犬のお産とは
昔から犬は安産の象徴とされており、日本では現在も妊娠5カ月に入った妊婦が「戌(いぬ)の日」に腹帯を巻いて安産祈願をするという風習があります。実際の犬のお産はどのようなものなのでしょうか。
出産の適齢期は犬の体の大きさによっても多少異なりますが、2回目の生理以降から6歳くらいまでとされています。6歳を過ぎると高齢出産にあたるため、リスクは増すと考えられるでしょう。交配後30日前後で妊娠が確認でき、出産までの期間は交配から63日程度です。1度の妊娠で小型犬は2~3匹、中型犬や大型犬の場合は6~10匹ほど出産するのが一般的です。
犬は多産でありながらも、お産は軽いと一般的には言われています。しかし、小型犬は難産になりやすい傾向にあり、腰が細く頭が大きいブルドッグは帝王切開でなければ出産できないなど、犬種によっては気をつけなければならないこともあります。
飼い犬が妊娠をしたら動物病院で定期的な検査を受け、準備をするものや流れ、注意点を把握して出産に備えましょう。
犬のお産に向けた準備
お産の環境づくり
犬のお産では、母犬が安心して出産できる環境をつくることが重要なポイントです。一般的には「お産箱」と呼ばれる、お産をするための産室を準備して、母犬が出産に集中できる環境を作ります。お産箱は市販もされていますが、木の板や段ボールでも簡単に作ることができます。
お産箱の中にはタオルケットや短冊状に切った新聞紙を敷き詰め、汚れたら交換できるようにしておきましょう。母犬がリラックスした状態で出産に臨めるよう、普段生活しているケージやサークルの近くに設置するとよいでしょう。
お産に必要なもの
- タオルやガーゼ
- 体温計、室温計
- 木綿糸
- 消毒したハサミ
- ペット用ヒーター
- はかり
- 洗面器
- 犬用ミルク
- スポイト(シリンジ、犬用哺乳瓶)
タオルやガーゼは床に敷く、子犬の体を拭くなどの用途で使います。清潔で、肌触りがよいものを多めに用意しておきましょう。犬は出産が近づくと徐々に体温が下がり、37度前半になると24時間以内に陣痛が起こるといわれていますので、体温計を使って定期的に記録をつけておくと兆候を知ることができます。中には平熱(38.5度前後)で陣痛が起こる場合もありますので、注意してください。
木綿糸とハサミは、母犬がへその緒を噛み切れない際、止血と切除のために使います。ペット用ヒーターは寒い時期に母犬の体を温めるだけでなく、生後すぐには体温調整ができない子犬のためにも便利です。
その他、子犬の体重を測るための「はかり」や、体を洗うための洗面器などもあるとよいでしょう。ミルクや専用のスポイトは産後すぐに必要なものではありませんが、母犬が授乳を嫌がったときのために用意しておくと安心です。犬のお産は妊娠期間が短いので、早めに準備をしておきましょう。
犬のお産の兆候
落ち着きがなくなる
予定日が近くなりいよいよ犬のお産が迫ると、母犬は落ち着きがなくなります。床を掘るようなしぐさ(営巣行動)がより頻繁になったり、常にお産箱の周りをうろうろしたりする行動が見られます。
おしっこやうんちの間隔が短くなる
おしっこやうんちの間隔が短くなる、軟便になるなども犬のお産の兆候です。食べ物を受け付けなくなり、呼吸がいつもより荒くなります。お産箱の中でトイレや嘔吐をすることもあるので、お産箱の中が汚れたら敷いてあるタオルや新聞紙を取り換えて清潔にしてあげましょう。
おしるし
犬のお産の兆候として、おしるしと呼ばれる透明な粘液が陰部から出る場合もあります。粘液が緑色の場合は異常分娩の可能性があるので、一度獣医に相談するようにしましょう。
犬のお産の流れ
破水
胎児は羊膜に包まれており、膜が破れると破水し透明な液体が出てきます。反対に、破水せず胎児が羊膜に包まれたまま生まれる場合もあります。犬のお産の場合、大抵は破水から数十分~1時間程度で出産となりますが、2~3時間経過しても胎児が見えない場合は注意が必要です。
