カーミングシグナルとは
カーミングシグナルとは、「Calming=落ち着かせる」「Signal=信号」の意味を持つ、犬のボディランゲージの1つです。自分を落ち着かせるために行う感情のコントロールの手段であったり、相手を落ち着かせるために行うコミュニケーション方法です。
ノルウェーで犬の調教師をしているTurid Rugaas(トゥーリッド・ルーガス)氏によって提唱されたカーミングシグナルは、研究が進んだ今では約30種類ほどあると言われています。
愛犬とコミュニケーションをとる際に非常に有用なカーミングシグナルですが、果たしてどれだけの飼い主さんが知っているのでしょうか?
カーミングシグナルの認知度を調査するために、わんちゃんホンポで内で「カーミングシグナルを知っていましたか?」というアンケートを実施しました。
アンケート出典:https://nekochan.jp/enq/finish/66アンケートの結果、「知っていた」と答えた方は46.0%、「知らなかった」と答えた方は40.0%、「言葉を聞いたことはあるが詳しく知らない」と答えた方は14.0%という結果になりました。
アンケート結果を見ると、カーミングシグナルを知らない、もしくは言葉を聞いたことはあるがどんな行動かわからない、という飼い主さんが半数以上を占めていることがわかりますね。
犬は感情豊かな動物です。「大好き!」「嬉しい!」「楽しい!」「怖い」「寂しい」「甘えたい」など、様々な感情を表情や声だけでなく体を使って表現しています。
愛犬の気持ちをわかってあげたいと必死に読み取っているつもりでも、知らず知らずのうちに見過ごしてしまっているかもしれません。
犬のカーミングシグナルを理解しておくことは、愛犬の気持ちをわかってあげるだけでなく、わかることによって接し方も変わってくるため、それまで以上の良い関係性を築くことができます。
知っている方は復習の意味で、知らなかった方はこれから知って、愛犬との毎日を素敵なものにしてくださいね。
代表的なカーミングシグナル
犬は普段からさまざまなしぐさをするため、何がカーミングシグナルなのかわかりづらいことがあります。何気ないしぐさであったりほんの一瞬のしぐさであれば、見逃してしまうことも少なくありません。
また、同じしぐさをしているからといって同じ意味を持つわけでもないため、愛犬が置かれた状況によって見極めてあげることが大切です。
そのためには、時間をかけてじっくり愛犬を観察し、最初はすべてのカーミングシグナルを知ろうとするのではなく、1つ1つのしぐさに集中してみましょう。
そのカーミングシグナルが恐怖や緊張、不安やストレスを回避するためのものなのか、それとも喜びを伝えているのか、体のどこでどう表現しているのか、愛犬をしっかり観察してみてくださいね。
ここでは、代表的なカーミングシグナルを詳しく解説していきます。
あくび
あくびはどんな犬にも見られるカーミングシグナルですね。もちろん、犬が本当に眠くてあくびをしたり、飼い主さんのあくびにつられて連鎖反応であくびが出ることもありますが、叱られている最中にあくびをしたり、撫でられている最中にあくびをしたりといった姿を見たことはありませんか?
