「産箱」とは?
産箱を設置する目的
産箱、産室は英語では「Whelping Box」と言います。
犬はもともと山の斜面などを掘って、巣穴を作って生活をしていました。
犬にとって巣穴は外敵に襲われることなく、安心して出産、子育てをしたり体を休めることができる場所でした。
そのため、家の中で生活するにしろ、外で生活するにしろ、飼い犬にとっては心身ともに落ち着ける場所として、暗くて狭い「巣」を設置することが必要です。
それが家の中のサークルやケージ、クレートであり、犬小屋でもあります。
「産箱」とは、犬にとってのそのような「巣」の機能に、さらに「保温」「清潔」「出入りのしやすさ」を備えた特別な場所となり、家庭で出産する際には必ず必要な設備と言えます。
産箱の必要性
母犬は、いよいよ出産が近づくと、暗く、狭く、安心して出産と育児ができる空間を必要とします。
そのために暗く、狭く、外からの視界が遮られているだけなら、クレートでも事足りますが、家庭で飼われている犬が出産する場合には飼い主さんが産箱を掃除したり、子犬や母犬の様子を観察しやすい産箱である必要もあります。生まれたての子犬は自分の体温を上手に保つことができないため、しっかりと保温できる機能も必要です。
さらに、子犬が巣箱から出て行かないこと、母犬が食事や排せつの際に出入りしやすいことなどの機能性や子犬にとっても母犬にとっても狭すぎず広すぎもしない大きさも必要です。
つまり、飼い主さんが愛犬のために用意する「産箱」は、愛犬にとっては、安心して出産するための特別な機能を備えた「巣穴」ということになのです。
人間でも、出産するときに産婦人科の分娩室で産むのと、話が通じる人が誰もおらず、全く準備の整っていない全く知らない場所でたった一人で産むのとでは、安心感が全く違いますよね。
どの段階で準備するか
犬は、妊娠した場合交配日から数えて約63日で出産します。
地面を掘るように床をひっかく、部屋の中をうろうろして落ち着かない、といった行動が見られ出産間近になってから産箱を準備するのではなく、母犬が産箱に慣れるためにも出産予定日の1~2週間前には産箱を準備しておくと良いでしょう。
大型犬の場合は、材料も設営もすぐに準備するのは大変なので、妊娠が分かった時点で少しずつ、準備を進めておきましょう。
産箱を作る準備をする
サイズを決める
母犬の体の大きさにもよりますが、あまり広すぎても保温効果が薄くなったり母犬が出産、育児をしにくかったり、子犬の安全を守れなかったりするので、母犬の体の大きさに合わせて、産箱の広さを決めます。
母犬の体の大きさの2~3倍の広さが目安となるようです。
高さは、子犬が外にはい出ていかないように、最低でも15~20㎝の壁を作ります。
母犬がまたげる高さであるかどうかは、どのような産箱なのか、産箱をどのように使うのかによっても変わるでしょう。母犬が出入りするための出入口が必要となることもあります。同居の犬や猫がいる場合には、その動物たちが入れないような構造にする必要もあります。
材料を決める
- 段ボール
- 木材
- 組立式の家具をリメイクする
- サークルやキャリーを利用する
産箱の中に入れるものを準備する
新聞紙
出産後、保温のためや床材、巣材とするために新聞紙を使う場合は、少しでも排泄物などで汚れたときに、こまめに交換できるよう、産箱の側に新聞紙をストックしておきます。
すぐに使えるように、あらかじめ短冊状に切っておくと便利です。
ペットシーツ
母犬は、自力で外に出たり決まった場所で排泄しますし、子犬の排泄物は母犬が処理するので、産箱の中が排泄物で汚れることはあまりありません。
けれども、出産時には血液や羊水などで汚れますし、その後はペットヒーターの汚れ防止のために敷いたり、水や餌の食べこぼしなどを掃除するとき、雑巾替わりに使うこともできるので、産箱の側にペットシーツをストックしておきます。
