犬に必要な運動量とは
犬が必要な運動量には、決まりや正解はありません。個体差、性格差があるのは当然ですが、天候や体調、気分によっても必要運動量は、日々異なります。
体重が10kgだから1kmのお散歩が必要だというのは、ざっくりとした目安です。日本では、体重に合わせて必要運動量を決める考え方が多いようですが、根拠はありません。
何km歩いて、どれほどの運動量かは、足の長さや呼吸数、精神状態によって大きく異なるので、その子に合った運動量を正しく理解してあげましょう。
うちの子に合ったお散歩の距離や時間とは?
犬は飼い主さんの生活スケジュールが、生活の全てです。全く外出をしない飼い主さんが、自分と同じように犬に散歩をさせなければ、確実に運動不足による体への支障が出ます。
また、アクティブな飼い主さんで犬も多くの運動をしている場合、食事量と消費エネルギーのバランスが取れていない場合も、体への支障が出ます。太りすぎ、痩せすぎ、足腰の状態などは、食事と運動の影響を大きくうけて体へ現れます。
では、愛犬に適した運動量をどのように計算したら良いのでしょうか?まず、飼い主さんが把握したいのは愛犬の日頃の様子です。
性格
性格は陽気で明るく、いつも騒いでいる子や落ち着きがない子は、エネルギーの消費が多く、お散歩に行かなくても体を動かしています。
お散歩から帰ってきても、家の中で走り回っていたり、遊びに誘ってきたりするような子は、現在のお散歩の時間や距離では物足りないと感じています。
日頃の空腹度
食事を終えた後、器をいつまでも舐めている子、どんなときでも食べ物に反応して、ヨダレを垂らす子、ゴミ箱あさりや頻繁に誤飲をしてしまう子は、食事量と運動量のバランスが崩れています。食事量が少なすぎるか、運動量が多すぎて食事が足りないかが考えられます。
体質
筋肉質、太りやすい、痩せやすい、食が細い、大食いなど、犬種や性格とは別に産まれもった体質によっても必要運動量は異なります。太りやすい子は、食事と運動量のバランスを変える、食が細いけど痩せづらい子は運動量が少ないこともあります。
犬種
ボーダーコリーのような牧羊犬種や、レトリーバー犬種は、必要運動量が多くなります。これは体を動かすことで、精神バランスを保つという特性があるためです。
逆に超大型犬種であっても、護衛犬種などは、体の大きさのわりには必要運動量は多くありません。大きな体を支えるための筋肉に働きかける運動は必要ですが、長距離を何時間も走らせなければいけないというわけではありません。
お散歩の満足度
お散歩中、ご機嫌でリフレッシュしていて、ご飯を食べて満足して眠ることができているでしょうか?飼い主に合わせて、いつも決まった時間、決まった道を歩いて帰ってくるのが習慣になっていると、つい見逃してしまうのが愛犬の満足度です。
散歩から帰っても、リードを持つとすぐにでもお散歩に行きたい!というそぶりを見せるのであれば、満足度は低いかもしれません。
これらを総合的に判断し、現在の運動量が足りているか判断をします。体重が何kgだから何分、この犬種だから何kmという散歩量や時間の決め方は、間違いです。
排泄のためだけのお散歩は純粋な運動ではない
犬にとって運動とは、
- 全身を動かして体を支えるための筋肉を適度に保つため
- リフレッシュやストレス発散
- 血流促進
- 遊び
- 飼い主との信頼関係の構築
など、様々な役割があります。
単純に毎日〇km歩いているというだけでは、必要な運動量を確保できているとはいえません。特に、排泄のためのお散歩になってしまっている子は、リフレッシュもできていませんし、満足度は低くなります。そのため、お散歩以外でも運動やリフレッシュのための時間が必要です。
毎日ドッグランで走らせているからお散歩はいらない?
