蓋骨脱臼の重症度

膝蓋骨脱臼の重症度は一般的にグレード1から4まで分類されます。軽度のグレードでは飼い主が気づかないことも多く、重症になるほど日常生活に支障をきたします。

グレードが進むにつれて症状が顕著になり、場合によっては歩行困難となることもあります。グレードは獣医師が診察により判断しますが、状態は変化するため、定期的な確認が必要です。

特に注意が必要な犬種

遺伝的な要素が強く関わる膝蓋骨脱臼は、特に以下の犬種で発症リスクが高いと言われています。

  • トイプードル
  • チワワ
  • ポメラニアン
  • ヨークシャーテリア
  • マルチーズ
  • 柴犬
  • フレンチブルドッグ
  • ミニチュアピンシャー
  • パピヨン

これらの犬種を飼っている場合は、日頃から歩行状態を確認するなど、特に注意深いケアを心がけましょう。

犬の膝蓋骨脱臼の原因

階段を降りようとしている小型犬

犬の膝蓋骨脱臼(パテラ)が起きる背景には、生まれつきの骨格の特徴(先天的要因)と生活環境や事故などによる後天的要因が複雑に絡み合っています。

生まれつきの骨格異常(先天的要因)

膝蓋骨脱臼の大部分は、生まれつきの骨格の形状や位置に異常があることが原因とされています。具体的には、膝蓋骨が収まるべき大腿骨の溝(滑車溝)が浅かったり、膝蓋骨を支える靭帯がずれていたりすることで、膝のお皿が外れやすくなります。このような骨格上の問題は遺伝性が強く、特定の犬種では特に注意が必要です。

ケガや外傷による脱臼(後天的要因)

少ないながらも、交通事故や高所からの落下、激しい運動による強い衝撃によって膝蓋骨脱臼が起こることがあります。外傷をきっかけに膝関節周辺の組織が傷つき、関節の安定性が失われ、膝蓋骨が外れてしまうケースです。急に歩き方がおかしくなった場合や痛がっている場合は、このような後天的な原因を疑いましょう。

生活環境の影響

生活環境も膝蓋骨脱臼の発症や症状の悪化に関与します。特に、滑りやすいフローリングの床や頻繁なジャンプ、階段やソファなどへの激しい昇り降りは膝に負担をかけます。これらはもともと膝蓋骨脱臼になりやすい犬に対して症状を誘発したり、悪化させたりする要因となります。

肥満や筋力の低下

肥満は膝関節への負担を増やし、膝蓋骨脱臼のリスクや症状の進行を促します。また、筋力が衰えると関節の安定性が損なわれ、膝蓋骨が脱臼しやすくなります。適正体重の維持と筋力強化は、膝の健康を守るために非常に重要です。

犬の膝蓋骨脱臼の症状

片方の後ろ足を挙げている柴犬

膝蓋骨脱臼の症状は、その重症度(グレード)によって大きく異なります。初期は気づきにくいため、飼い主の日常的な観察が重要となります。

グレード1|目立った症状がない

グレード1は最も軽度であり、通常の生活ではほとんど症状が見られません。獣医師が触診して初めて膝蓋骨の不安定さが確認される程度で、飼い主が自宅で気づくことはまれです。

負担のかかりやすい環境や体重のわずかな変化でグレードがすぐに上がることもあります。

グレード2|ときどき跛行(スキップ)が見られる

グレード2になると、歩行中にときおり片足を上げる「跛行(スキップ)」という症状が現れます。膝蓋骨が自然に脱臼し、数歩のうちに自然に戻るのが特徴です。この段階でも痛みがあまり強くないため見過ごされがちですが、注意深く観察することで早期発見につながります。

グレード3|常に足をかばい続ける

グレード3では膝蓋骨がほぼ常に脱臼状態にあり、歩行時に明らかに足をかばうようになります。痛みや違和感から運動を嫌がり、活動量が低下する犬も多くなります。この段階になると飼い主も異変に気づきやすくなります。

グレード4|正常な歩行が難しい

最も重度のグレード4では、膝蓋骨は常に脱臼していて、手で戻すことも難しくなります。膝の骨が変形してしまっていることも多く、正常に歩くことは非常に困難になります。このような状態では明確な歩行障害が見られ、治療が必要です。