出産
小型犬の場合は横になったままいきむこともありますが、大抵は両足を踏ん張らせ、排便のときのような格好で出産します。羊膜に包まれた状態で胎児が出てくると、母犬は膜を破ってへその緒を噛み切り、体を舐めて呼吸を促してから授乳をするようになります。母犬がこれらの行動をしない場合には飼い主による補助が必要です。
出産後しばらくすると胎盤が排出されます。犬のお産はこれらの流れを、時間をおきながら胎児の数だけ繰り返します。
母犬が胎盤を食べてしまうことがありますが、胎盤を食べることには賛否両論あるのでかかりつけの獣医に相談しておきましょう。胎盤が排出されない場合は子宮内に感染が生じる原因となることがあるので、病院での診察が必要です。
帝王切開の場合
- 緑色の粘液が長時間出ている
- 陣痛が30分以上続いているのに分娩が始まらない
- 羊膜が見えているのに2時間以上分娩しない
- 破水後2~3時間経っても分娩が起こらない
- 陰部に胎児の一部が引っかかっている
もともと帝王切開でなければ出産できない犬の他、上記のような状態が見られて自然分娩が困難な犬は病院で手術を受けます。帝王切開の手術は子宮を切開して胎児を取り出しますが、全身麻酔を行うため母子ともにリスクが伴うことを知っておきましょう。手術後は母犬のみ数日間の入院が必要な場合がありますが、手術後の状態が悪くなければ母犬の日帰りすることがほとんどです。。
犬のお産も人間と同様、胎児が無事に生まれるまで何が起きるかわかりません。すぐに連絡できるように病院の番号を携帯電話に登録しておき、夜間に陣痛が始まった場合はどうするのかなど、事前に病院に相談して緊急時に対応できるようにしておきましょう。
犬の産後のケア
子犬のケア
分娩中や出産後は、基本的に飼い主は母犬を刺激しないよう少し離れたところで見守ります。ただし、出産した母犬が何らかの理由で保育行動を取らない場合は、羊膜を手で破る、止血処理後へその緒をハサミで切る、タオルで全身を拭いて呼吸を促すなどの飼い主の補助が必要です。
犬のお産では通常生まれてから48時間以内に初乳を飲ませますが、母乳が出ない場合や授乳を促しても母犬が拒否をするなどの場合は、専用のスポイトなどを使ってミルクをあげてください。
生後間もない子犬はとてもデリケートなので、栄養不足や脱水症、低体温症の他、先天的な理由から「新生子衰弱症候群」を発症し死亡してしまうケースもあります。授乳の状況をこまめに確認し、ペット用ヒーターを使って子犬の体を温めるなどして、栄養や温度の管理に努めましょう。
母犬のケア
犬のお産は一度に何頭もの子犬を産んでエネルギーを使うので、母犬の心と体のケアに気を配り、適切な栄養管理を行うことが大切です。産後しばらくは子犬のそばを離れたがらないのが普通ですが、ある程度の授乳が終わったら気分転換と子宮収縮のために5~10分程度の散歩をしてあげましょう。
母乳をあげることで多くのカロリーを消費しているので、餌は高たんぱくでカルシウムが豊富なものを選び、通常よりも多めに与えます。水分も消費されるので、母犬がいつでも水を飲めるような環境を整えてあげてください。
また、産後の母犬は「急性子宮炎」や「子宮脱」、「産褥テタニー(低カルシウム血症)」、「乳腺炎」などにかかりやすいとされています。嘔吐や下痢、発熱、元気がないなどの症状が見られたら早めに動物病院を受診しましょう。
まとめ
犬のお産は妊娠期間や分娩時間が短く一度に多くの子犬を産むことから安産であるとされていますが、人間のお産と同様、状況によっては母子ともに命の危険にさらされることもあります。飼い犬が母子ともに無事に出産を終えられるように、必要な準備や流れを確認して出産に備えることが大切です。