強制給餌と誘導給餌
闘病生活や介護生活で、自らなかなか必要な食事量を摂取できないとき、人の手で強制的に食べ物を食べさせるのが強制給餌です。食欲を刺激し、食べるきっかけを見つけるなどして、自ら食べられるように誘導するのが誘導給餌です。
どちらも食べ物を食べさせる目的は同じですが、状態や症状緊急性によって使い分けることができます。
強制給餌の4つの方法
1、強制的に口から食べ物を入れる方法
液体状にした食べ物、ペースト状にした食べ物、食べやすい大きさの団子状にした食べ物、ゼリー状にした食べ物などを、シリンジやスプーン、手を使って強制的に口の中に入れ、飲み込みやすいように喉の近くまで届けます。
2、鼻チューブを使って食道に直接専用食を流し入れる方法
液体状の流動食を、鼻から食道まで通したカテーテルで直接流し込みます。動物の大きさによって挿入できるカテーテルの太さが異なるので、一回に流し込める量や食事にかかる時間は異なります。
紛薬を流動食に混ぜて流し込め、必要な給与量や栄養のコントロールがしやすいので、飼い主さんの負担が軽減されます。鼻のカテーテルは、無麻酔でも挿入できるので(暴れるなど拒否行動がない)、動物の負担も少なく、装着に大掛かりな装置などは必要ありません。
使用できる期間は数日から1か月程度なので、短期間でしっかりと栄養を摂らせることが有効な治療であるときに効果的です。しかし嘔吐のときにチューブが吐き出されてしまうことや、鼻炎をおこしてしまうリスクがあります。
3、食道瘻チューブを使って直接専用食を流し入れる方法
鼻チューブよりも長い期間使用することができます。鼻チューブよりも、一度に多くの専用食を流しいれることができ、薬もチューブから届けることができます。装着には鎮静又は全身麻酔が必要で、食道炎や食道にかかわる病気があると装着はできません。
また装着している場所が炎症をおこしたり、嘔吐のときにチューブが吐き出されてしまったりするリスクがあります。使用できる期間は数か月~1年程度、強制給餌や投薬が困難で、飼い主さんの負担が大きくなっているときなどに効果的です。
4、胃瘻チューブを使って胃に直接専用食を送る方法
チューブが太く、流し込める量や専用食の種類が増えます。寝たきりの介護状態や延命治療、自ら食事をとれないことが長期間明らかな病状のときなど、年単位で使用できます。
装着には全身麻酔が必要で、開腹手術や内視鏡でも装着することが可能です。また胃に届けた食事が漏れないよう、しっかりと内外固定されるため、腹膜炎を起こすリスクは極めて低いといえます。リスクとしてチューブが抜ける、腹空内に漏洩した食べ物による腹膜炎、装着部の感染などがありますが極めてまれなケースです。
胃の病気や腹水が溜まっているケースでは装着できませんが、水や薬多くの専用食を届けることができ、飼い主さんの介護の負担も軽減され、動物の生活の質も向上します。また腎不全など、食事が摂りづらくなる病気のケースでは、早い段階で胃瘻チューブを装着して食事をしっかり摂らせられ、水分補給、体内循環を促すなどとても効果が高いことが分かっています。
強制給餌というと、「大変そう」という印象が強いかと思います。確かにチューブなどを装着しない強制給餌は、飼い主さんの精神的な負担が大きいだけでなく、動物にとっても精神的な負担が大きくなるケースがあります。
また先が見えない長期介護、長期闘病となると、強制給餌ができなくなったとき、体に必要な栄養が摂れないために一気に体力が落ちてしまうケースもあります。
どの方法の強制給餌を選択するかは、飼い主さんの考え方次第です。辛い思いをしているところに、麻酔のリスクや体にチューブを通すという治療がかわいそうと感じることもあります。ですが互いのストレスを軽減し、必要な食べ物と水分、投薬もコントロールできる強制給餌のためのチューブは、生活の質の向上に大きく貢献してくれます。
誘導給餌の4つの方法
1、好きな物や食べられる物を選び食べることを優先させる
