犬にも反抗期がある?
結論からお伝えすると犬にも反抗期があります。
今までお利口だった愛犬が、急に言うことを聞かなくなったり、問題行動を起こしたりするのは、病気やしつけの失敗だけが原因ではありません。それは犬が子犬から成犬へと成長する過程で多くの犬が経験する、ごく自然な行動の変化なのです。
この時期の行動は、飼い主さんを悩ませるかもしれませんが、犬の心と体が健やかに発達している証拠でもあります。
犬が反抗期になる理由
犬が反抗期になる主な理由は、人間の子どもが思春期を迎えるのと同様に、成長に伴うホルモンバランスの変化と自我の芽生えにあります。子犬期を終え、成犬へと体が成熟していく中で、精神的にも自立しようとし始めます。
自分の意思で行動したいという気持ちが強くなり、これまで素直に従っていた飼い主の指示に対して、自分の考えを試すような行動をとることがあります。
特に、去勢や避妊手術をしていない場合、性ホルモンの影響がより顕著に現れることがあります。
性ホルモンとは、雄犬の場合はテストステロン、雌犬の場合はエストロゲンといった、生殖機能に関わるホルモンのことです。これらのホルモンの分泌が活発になることで、縄張り意識が強まり、マーキング(おしっこで匂いをつける行動)が増えたり、他の犬に対して攻撃的になったり、マウンティングなどの行動が見られやすくなります。これは、自分の存在を主張し、社会的な順位を確認しようとする本能的な行動です。
犬が反抗期になる時期はいつ?
犬の反抗期は、一般的に生涯で2回訪れると言われています。ただし、犬種や個体差、成長のスピードによって時期は前後します。
第1次反抗期(生後6ヶ月~1歳)
最初の反抗期は、生後6ヶ月から1歳頃に訪れます。小型犬ではやや早く、大型犬ではやや遅い傾向があります。この時期は、子どもの体から大人の体へと急速に成長する時期で、人間でいえば「思春期」にあたります。
乳歯が永久歯に生え変わるむずがゆさや、性ホルモンの分泌が活発になることによる心身のアンバランスさが、不安定な行動として現れます。
第2次反抗期(1歳半~2歳)
2回目の反抗期は、1歳半から2歳頃に見られることがあります。この時期には体はすっかり成犬になっていますが、精神的な「社会性の成熟期」を迎えます。飼い主との関係性や、家族の中での自分の立ち位置を再確認しようとする時期です。
より知恵がつき、飼い主の反応を試すような、少し複雑な問題行動として現れることもあります。
犬の反抗期の行動
反抗期に見られる行動は様々です。愛犬の行動がこれらに当てはまるか確認してみましょう。
飼い主からの「指示を無視」する
これまで完璧にできていた「おすわり」や「まて」、「おいで」といった基本的な指示に従わなくなることがあります。
聞こえているはずなのに、わざとそっぽを向いたり、全く違う行動をとったりします。これは、飼い主の指示よりも自分の好奇心や欲求を優先したいという、自我の芽生えの表れです。
トイレを「わざと失敗」する
トイレの場所をきちんと覚えていたにもかかわらず、わざと違う場所で粗相をすることがあります。特に、部屋の角や家具などに足を上げておしっこをする「マーキング」行動が見られる場合は、縄張り意識が強くなっているサインです。これは自分の匂いをつけることで、自分のテリトリーを主張する本能的な行動です。
飼い主に「攻撃的な行動」を取る
飼い主に対して唸ったり、歯を当ててきたりすることがあります。
特に、おもちゃを取り上げようとした時や、食事中、体を触られた時などに、自分の所有物を守ろうとして攻撃的な態度を見せることがあります。犬種や個体によっては警戒心が強く、より攻撃的に見える場合があります。
飼い主に「要求する行動」が増える
自分の要求を通すために、執拗に吠え続けたり、飼い主の気を引くためにイタズラをしたりすることが増えます。例えば、「おやつが欲しい」「散歩に行きたい」といった要求を、吠えることで伝えようとします。これに応えてしまうと、犬は「吠えれば要求が通る」と学習してしまいます。
他の犬や人に対して「過剰に反応」する
散歩中に他の犬や人に会った際、以前よりも激しく吠えかかったり、逆に怖がって隠れたりすることがあります。これは、社会性が成熟していく過程で、他者との距離感や関わり方を自分なりに探っている状態です。
犬の反抗期の対処方法
愛犬の反抗期は、飼い主の対応次第で、その後の信頼関係をより深いものにするチャンスにもなります。焦らず、冷静に対処しましょう。
一貫性のある態度を保つ
この時期に最も重要なのは、飼い主が一貫した態度を保つことです。「良いこと」と「悪いこと」の基準を、その日の気分で変えてはいけません。
家族がいる場合は、全員でルールを統一し、誰が対応しても同じ結果になるように徹底しましょう。犬は、ルールが一貫していることで安心感を覚え、何をすべきかを学びます。
リーダーシップを再確認させる
力で押さえつけるのではなく、飼い主が頼れるリーダーであることを行動で示しましょう。例えば、散歩の主導権は飼い主が握り、犬が勝手な方向に進もうとしたら静かに立ち止まる、食事は「まて」をさせてから与えるなど、日常生活の中で穏やかに主導権を示します。
飼い主が落ち着いて堂々と振る舞うことが、犬の精神的な安定に繋がります。
基本的なトレーニングを復習する
反抗期だからとトレーニングを諦めるのではなく、むしろ積極的に行いましょう。ただし、難しいことに挑戦させるのではなく、「おすわり」や「ふせ」といった、すでに覚えている簡単なコマンドを成功させて、たくさん褒めてあげることが重要です。
成功体験を積ませることで、犬は自信を取り戻し、「飼い主の言うことを聞くと良いことがある」と再学習します。
エネルギーを発散させる
有り余るエネルギーが、問題行動の原因になっていることも少なくありません。散歩の時間を少し長くしたり、コースを変えて新しい刺激を与えたり、ドッグランで思い切り走らせたりして、十分に運動させましょう。
また、知育トイ(フードやおやつを隠し、犬が考えて取り出すおもちゃ)を使って頭を使わせることも、良いストレス発散になります。
叱るのではなく「無視」も有効
要求吠えや気を引くためのイタズラなど、飼い主の反応を期待して行っている行動に対しては、大声で叱るより「無視」する方が効果的な場合があります。
犬は反応が得られないと分かると、その行動をやめるようになります。ただし、物を破壊したり、自分や他者を傷つけるような危険な行動は、はっきりと「いけない」と短い言葉で伝えてやめさせる必要があります。
まとめ
犬の反抗期は、多くの飼い主が直面する成長過程の一環です。これまでのお利口な姿とのギャップに、戸惑い、不安になることもあるでしょう。しかし、これは愛犬が心身ともに健康に成長している証であり、決して飼い主さんとの関係が悪化したわけではありません。
この時期は一時的なものです。大切なのは、飼い主が感情的にならず、一貫した愛情深い態度で、頼れるリーダーとして接し続けることです。ここで築かれる信頼関係は、反抗期を乗り越えた後の、より豊かで素晴らしい愛犬との生活の礎となります。焦らず、愛犬の成長を温かく見守ってあげましょう。