愛犬に運動をさせるために、毎日ドッグランなどへ連れて行ったり、自転車に並走させて走らせたりしている飼い主さんがいますが、だからお散歩が不要ということではありません。お散歩は、リードで繋がった飼い主さんと、愛犬が意思の疎通をはかるための大切なコミュニケーションなのです。
排泄や運動としてのお散歩ではなく、愛犬との信頼関係を作るためのお散歩が、心の育成にはとても重要であることを理解しましょう。
毎日何kmも走っているし、帰ってくるとぐったり疲れて眠っている。ご飯もたくさん食べているから、犬は満足しているという判断は、飼い主さんにとっての都合の良い解釈です。
もともと走ることが大好きな子であれば、毎日たくさんの距離を走って心のリフレッシュができますが、走りたくない日もあります。ドッグランで、運動のために何回も何回もボールを拾ってくる。広い場所で一人走り回って、体を動かしてくる。これだけでは、日々の満足度はあまり高くないのです。
理想的な愛犬のお散歩と運動とは
- ①排泄のためのお散歩や周囲の犬との情報交換のための臭いチェック
- ②飼い主さんとのコミュニケーションをとるための歩行散歩
- ③体を動かすための純粋運動
これらが組み込まれた適度な運動量が、継続されていくことが理想的です。
例えば、
- 毎日のお散歩では1と2で休みの日にはドッグランなどで思い切り遊ばせる。
- 毎日1と3はしているので、休みの日にはのんびりゆっくり散策散歩をする。
- 1は朝、2と3は夕方に毎日
このように、全てを毎日行うのではなく、飼い主さんの生活スタイルに合わせて、トータルバランスをとれるようにしてあげると、運動やお散歩を通した健康管理と心の育成が、スムーズにはかれます。
純粋運動は、ドッグランで走らせることだけではなく、お庭でボール遊びやプールで泳ぐなど、その子が一番喜ぶことを選んであげてほしいです。嫌いなことを無理やりさせ続けて運動させても、ストレスが高まるだけです。多くの経験をさせながら、得意なこと、好きなことで、純粋運動量を確保するのが最良です。
年齢や性格に合わせた運動の仕方
シニア期に入ると、必要運動量は下がってきます。犬の歩行スピードが落ちてきて、帰宅後の疲れ方に変化が見られてきます。呼吸が辛そうになったり、途中で帰ろうとしたりするなどの変化は、お散歩や運動量の変更が必要なサインです。
「排泄のためのお散歩や、周囲の犬との情報交換のための臭いチェック」は、室内のトイレや庭で代用ができ、臭いチェックにも興味がなくなれば、排泄のためだけに外に出る必要はありません。
愛犬が行きたい時や調子が良い時に〝飼い主さんとのコミュニケーションをとるための歩行散歩″リフレッシュのための「体を動かすための純粋運動」の時間を作ってあげれば良いのです。
また、純粋運動は飼い主さんが誘導して行うものと、愛犬の自由にさせるものと2パターンあります。一緒に走る、プールやボール投げなどは、飼い主さんが誘導する運動。愛犬が自由に走ったり、寝転んだり、他犬とじゃれ合ったりするのは、自発的な運動です。どちらでも、愛犬の好みに合わせて選んであげましょう。
犬は毎日散歩に行かなければならない!散歩に行かないのは虐待?
これは少し極端な考え方です。ご紹介したように、犬にとってのお散歩や運動は、トータル的なバランスがとても大切です。例えば、1年のうち1日だけバランスのとれた運動と食事を与えたとしても、健康状態には何ら影響はありません。
1日お散歩に行かなくても、1日ご飯を全く食べなくても、命にかかわるような身体的ダメージはありません。雨でお散歩に行きたくない子もいます。体が小さく、長距離を毎日歩けない子もいます。
様々な状況があり、時間をかけて体力をつけたり、ストレスをかけないように運動量を増やしたりと、その子に合わせて選択することが大切です。
飼い主さんが、【今日はめんどくさいから散歩なし!】と1日、2日さぼったところで、ガッカリするかもしれませんが、それまで毎日お散歩に行って健康だった子が、飼い主さんがお散歩を数回さぼっただけでは、急に運動不足による体調不良にはなりません。
不測の事態に備えるためには、お散歩に行けなくても、外で排泄ができなくても、室内や自宅敷地内でも対応できるようにしておく必要があります。
ですから、「絶対に犬は毎日お散歩に行かなければならない」というのは、全ての犬に当てはまるわけではなく、災害や飼い主さんの病気などで散歩に忌めないこともあります。
偏り過ぎた極端な解釈が、一般的に広まってしまっていることを知ってほしいと思います。
まとめ
愛犬の体格を心配して、獣医師の診察をうける飼い主さんが多くいます。
その多くが、「散歩が嫌いだから歩かない」「散歩しているのに太る」「食べないのに痩せない」など、誤った認識で、純粋運動量と食事のバランスが崩れ、散歩や運動に対する認識が、本当に犬が必要としていることとは異なっているため、実際には大きなストレスとなって体調不良になっている犬も多くいます。
少しだけ、犬の気持ちになって想像してみてください。大好きな人と、手を繋いで心を通わせるお散歩は、心を育てます。思いっきり遊んで、走って、笑って、お腹がすきます。ご近所づきあいもとっても大切です。
排泄の散歩、飼い主さんとの散歩、純粋運動それぞれが、犬にとって別の役割を果たしていることに意識を向けてあげると、愛犬のお散歩や運動の質がより良いものに変えてあげられるのではないでしょうか。