食欲不振や介護、闘病中に栄養バランスのとれた食事を摂らせてあげたい、と飼い主さんは試行錯誤します。ですが、これなら食べるけど、これは食べてくれない、など食べムラに悩まされてしまうケースがあります。
そんなとき食べてくれる物だけを選んで、とにかく少量でも偏っていても食べるということをやめさせない方法です。自ら食べ物を食べて飲み込める状態で食べ物を選んでいると、ついこっちも食べてと、食べたくないものだけれど体に良い物を食べさせてようとしてしまいます。
ですがこれを繰り返してしまうと、全ての食べ物を受け付けなくなってしまうので、自ら食べてくれるものをとにかく食べてもらうことを優先させます。
心配や不安で飼い主さんの精神的な負担が大きくなりがちですが、病状によって食べ物の好みがコロコロと短期間で変わることも珍しくないので、特定のものだけでも食欲があるときには、あまり神経質にならずに犬が喜んで食べてくれるものを選んであげましょう。
2、環境の変化を利用して食欲を刺激する
野外で食べるお弁当がとても美味しく感じたという経験は、多くの方があると思います。またみんなでお喋りしながら楽しく食べる食事がとても美味しいという経験もありますよね。動物にも同じ感覚があります。近くの公園の芝生の上で食事を与えたり、おうちのお庭で食事を与えたりと、環境を変えることであっさり食べてくれることもあります。
また元気なときに通っていたカフェの雰囲気だと食べてくれる子や、飼い主さんの食事のときに、箸で口元まで運んであげるとペロリと食べてくれる子もいます。気分転換やリフレッシュなどは動物にとっても効果的です。日光浴をさせて食べることも、体内循環や免疫力UPの効果があります。
3、食べる真似を見せて興味を持たせる
日常的に人間の食事のおこぼれをもらっている子は、飼い主さんが食べる真似をすると、いつもの習慣で食べてくれることがあります。また飼い主さんが口から出した食べ物を食べ、食べ残したものを食べたりすることがあります。
これは群れで生きていた頃の名残でもありますが、食事は優位者から劣位者へと食べる順番が決まっています。母犬が吐き出したものを与えてもらったり、群れで獲た獲物を綺麗に食べきったりといった習性もあります。
飼い主さんが食べる真似をして、口から出したように見せてあげると、習性行動として食べようとしたり興味を持ったりすることがあります。
4、置き餌をせずに空腹感を待つ
ご飯を食べてくれないと、つい心配であれやこれや手を尽くしてしまいます。いつでも好きなときに食べられるようにと、置き餌をすることもあります。ですが病状によっては、近くに置かれた食べ物の匂いが、更に食欲を低下させてしまうこともあります。
獣医師に全身状態を確認してもらい、脱水などがない場合、食事を出して食べないときは、すぐに片付けて様子を見ることも必要です。消化器系に異常がある、疲れてしまっているときは、犬はじっと動かず、食べ物を受け付けずに体を休ませて自己治癒する行動がみられます。
1日~2日、ゆっくりと体が休まったら自然と食べ始めるケースもあります。飼い主さんだけの判断でなく、強制給餌が必要なのか?食べなくても数日様子をみても良いのか?かかりつけ医としっかり状態を把握しながら様子をみるようにしましょう。
食欲が落ちた犬に人気がある食べ物
通常、人間の食べ物は犬にとって害になるので与えないことが常識です。ですがドッグフードや処方食、手作りご飯も全て全滅となると、人間の食べ物でも食べてくれるなら食べさせたいと考えます。
心不全、腎不全、末期がんの犬たちが食欲不振のときに好んで食べてくれた、人間の食べ物をご紹介します。
1、パン類
食パン、菓子パン、ロールケーキ、蒸しパンなどは好んで食べてくれました。お薬を隠して食べさせるのにも、とても助かりました。
初めは人間が食べていた市販のパンを欲しがり、与えたことでパンが好きだと気が付きました。パン類は自宅で焼いてあげることができるので、材料を選んで犬の体に負担が少ないパンなら、たくさん食べてくれても安心です。