新聞紙やペットシーツは、最初から何枚か重ねて敷いておいて、汚れたらその部分だけを取り除くという使い方もできます。
防寒用の毛布など
温度調節のために産箱の上に被せたり、母犬の気持ちを落ち着かせるために視界を遮ったりするのに使います。
また、産箱を常に清潔に保つためにも、こまめに交換できるように、清潔な毛布や使い古しのシーツを洗ったもの、大きめのバスタオルなども産箱の近くに準備しておきます。
クッション材
プラスチック段ボールや、アルミ材を使った断熱用のシート、子供用のウレタンマットレスなどを使うことができます。
ペットヒーター
真夏に出産を控えているのなら不要ですが、出産から子犬が生後約30日までの間に気温が20℃程度を下回ることがあるのなら、ペットヒーターを用意します。
産箱を設置する場所によって延長コードを使用する場合、母犬が電源コードを齧らないように、延長コードをカバーなどで保護しておきましょう。乳歯の生え始めた子犬がいたずらをしてコードを傷つけてしまうことも防げます。
ペットヒーターの他にも、お湯を入れてタオルでくるんだペットボトルや電子レンジで温めるタイプのホッカイロも利用できます。夏にクーラーの効いた部屋で出産する場合にも、体温を自分で維持できない子犬のためにそのような暖房グッズや毛布などで暖かい場所を作る必要もあるでしょう。また、冬でも夏でも、暑い場合には他の子犬から離れて涼めるスペースも必要です。
産箱の側に置いておくものを準備する
替えの新聞紙
すぐに交換できるように、短冊形に千切って用意しておくと便利です。
大きめのゴミ袋
汚れたものを捨てるときに側に大きめのゴミ箱があれば、手早く作業できます。
タオル
母犬や子犬の体についた汚れを拭く、作業中に飼い主さんの手が汚れたときなど、様々な用途に使えて便利です。こまめに洗濯できない場合も考えて、多めに用意しましょう。着古した飼い主さんのTシャツなども使うことができます。
産箱をどこに置くかを決める
家庭環境や母犬の性格にもよりますが、できれば、家族が集まりやすく、母犬も安心して過ごせていた場所を選びます。
また、いざ出産となると、夜中や早朝で、しかも長時間に及ぶこともあります。
そうなると、付き添う飼い主さんも気力、体力ともに消耗するので、あまり出入りしやすくない場所や、極端に寒い場所、ずっと外からの人の出入りのある場所だと大変です。
ですから、私は、やはりリビング周辺が一番良いのではないかと思います。母犬が安心できる場所で適度な広さが確保でき、飼い主さんも様子を見に来やすい場所にしましょう。
産箱の作り方
採寸した材料を組み立てる
段ボールなら、カッターで簡単に切れます。
木材を使うなら、あらかじめ材料の寸法を決めておくと、ホームセンターで裁断してくれます。
そうして用意した材料を組み立てていきます。
もし、母犬が大型犬なら、産箱も当然大きくなるので、産箱を完成後に運ぶのは大変です。
可能であるなら、産箱を設置する場所で作業し、その場で組み立てるようにしましょう。
産箱の中に入れるものを入れて設営する
一番下にクッション材となるもの、ペットヒーター、ペットシーツ、新聞紙、毛布の順で産箱を用意します。
母犬を誘導する
産箱を準備し終わったら、その場所に母犬を誘導します。
「この場所は安心できる場所だからね」と理解させて慣れさせつつ、いよいよ出産間際になったら、ふだん使っているベッドなどは撤去したり産箱内に持ち込んだりして、産箱で過ごすように誘導していきます。
まとめ
母子ともに元気で、幸せな出産を迎えるために、飼い主さんは最善を尽くされると思います。
飼い主さんの愛情のこもった産箱の準備と同様に、何かあった場合に備えて、夜中でも早朝でもすぐに対処してくれる獣医さんへも、いつでもすぐに連絡できるようにしておきましょう。