犬が体をブルブルする理由
犬が体をブルブルと震わせる行動は、単に体を乾かすためだけではありません。この行動には、犬の心理状態や体調を示す重要な意味が隠されています。
最も分かりやすい理由は、シャンプー後や雨の日の散歩の後などに見られる、体についた水分を飛ばすための生理的な行動です。犬は体を数秒間激しく振動させることで、体表の水分を効率的に取り除き、体温の低下を防いでいます。これは水だけでなく、体についた汚れや抜け毛を払い落とす役割も担っています。
しかし、体が濡れていない状況でも犬は体をブルブルさせます。これは、犬が使うボディランゲージの一種である「カーミングシグナル」としての役割が大きいと考えられています。
カーミングシグナルとは、犬が自分自身や周りの相手を落ち着かせ、ストレスを和らげるために見せる行動のことです。例えば、緊張する出来事があった後や、興奮状態から平常心に戻ろうとする時に、気持ちをリセットするスイッチのようにこの行動を使います。
愛犬が体をブルブルさせる時、それは体だけでなく心についたストレスや興奮を振り払っているサインなのかもしれません。
犬が体をブルブルさせる状況別の意味
犬が体をブルブルさせる行動は、その時の状況によって意味合いが異なります。愛犬の気持ちをより深く理解するために、代表的なシチュエーションごとにその意味を見ていきましょう。
「散歩中」にブルブルするケース
散歩中に見せるブルブルには、複数の意味が考えられます。散歩から帰宅した直後にブルブルする場合、それは「楽しかった散歩が終わって、おうちモードに切り替えよう」という気持ちの区切りを表していることが多いです。
また、散歩の途中で知らない犬とすれ違ったり、工事現場の大きな音を聞いたりした後にブルブルするのは、感じた緊張やストレスを自分で解消しようとするカーミングシグナルの一環です。不安な気持ちを振り払い、落ち着きを取り戻そうとしています。
「混合ワクチン接種後」にブルブルするケース
動物病院での診察や混合ワクチンの接種後に、愛犬が体をブルブルさせる姿を見たことがある飼い主は多いでしょう。
これは、慣れない場所で多くの人や他の動物に囲まれたり、注射をされたりしたことによる緊張や恐怖心から解放されたいという気持ちの表れです。一連のストレスフルな出来事が終わった安堵感から、溜まったストレスを体ごと振り払ってリセットしているのです。
これは犬にとってごく自然なストレス解消法であり、心配する必要はほとんどありません。
「撫でた後」にブルブルするケース
飼い主が撫でた後に犬がブルブルする場合、これにはポジティブな意味と、少しネガティブな意味の両方の可能性があります。
リラックスして気持ちよさそうに撫でられた後にするブルブルは、「気持ちよかった、満足した」という合図や、リラックス状態から体を起こすための準備運動のような意味合いがあります。
一方で、犬が望んでいないタイミングや、あまり触られたくない場所を撫でられた後にブルブルするのは、「ちょっと不快だった」「もうおしまいにしてほしい」という小さなストレスのサインかもしれません。
その際の犬の表情や、すぐにその場を離れようとしないかなど、他の行動と合わせて気持ちを判断することが大切です。
注意が必要な犬のブルブル
ほとんどの場合、犬のブルブルは生理現象や気持ちの切り替え行動ですが、中には注意すべきサインが隠れていることもあります。見過ごすと危険なブルブルのサインについて解説します。
「頻繁に」ブルブルする
特定の状況に関係なく、一日を通して体をブルブルさせる回数が異常に多い場合は注意が必要です。もし、リラックスしているはずの状況でも頻繁に体を震わせているなら、体のどこかに痛みや不快感を抱えている可能性があります。
その行動がいつから始まったか、どんな時に多いかを記録し、獣医師に相談することをおすすめします。
「体がかゆくて」ブルブルする
体をブルブルさせる行動が、耳や皮膚のかゆみから来ているケースは非常に多く見られます。
特に、頭を振るようなブルブルを頻繁にする場合は、外耳炎のサインかもしれません。外耳炎になると、耳の中に違和感やかゆみが生じるため、それを振り払おうとして頭を激しく振ります。
他にも、アレルギー性皮膚炎やノミ・ダニの寄生によって体がかゆい場合、体を掻いたり舐めたりする行動と合わせてブルブルすることがあります。
「寒さ」でブルブルする
人間が寒い時に体が震えるのと同じように、犬も寒さを感じると体を震わせることがあります。これは筋肉を細かく収縮させて熱を産生する「シバリング」という生理現象です。
特に、トイプードルやチワワのような体の小さい小型犬や、被毛の少ない犬種は寒さに弱いため、冬場の室内や散歩中には注意が必要です。体を丸めて震えている場合は、室温を調整したり、服を着せたりするなどの防寒対策をしましょう。
「病気」が原因でブルブルする場合も…
体をブルブルさせるのではなく、小刻みにカタカタと震える「振戦(しんせん)」が続く場合は、病気のサインである可能性が考えられます。考えられる病気には、てんかんなどの神経疾患、中毒、低血糖、腎臓病による体の痛みなど、多岐にわたります。
特に、意識が朦朧としていたり、けいれんを伴ったりするような震えは緊急性が高い状態です。このような症状が見られた場合は、様子を見ずに直ちに動物病院を受診してください。
「老犬」がブルブルする場合は注意が必要
シニア犬になると、様々な理由で震えが見られるようになります。筋力の低下によって体を支えるのがつらくなったり、関節の痛みから震えたりすることがあります。
また、若い頃に比べて体温調節機能も衰えるため、寒さを感じやすくなることも一因です。老化によるものと判断する前に、他の病気が隠れていないか、一度動物病院で健康診断を受けると安心です。
犬がブルブルできない・させたい時に使える裏技
シャンプーの後など、体をブルブルして水分を飛ばしてほしいのに、なぜかなかなかしてくれない子がいます。
びしょ濡れのままでは体が冷えてしまいますし、部屋中が濡れてしまうのも困りものです。そんな時に、犬のブルブルを自然に促すためのちょっとした裏技があります。
その方法は、犬の首筋や耳の付け根あたりに、飼い主が「フッ」と優しく息を吹きかける方法です。
このわずかな刺激が、犬が体をブルブルさせるスイッチを入れるきっかけになることがあります。
多くのトリマーも使うテクニックですが、あくまで優しく、驚かせないように行うのがポイントです。息を強く吹きかけたり、犬が嫌がったりする素振りを見せたらすぐにやめましょう。この方法でブルブルを促し、素早く体を乾かす手助けをしてあげてください。
まとめ
犬が体をブルブルさせる行動は、体を乾かすという単純な理由から、ストレスや興奮をリセットするための気持ちの切り替えまで、非常に多くの意味を持つコミュニケーションの一つです。
ほとんどの場合は心配のない生理的な行動やカーミングシグナルですが、その頻度や状況、他に併発している症状によっては、かゆみや痛み、病気のサインである可能性も否定できません。
大切なのは、普段から愛犬の様子をよく観察し、「いつもと違うな」という変化に気づいてあげることです。日々の行動の意味を理解することで、愛犬との絆はより一層深まります。
もし、ブルブルの様子に少しでも不安を感じることがあれば、決して自己判断せず、かかりつけの獣医師に相談するようにしてください。