2018年7月にFDAが発表したドッグフードに対する警告
この半年ほどの間に、アメリカで犬の健康やドッグフードを取り巻く業界やネットフォーラムで、しばしば話題に上がっている単語があります。それが『タウリン』です。
そもそもの発端は、2018年7月にアメリカ食品医薬品局(FDA)が「犬の拡張型心筋症の症例が増加している。患者の犬に共通していたのは豆類や芋類が多く含まれるフードを食べていたこと」という警告を発表したことでした。
この拡張型心筋症を発症した犬にタウリン欠乏症が見られたこと、タウリンの補充が回復に有効だったことが、タウリンが注目されている理由です。
そもそもタウリンって何?
タウリンという言葉を聞くと、「タウリン1000mg配合!」などの人間用の栄養ドリンクに含まれている成分だと思い浮かべる方も多いかもしれません。
タウリンはアミノ酸の一種で、その主な働きは次のようなものです。
- 心筋を強化して心臓の機能を正常に保つ
- 血管機能の健康をサポートする
- 脂肪の消化に必要な胆汁酸の成分になる
- 目の網膜の機能を正常に保つ
- 生殖機能を正常に保つ
他にもいろいろな働きがありますが、主なものを挙げてみました。
特に1番最初に挙げた「心筋を強化して心臓の機能を正常に保つ」という働きが、今回問題になっている拡張型心筋症と関連が深く、タウリンが不足すると犬は心臓を健康に保つことができません。
犬は基本的には肉類に含まれているアミノ酸「メチオニン」と「システイン」から「タウリン」を体内で合成することができます。また、肉類や魚類にはタウリンそのものが含まれています。
一方、植物性のタンパク質にはタウリンは全く含まれません。タウリンの素になるメチオニンも少ないため、大豆やコーンなど植物性のタンパク質を多く使用しているドッグフードには、メチオニンやタウリンが添加されています。
つまり、肉類や魚類が十分に含まれている食餌なら、犬はタウリンを体内で合成することができるし、肉類の代わりに植物性のタンパク質が使われているフードなら必要なものが添加物として含まれているはずだということです。
それなのになぜ、ある条件のフードを食べていた犬にタウリン欠乏症が起こったのでしょうか?
過去の研究から推測されていること
実は警告を発表したFDAも、豆類や芋類が多く含まれるフードと拡張型心筋症の因果関係は、不明であると言っています。
「グレインフリー」と言われる麦などの穀類不使用のフードでは、豆類や芋類が使われていることから「グレインフリーフードは危険!」という根拠のない説が出たこともありますが、グレインフリーフード以外でも、芋類や豆類が多く使われているフードはたくさんあります。
過去15年の研究では、犬のタウリン欠乏についてのフードのリスク要因として関連が発表されたものは「大豆ベースのフード」「米ぬかが多く含まれるフード」「ビートパルプ」「高繊維フード」があります。
これらに共通するのは、フードに大量に含まれる食物繊維です。
本来タウリンは、小腸で消化活動を助けるために働いた後、再吸収されて再利用されるのですが、フードに大量の食物繊維が含まれているとタウリンは再吸収されずに便と一緒に排出されてしまいます。これらの繊維源が低タンパク質のフードに含まれていると、犬の血中タウリンレベルを低下させることは、最近の研究で明らかになっています。
芋類や豆類にも大量の食物繊維が含まれますので、これが犬のタウリン欠乏症、ひいては拡張型心筋症に関連しているのではないかと推測されます。
また、ほとんど全てのドライフードは高温で焼き上げて製造されています。この焼き上げる段階でできる「メイラード物質」は、タウリンを分解する腸内細菌を増加させることが分かっています。
タウリンについて気をつけたいこと
「うちの犬のフードにもポテトや豆が含まれている!」「原材料一覧にビートパルプという名前がある!」とパニックにならないでいただきたいのです。
これらの原材料は「犬が玉ねぎを食べると溶血性貧血が起こる」というような単純なものとは違います。原材料に含まれる=危険というわけでは決してありません。
犬がタウリンを体内合成する能力にも個体差や年代差がありますし、拡張型心筋症に遺伝的な要素が絡むことも考えられます。
また、「それならサプリメントでタウリンを補給すればいいんじゃない?」という声も多く上がっています。これも100%正解というわけではなく、個々の犬の健康状態や食事内容などで全く変わってきます。
タウリンを補給した方が良いかどうかは、まずかかりつけの獣医師に相談してみましょう。場合によっては血中のメチオニン、システイン、タウリンの濃度を検査することもできます。
タウリンという栄養素は、犬の心臓の健康において大切な役割を果たしていること、十分に摂取しているつもりでも欠乏症になるリスクがあり、そのリスクは何なのかを把握しておくことが大切です。これを知っていれば、なぜドッグフードのタンパク源は動物性のものの方が理想的なのかが分かりますし、植物性のタンパク質の場合に必要なアミノ酸が添加されているかどうかを確認することもできます。
まとめ
アメリカ食品医薬品局が豆類や芋類が多用されているフードと、犬の拡張型心筋症が増えていることについて警告を発表したことを皮切りに、タウリンという栄養素に注目が集まっているということをご紹介しました。
いろいろと不確かな「危険!」情報が発信されているので、パニックにならず冷静に対応するためにもタウリンのことを知っていただきたいと思います。
大切なことは、定期的に愛犬の健康診断を受けて、異常があれば早期対応できるようにしておくこと、ふだんから愛犬に与えている食事内容について理解しておくことです。
《参考》
https://www.fda.gov/animalveterinary/newsevents/cvmupdates/ucm613305.htm
https://www.fda.gov/AnimalVeterinary/ResourcesforYou/AnimalHealthLiteracy/ucm616279.htm
https://www.whole-dog-journal.com/blog/Please-Dont-Panic-About-the-Grain-Free-Thing-21893-1.html
https://www.whole-dog-journal.com/issues/21_9/features/DCM-in-Dogs-Taurines-Role-in-the-Canine-Diet_21901-1.html
https://thesciencedog.wordpress.com/2018/08/30/the-heart-of-the-matter/