その1.野生の本能~自分の香りを隠すため
ブリティッシュコロンビア大学の心理学教授、スタンリー・コアン氏は、犬が芝生の中で転がる最も有力な説は、犬が野生時代に獲物を捕食していた頃の名残で、自分の香りを隠すために臭いのあるものに塗れる、と述べています。
犬が芝生の上でゴロゴロ転がるのは、実は自分の体臭を隠す野生の本能で、体に匂いをつける香りの儀式なのです。
オオカミの狩りの仕方
オオカミが新しい獲物の香りを嗅ぎつけると、自分の顔や首に香りをつけます。動物の死体や糞にまみれ、群れの仲間に挨拶をして獲物の香りを徹底的に調べるのです。
こうして仲間に香りを伝え、自分の匂いを獲物に気づかれないようにカモフラージュして狩りを成功させます。
コアン氏は、オオカミのような香りを持つ捕食動物よりも、臭いで覆われた毛むくじゃらのものが疑われる可能性は低く、野生の狩猟犬が獲物にもっと近づくことを可能にする、と述べています。
つまり、オオカミのように強い独特の香りを隠し、獲物に警戒させないことが狩りを成功させる秘訣となっていたのです。
その2.犬は人間が嫌う匂いが大好き
犬の嗅覚は人間の100万倍~1億倍ともいわれ、数値の幅が広いのは匂いの種類によって感知の度合いが異なるためです。人間の嗅覚受容体はおよそ400個で1万種類以上の匂いを識別できるといわれていますが、犬の嗅覚受容体はおよそ800種類。
単純に考えれば人間の約2倍ですが、私たちには予測不可能。例えるなら、スタジウムの広さの中で香水の成分さえも嗅ぎ分けてしまうという優れた嗅覚力の持ち主なのです。
犬は腐敗したゴミや糞尿など人間が「臭い!」と感じる悪臭ほど嗅ぎ分ける能力に優れています。ゴミ箱に鼻を突っ込んだり、玄関の靴や脱ぎたての靴下、台所の布巾を咥えて自分のお気に入りの場所に隠したりするのは、スバリ!有機物の臭いが好きだからなのです。
有機物とは
簡単に説明すると生物体を構成させる物質です。生物は有機物で作られており、タンパク質や炭水化物、アミノ酸なども有機物です。肉や血液など生物に不可欠な物質の匂いで、汗や脂肪、アンモニア臭なども含まれます。
その3.仲間に対するコミュニケーション
野生の犬の祖先を辿れば、狩猟犬としてだけではなく、死んだ動物の肉を捕食するスカベンジャー(腐肉食動物)でもあったので、動物の死骸や排泄物を食していたと考えられています。
野生の犬が血肉の匂いに塗れて仲間の群れに戻るという行動は、生物学者によれば、他の仲間に「近くに食料があるよ!」とメッセージを残すためのコミュニケーションの一つだと考えられています。
腐敗動物の香りを体に塗りつけ群れに戻ることによって、仲間はこの香りを嗅ぎ分け、餌にありつけるという確実な情報を得ることができるのです。
その4.香りに塗れることが楽しいから
人間は目に見える視覚イメージで物事をキャッチしますが、犬は嗅覚で飼い主を認識したり、過去や未来といった時系列さえも匂いで感じ取ってしまうほど優れた感覚を持っています。
愛犬にとってどれほど重要な匂いがあるのか考えてみてください。彼らは可能な限りゴミ箱や人間の汗や油がしみ込んだ服や靴下、靴の中に鼻を埋め、体中お気に入りの匂いに塗れたい気分なのかもしれません。
犬は優れた嗅覚でさまざまな情報を敏感にキャッチしているのです。
人間がその日の気分で服やアクセサリーを選びオシャレを楽しむように、犬にもマイブームのようなものがあり、「この靴下が好き~♪」「こっちの靴の匂いがいいなぁ~♪」なんて香りのオシャレを楽しんでいるのかもしれませんね。
最後に
芝生の上で寝転ぶワンコの姿は、飼い主さんと公園でくつろぐ瞬間を思う存分満喫しているように見えます。
しかし、実は人間にとって悪臭を感じる有機物の匂いを好み、野生の本能が現れる正常な行為なのです。改めて犬の不思議な行動には、人間には理解できない犬の本能や科学的に秘められた多くの謎がありますね。
なお、アレルギー性皮膚炎など皮膚の痒みによる不快感や、小さな擦り傷の炎症や痛みを緩和するために芝生にゴロゴロと背中やお腹を擦りつけている可能性もあり得ます。
飼い主が見て不審な転がり方や、いつまでも執拗にゴロゴロしている場合は、掛かりつけの獣医師に相談することをお勧めします。