日常的に愛犬の歩き方や座り方、活動レベルの変化を注意深く観察し、早めに変化に気づくことが症状の悪化を防ぐ上で大切です。

犬の膝蓋骨脱臼の治療法

後ろ足に包帯を巻かれてケージで休むビーグル

犬の膝蓋骨脱臼の治療は、脱臼の程度や愛犬の年齢、症状の深刻さを考慮したうえで、獣医師が最適な方法を判断します。治療の選択肢として、症状の軽減を目的とした保存療法と、根本的に関節を安定させる手術療法があります。

保存療法(手術を行わない治療法)

比較的軽度の脱臼や症状が軽い場合、あるいは高齢や健康状態などで手術が困難な場合には、保存療法が選択されます。保存療法では主に症状の悪化を抑え、生活の質を保つことを目的としています。最近ではサポーターなども販売されています。

適正な体重管理
肥満を防ぐことで膝への負担を軽減し、症状の進行を抑えます。
運動制限と生活環境の改善
ジャンプや激しい運動を控えさせ、滑りやすい床にはマットや滑り止めを用いて環境を整えます。
獣医師が処方する消炎鎮痛剤の投与
獣医師の診断に基づき、痛みや炎症を緩和するための薬を適切に投与します。
サプリメントの活用
関節の健康をサポートするために、獣医師と相談したうえでサプリメントを利用することもあります。
リハビリテーション
筋力を維持し、関節の可動性を高めるため、獣医師や専門家の指導を受けて適切な運動療法を行います。

保存療法を行う際も、定期的な獣医師の診察が重要です。状態によっては手術への切り替えを検討する場合もあります。

手術療法(外科的治療)

脱臼の症状が重い、あるいは保存療法で改善が見られない場合には、手術による治療が検討されます。手術の目的は、膝蓋骨を正常な位置に安定させ、関節機能を回復させることです。

代表的な手術方法には、膝蓋骨がはまる溝を深くする手術や、膝蓋骨を支える骨の位置を整える手術があり、症状や犬の体格に応じて最適な方法が選択されます。

手術後は、適切なリハビリが必要となります。手術の選択や術後管理については、獣医師と十分に話し合いながら進めましょう。

犬の膝蓋骨脱臼の予防法

ソファからスロープで降りるコーギー

膝蓋骨脱臼は遺伝的要素が強いため完全に防ぐことは難しいですが、日々の生活環境や健康管理によって発症リスクを軽減し、症状の悪化を予防することは可能です。

床の滑り止めと段差対策

滑りやすい床は膝に大きな負担をかけます。特にフローリングの場合は、愛犬が滑らないようカーペットや滑り止めマットを敷くとよいでしょう。

また、市販の犬用滑り止めワックスを使用する場合は、安全性が確認された製品を選び、使用後は十分に乾燥させ、犬が舐め取らないように注意します。

さらに、ソファやベッドへの飛び乗り、階段の昇り降りは膝への負担が大きいため、ペット用のスロープや階段を設置したり、抱きかかえて移動させたりするなど、段差への対策を行いましょう。

適切な体重管理と適度な運動

肥満は関節に直接的な負担を与えるため、適切な食事と適量の運動で健康な体重を維持することが重要です。定期的な散歩など軽い運動を続けることで、関節を支える筋力がつき、膝の安定性が向上します。ただし、過度に激しい運動やジャンプは避け、獣医師と相談した上で適度な運動を行いましょう。

日常的な観察と早期対応

日頃から愛犬の歩き方や行動を注意深く観察し、違和感や異常があれば早めに獣医師に相談することが大切です。足を触られるのを嫌がったり、座り方が変わったりするなどの小さな変化を見逃さないようにしましょう。早期に問題を発見できれば、症状の悪化を防ぐことにつながります。

まとめ

原っぱを散歩するヨーキー

犬の歩行中に見られる跛行(スキップ)は、一時的な癖や喜びの表現だけでなく、膝蓋骨脱臼(パテラ)など関節疾患の可能性も示しています。特にトイ・プードルやチワワなどの小型犬に多く、遺伝的要因が関係しています。

滑りやすい床や肥満、筋力低下といった生活環境や体重管理の問題も症状の進行に影響します。日頃から愛犬の歩行や行動を注意深く観察し、異常に気づいたら早めに獣医師に相談することが重要です。

生活環境の整備、適切な体重管理、無理のない運動を継続することで膝蓋骨脱臼のリスクを軽減し、愛犬が健康で快適に過ごせる環境を整えましょう。

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