2、プリン
冷たくひやしたプリンは、気持ち悪いけど空腹感があるときに好んで食べてくれました。動物用のプリンも売っていますが、人間の赤ちゃん用プリンの方が食いつきがよかったです。人間の赤ちゃん用で、添加物や砂糖の含有量も少ないプリンなら安心です。
3、バニラアイス
くちどけが良く、甘く冷えたアイスは、ご飯の上に少し乗せてあげると匂いにつられて、ご飯まで完食してくれたことが何度もありました。下痢をしやすいので一口、二口程度で、食欲を刺激したり、トッピングに使ったりすると効果がありました。
4、ゼリー
人間の赤ちゃん用のゼリーを凍らせて、口の中に入れて与えていました。暑いときや疲労感があるときなどは糖分の補給にもなります。赤ちゃん用のポカリスウェットなども凍らせてあげると、かみ砕きながら飲み込んでくれました。
氷が好きな犬が多いので、口の中にポンと入れてあげると舐めたり、噛んだりしているうちに涎が分泌されて匂いがしっかり届くようになり、食欲の刺激になっていました。
5、卵かけごはん
全卵でご飯に混ぜ、調味は無しで与えていました。白米でも玄米でも良く高栄養、高たんぱく、消化吸収の早い炭水化物を効果的に摂取できます。また、あたたかいご飯にスルスルと食べやすい卵かけご飯は、比較的どの病状の犬でも人気がありました。
少し刺激を与えたいときには炒めてチャーハンにしたり、犬が寝たままヘッドアップができないときには、卵かけご飯をボール状にして口の中に運んだりして与えていました。
高栄養の食事を摂らせたい、何でも食べてくれるなら良いといっても、犬に人間用の焼き肉弁当を与えたり、スッポン鍋を食べさせたりするわけにはいきません。人間が好むスタミナ食は、犬に害となる食材や調味料、成分が含まれているので注意が必要です。
また与える量もたくさん与えれば良いというわけではなく、できれば犬用の専用食を食べてくれるのが一番良いのです。人間の食べ物はあくまでもサポートですので、十分に材料や成分などには注意して与えてください。
まとめ
食欲不振や胃腸症状があったり、精神的なストレスなどで食事ができなくなったりしたときに誘導給餌はおすすめです。今年の酷暑の影響でお散歩の時間や回数が極端に減り、一気に食事をしなくなってしまった犬がいました。飼い主さんは心配して、手探りで何とか食べてもらおうと頑張っていました。
ですがどうしても食べてくれないというので、院内でドライフードを少しふやかして与えてみると、ペロリと完食してくれました。でも家に帰ると全く食べてくれず、毎日病院へ来て食事を摂る日が続きました。極度に心配される飼い主さんの希望で、様々な検査をしましたが病気などは見つかりませんでした。
きっと一緒に出かけてくるのが嬉しかったから、外だとご飯を食べたのかもしれないねと、少し様子をみてもらうことにしました。すると1日何も食べなかったけれど、さすがにお腹が空いて、翌日の朝は勢いよくご飯を完食してくれた、と一安心したことがありました。
闘病や介護のときには強制給餌は大きな問題です。手間もかかりますし、手を尽くしても結果に繋がらず、もどかしい思いをしてしまうことも少なくありません。飼い主さんも愛犬も、ストレスを抱えすぎず、必要な栄養が摂れるよう参考になれば幸いです。
ユーザーのコメント
40代 女性 匿名
どんどん痩せ細り、何か食べて欲しいと必死でしたが、1ヵ月の闘病生活の末亡くなりました。
その半年後にはもう一匹の愛犬がてんかんの重責発作で余命数日と言われ、さらには腎不全の末期にもなり、やはり流動食がメインになりましたが食べたがるものは何でもあげました。2週間頑張ってくれました。
食べたい気持ちがあるのに食べれない姿は、みていて辛かったです。余命僅かと言われて、欲しがる物は何でもあげました。だんだん好きな物も食べれなくなっていき、少しでも体力をつけてほしいと流動食を無理矢理食べさせましたが、その行為が果たして愛犬たちによかったのか今でも悩みます。