あくびは緊張やストレスを表すサインです。飼い主さんに叱られてあくびをするのは、飼い主さんを落ち着かせるためだけでなく、「もう叱らないでください」というお願いの意味が込められています。
叱っている最中にあくびをされると、「ちゃんと聞いてないのかな」「ごまかしているのかな」と思ってしまいがちですが、犬は叱られていることをわかってあくびをしています。
また、撫でられているときやお手入れ中にあくびをするのは、「もうやめて」と不快であることを伝えています。ストレスをたくさん感じたときや体調が悪いときも頻繁にあくびをするので、愛犬の様子をよく観察し、なぜあくびをしているのか見極めてあげましょう。
しっぽを振る
犬がしっぽを振っていたら喜んでいる、という単純なものではありません。しっぽは犬の興奮度を表すバロメーターなので、しっぽの位置や向きに注目してみましょう。
もちろん、ちぎれてしまうのではないかと心配するくらいしっぽを激しく振って喜びを表していれば「喜んでくれている」とすぐにわりますね。
しかし、しっぽが上向きでゆっくり振っている、もしくは下向きでしっぽの先だけを小刻みに振っている場合は、警戒しているときです。
しっぽがピンと立っていれば、「自分が偉いんだぞ!」という自信の表れとなり、しっぽをだらんと垂らしていたり、くるんとお尻の間に挟んでいれば「怖いな」と思っています。
しっぽが下向きで左右に大きく振っている、もしくは右側に振っているときは嬉しい気持ちですが、左側に振っていれば不安な気持ちを表しています。とは言え、しっぽの動きや上がり具合には個体差もあるため、しっぽだけではなく耳の位置や表情も合わせて判断してあげましょう。
お腹を見せる
犬にとって皮膚の薄いお腹は急所です。そのお腹を見せる理由は、信頼されているから...というだけではありません。
大好きな飼い主さんに撫でてほしくてゴロンとお腹を見せるときは、表情も穏やかであったり嬉しいといった顔をしています。更には、しっぽを左右に振ることもありますね。
このしぐさは信頼している、甘えているといった嬉しいものですが、ゴロンとお腹を見せたときに、顔を横に向けてしっぽがくるんと内側に巻き込んでいるのであれば緊張している状態で、「服従しています」「降参しています」といった、争いごとを回避するためのしぐさとなります。
叱っている最中にお腹を見せる犬がいるのは、「ごめんなさい、叱らないでください」というお願いの表れで、このときに「お腹を見せてごまかさないの!」と更に叱るのは信頼関係が崩れ、問題行動を起こすなどの原因となるため、絶対にしてはいけません。
鼻を舐める
犬の嗅覚は優れており、人間の100万倍~1憶倍の嗅覚を持つと言われています。視覚を失っても嗅覚によって日常生活にさほど支障をきたすことはなく、飼い主さんが気づかないこともあるというほど、犬の鼻はとても重要な器官です。その鼻をペロペロッと舐めるのも、カーミングシグナルであることがあります。
犬が鼻を舐めるのは、情報収集を行うために鼻を濡らしておくという本能からの行動であることが多いです。寝起きで鼻を舐めるのは乾いた鼻を湿らせる、これから活動するといったときに鼻を舐める、美味しそうなニオイがして無意識に舐める...これらは犬の自然な行為です。
しかし、犬は不安やストレスを感じたときに、自分の気持ちや相手を落ち着かせるために鼻を舐めることがあります。嫌なことをされているときや飼い主さんに叱られているときに鼻を舐めるようであれば、カーミングシグナルとなります。
ただし、何度も鼻を舐めているようであれば病気の可能性もあるため、獣医師さんに相談してください。
体をブルブルする
愛犬が体をブルブルするときは、どんなタイミングですか?
もちろん、体が濡れたときにブルブルと震わせて水分を飛ばす行動などは習性によるものですが、服を着せているとき、脱がせたあと、ブラッシングをしたあと、撫でたあと、お散歩中などにブルブルとしていませんか?
服やハーネスが苦手な犬は、体の不快感からブルブルします。脱いだあとのブルブルは、緊張や不安、ストレスなど、嫌だと思うことから開放されたときのしぐさです。
ブラッシングや撫でたあとのブルブルも同様ですが、構ってほしくないときに構われて「今は嫌なのに」という気持ちが表れています。
お散歩中にブルブルするのは、他の犬のニオイがして「この犬苦手だな」と思っていたり、「今日はこっちの道に行きたくないな」と飼い主さんに伝えているしぐさとなります。
また、頻繁にブルブルする場合では、耳にゴミが入っていたり耳の病気の可能性があるため、早めに動物病院を受診してくださいね。
前足を上げる
犬が前足を上げるのは、構ってほしいという気持ちや、好奇心、ポインティングポーズ、緊張をほぐすためとさまざまな理由があります。前足をあげてチョンチョンとする愛犬のしぐさには、メロメロな飼い主さんも多いのではないでしょうか。
犬が前足を上げてチョンチョンしているときは、「構ってほしい」「自分の方を見てほしい」「遊ぼうよ」といった甘えているしぐさです。
飼い主さんが何かをしているときや何かを持っているときに前足を上げていれば、「何してるの?」「それ何?」「美味しいもの?」など、好奇心の表れです。
お散歩中などに何かを見つけて前足を片方だけあげて止まっているときは、「獲物を見つけたよ!」と飼い主さんに教えてくれているポインティングポーズとなります。声を出すと獲物が逃げてしまうため、前足を上げて教えてくれているのです。
また、お散歩中に初対面の犬が向こうからってきたときに片方の前足をあげるのは、自分と相手の犬の緊張をほぐすためのしぐさとなり、「敵意はありません」「お友達になりたい」といった気持ちの表れとなります。
床(地面)のニオイを嗅ぐ
帰宅すると愛犬がニオイを嗅ぎにくる、なんてことはありませんか?
