家庭内の喧嘩は犬のストレスに影響する?
犬は、学習によって人間の言葉が意味するものを覚えることはできても、言葉の意味を理解することはできません。
たとえ飼い主さん同士が喧嘩をしていて悪い雰囲気は感じていたとしても、喧嘩の理由までは理解できないので、どちらが正しいか、間違っているか、こういう喧嘩だから自分は気にしなくていい、などの判断はできないのです。
しかし犬は、喧嘩をしている、争っている、という悪い雰囲気は感じとります。そんな時、犬にはどんなストレスがかかるのでしょうか。
まずは、家の中でどんなことが起これば、犬がストレスを感じるのかを考えてみましょう。
視覚的な脅威
後ほどまた説明しますが、犬は人間の表情を読み取ったり、表情や声色から感情をくみ取ったりする能力があると考えられるため、飼い主さんが「怒り」の表情をしているのを見ると、何か嫌なことがあることを察知し、不安になると考えられます。
聴覚的な脅威
犬は、人間よりもずっと優れた聴覚を持っています。
だからこそ、苦手な音や聞きなれない音がすると、それが不安や恐怖となり大きなストレスとなります。
例えば、唐突に大きな音がする、金属同士がぶつかる音、甲高い音が苦手です。
飼い主さん同士が大声で怒鳴りあったり、モノを投げつけたりすることは、犬にとっては大きなストレスになりえます。
スキンシップが足りない
家庭内にトラブルがあると、どうしても愛犬のために割く時間が減ってしまうでしょう。
ふだんは、家族みんなで体を撫でたり、遊んだりしていたのに、目に見えて家族とのスキンシップが減ると、ふだん家族と楽しく暮らしている犬ほど、多くのストレスを抱えることになるかもしれません。
食事が足りない
家族内で喧嘩をしていて、そのことばかりが頭の中にこびりつき、つい愛犬の食事を忘れていた…ということや、何か家庭内のトラブルのために、愛犬の食事への配慮がおざなりになってしまう…などのことがあると、人間の子供に置き換えると、育児放棄とも言える虐待です。
ストレスに感じないはずがありません。
運動量が足りない
飼い主さん同士が喧嘩をしているせいで、誰も愛犬のことを顧みることなく、散歩に連れて行かない日が何日も続けば、ただ心理的にストレスが溜まるばかりでなく、運動不足となり、身体的なストレスにもなります。
犬には、人間の感情を読み取る能力がある
イギリスのリンカーン大学とブラジルのサンパウロ大学の共同研究により、犬は、学習の結果として人間の表情の違いを区別できるだけではなく、同種である犬だけではなく人間の声と表情からも感情を読み取る力がある可能性が示されています。
また、この実験以外でも、麻酔をかけずにMRIの撮影ができるようにトレーニングされた犬に協力してもらって、人間の声やコマンドに対してどのように犬の脳が反応しているかを調べる研究も複数行われており、「犬は人間の感情を読み取る、理解する能力がある」考えられる実験結果が得られています。
また犬は、人の視線の先や指で指し示すものへ注意を向けることができます。
また犬は、人間に見られている時に自分の表情を変える、人間が犬に注意を払っていると何かしらのコミュニケーションを犬も期待する、という実験結果もあります。
つまり、犬と人間は、視線によって行えるコミュニケーションがあると言えます。
そして犬は、飼い主さんが喜ぶことをしたい、どうすれば飼い主さんが喜ぶか、と考えて行動し、飼い主さんが意図ていることは何か、どんな行動を自分は期待されているのか、を考えます。
つまり犬は、学習がなくても飼い主さんの表情や話し方から飼い主さんの感情を感じ取りますし、学習があればさらにそこから起こる出来事を予測し、場合によっては自分はどうすべきかを考えているのかもしれません。
犬と飼い主はお互いに影響しあう
オーストリアとドイツの大学によって行われた実験によって、飼い主と飼い犬のストレスホルモンの量は長期的に見てシンクロする(測定されたホルモン量の多少が一致する)、ということがわかりました。
飼い主さんがストレスを感じストレスホルモンの量が多い、飼い犬の体の中にストレスを感じたときに分泌されるホルモンの分泌量が多いと言うのです。
この研究の論文は以下のものになります。
Sundman, AS., Van Poucke, E., Svensson Holm, AC. et al. Long-term stress levels are synchronized in dogs and their owners. Sci Rep 9, 7391 (2019).
https://doi.org/10.1038/s41598-019-43851-x
まとめ
人間でも、ストレスを抱えすぎると心身に異常をきたすようになります。
自身も感情を持ち、人間の表情を読むことができ、人間の感情をも読み取ることができる家族の一員である愛犬に、影響が出ないはずはありません。
言葉の意味を理解しあっている人間でも、喧嘩は大きなストレスとなりますが、たとえ言葉はわからなくても、目の前で飼い主さん家族が喧嘩しているのを見たり聞いたりしている愛犬の気持ちとしては、目の前で自分を愛してくれる両親が、憎しみをぶつけ合うような喧嘩をしているのを見ている子供と変わりないのかもしれません。
どうしても、お互いの意見を戦わせなければならないときは、愛犬の見ていない、聞こえない場所を選んだ方が良いでしょう。
人間よりもずっと短い命の愛犬との時間を割き、愛犬にストレスを感じさせてまで、家族と喧嘩をする必要はありますか?
喧嘩をする前に、愛犬の目をじっと見て、気持ちを落ち着ける習慣を身に付ければ、声を荒らげ、罵り合うような喧嘩をしなくても済むようになるかも知れません。
紹介されている研究や実験結果の一部は、以下の論文になります。
Albuquerque N, Guo K, Wilkinson A, Savalli C, Otta E, Mills D. Dogs recognize dog and human emotions. Biol Lett. 2016;12(1).
https://doi.org/10.1098/rsbl.2015.0883
Cuaya LV, Hernández-Pérez R, Concha L. Our Faces in the Dog's Brain: Functional Imaging Reveals Temporal Cortex Activation during Perception of Human Faces. PLoS One. 2016 Mar 2;11(3)
https://doi.org/10.1371/journal.pone.0149431
Kaminski, J., Hynds, J., Morris, P. et al. Human attention affects facial expressions in domestic dogs. Sci Rep 7, 12914 (2017).
https://doi.org/10.1038/s41598-017-12781-x