他にもお散歩中に電柱のニオイを嗅ぐ、他の犬のお尻のニオイを嗅ぐ、空中のニオイを嗅ぐ、自分のおしっこやウンチのニオイを嗅ぐなど、犬はとにかくニオイを嗅ぎますね。
嗅覚の優れている犬はニオイを嗅ぎ分けて情報を収集し、それが安全なものか危険なものかなどを判断しています。これは犬の習性であり必要な行為ですが、カーミングシグナルとなるのは床(地面)や近くに置いてあるもののニオイを嗅ぐしぐさです。
これは、緊張や不安を感じたときに、「敵意はありません」と自分と相手の緊張をほぐすために行われるしぐさです。その相手は飼い主さんであったり、他の犬であったりとそのときの状況で異なりますが、叱っている最中に床のニオイを嗅ぎはじめたら、叱るのはそこまでにしてあげましょう。
顔をそらす・目をそらす
愛犬に顔をそらされたり、目をそらされて「いつもは見てくれるのに何で?」と、思ったことはありませんか?
もともと犬は敵意がないことを示すために、目をそらすしぐさをしますが、ずっと一緒にいる愛犬であれば、見つめ合うこともありますね。
愛犬が顔や目をそらすときの理由としては、
- トレーニングなどでストレスを感じている
- 怖い存在と思われるようなことをしてしまった
- 苦手なことをされそうになっている
- 叱られている
- 自分よりも目上の存在だと認識している
- 嬉しすぎて興奮した自分の気持ちを落ち着けようとしている
など、悪い意味も良い意味もあります。
愛犬が顔や目をそらすから嫌われてしまった、と落ち込む飼い主さんも少なくありませんが、どんな状況で顔や目をそらされたか考えてみましょう。必ずしも飼い主さんが嫌いで顔や目をそらしているわけではないことがわかりますよ。
特定の部位を舐める
犬もグルーミングを行います。しかし、特定の部位を舐めたり噛んだりするのは、強い不安やストレスを抱えているためのカーミングシグナルです。前足を舐めたり、後ろ足を執拗に舐めて自分の不安やストレスを落ち着かせようとしています。
飼い主さんに構ってほしい、遊んで欲しい、運動不足などが原因となっていることが多いため、愛犬が同じ部位ばかり舐めているようであれば、しっかり向き合ってあげる時間を増やしてあげましょう。
また、飼い主さんに依存しすぎてしまっている犬では、お留守番中にだけ足を舐めて、不安やストレスを落ち着かせようとします。お留守番中に愛犬が執拗に舐めているのではないかを確認するには、足先や足裏の被毛が赤茶色に変色していないかチェックしてみましょう。
あまりにも舐めるようであれば、ケガや指間炎などが原因となって舐めている場合もあるため、獣医師さんに相談してくださいね。
笑顔
犬は表情豊かで、まるで笑っているかのように目を細め、口角を上げて笑顔を作りますね。犬の笑顔は見ているこちらまで笑顔にしてくれますが、カーミングシグナルの場合もあります。
基本的な笑顔の意味は、リラックスしている、嬉しいといった幸せな気分を表すものとなります。
飼い主さんをよく観察している犬だからこそ、笑っている飼い主さんを見てマネをしていることもあれば、笑顔をつくれば飼い主さんが喜んでくれる、という気持ちから笑顔を作る犬もいます。どの理由にしても、飼い主さんが大好きだからこそのしぐさですね。
カーミングシグナルの笑顔は、人や犬に向けて見られることがあります。「敵意はありません」「落ち着いて」という気持ちを表しており、緊張や不安な状態で、そのときのしぐさは口を開いて口角を下げて少し歯が見えるため、笑顔に見えるのです。
愛犬が笑顔を作っているときは、カーミングシグナルであるのか本当の笑顔であるのか見極めて、カーミングシグナルであれば優しく背中を撫でて安心させてあげてくださいね。