犬の遠吠えは本能!
犬の遠吠えはオオカミから引き継いだ本能のひとつで、空に向かって細く長く、遠くの仲間に呼びかけるような鳴き声です。
犬が遠吠えをする理由は、オオカミと同じく群れの仲間とのコミュニケーションのためでもあります。
しかし、犬はペットとして長い歴史を人間とともに進化してきたため、その暮らしに合わせて遠吠えする理由も変化しています。
どことなく悲しげに響く犬の遠吠え。犬はなぜ遠吠えをするのでしょうか。
オス・メスどちらでも犬は遠吠えをする
遠吠えというと、オス犬がするイメージがあります。しかし、遠吠えをするのに性別は関係なく、メス犬でも遠吠えをします。
メス犬の場合は特に発情期になると情緒不安定になったり神経質になったりして、遠吠えをすることがよくあります。
本能であるため完璧にやめさせるのは難しい
犬の遠吠えは本能が関係しているため、完全に止めさせるのは難しいでしょう。犬は特定の環境に置かれたり、特定の感情を抱いたりすることにより、遠吠えする本能をもっているからです。
ただし、オオカミも犬も、理由なく遠吠えをしているわけではありません。遠吠えをするタイミングがわかっているのであれば、その環境を変えてあげるだけで遠吠えは減っていくでしょう。
犬が遠吠えをする原因
犬はなぜ遠吠えをするのでしょうか。細く長く響く犬の遠吠えはどこか物悲しく聞こえてしまいます。
犬は人間との暮らしの中で、どんなときに遠吠えの本能が呼び起されてしてしまうのでしょうか。犬が遠吠えをする原因について考えてみましょう。
犬同士のコミュニケーションを取っている
犬は、遠くの仲間とコミュニケーションをとるために遠吠えをしているともいわれています。犬の遠吠えの由来は、オオカミの遠吠えにあるからです。
アメリカの生物学者・ダグ・スミス氏によると、オオカミの遠吠えには以下の3つの理由があるといわれています。
- 群れからはぐれた仲間を探すため
- 群れ以外の個体に自分の縄張りを知らせるため
- 仲間の絆を維持するため
オオカミの遠吠えは、森林という音響の中で草木や葉に吸収されずに遠くまで通りやすく、数キロ先まで届くといわれています。
オオカミが遠吠えをする理由から考えると、犬もまた、遠くにいる相手との交信をするために遠吠えするのではないかと考えられます。
留守番で寂しいと感じている
犬は、留守番などでひとりぼっちにされると寂しくなり、遠吠えをすることがあります。
犬はもともと群れで暮らす生き物です。長時間の留守番や庭に繋がれて家族と隔離されることで寂しさや悲しさを感じ、仲間を求めるように遠吠えをするのです。
分離不安を持つ犬は特に、ひとりぼっちにされると不安を感じやすく、精神的に不安定になり遠吠えを続けてしまうことがあります。
どうしても留守番が長くなってしまったり、室内で飼うことが難しい場合は、なるべくコミュニケーションをとるなどして、少しでも犬の不安を和らげてあげましょう。
ストレスを発散している
犬はストレス発散のために遠吠えをしていると考える説もあります。
犬は遊びや散歩が足りないと体を動かすことができずストレスがたまり、それを発散させるために遠吠えをしていることもあります。
ストレスを感じて遠吠えをしやすくなる環境や状況としては、やはり外飼いでのコミュニケーション不足、完全室内飼いの散歩や運動不足が考えられるでしょう。
遠吠えをしても完全にストレスを発散することは出来ませんので、犬のストレスの根本原因の改善を検討しましょう。
音楽やサイレンなどの音に反応している
パトカーやサイレン音などを聞くと遠吠えをする犬がいるのは、遠吠えに似た音程に応えているという可能性が考えられる一方、オオカミが遠吠えするもう一つの理由、「仲間との絆を深めるため」ともいわれています。
オオカミは、理由は明らかにはなっていませんが、群れで「合唱」することが知られています。「合唱」は朝や夜、移動の前などに行われ、群れの団結力の強化に役立っていることも示唆されています。
これは、ダグ・スミス氏が唱えた遠吠えを行う3つの理由の3番目「仲間との絆を維持するため」にあたります。
サイレンではなく飼い主の歌声に合わせて遠吠えをする犬は、仲間との絆を維持するために合唱しているとも考えられるでしょう。
どちらにしても、サイレンや飼い主の歌声を、仲間の遠吠えもしくは歌声だとみなし、それに応えて遠吠えをしていると考えられます。
老化により認知症になっている
歳を重ねて認知症になると、遠吠えをしやすくなる犬もいます。
歳をとって目が白内障で見えなくなり、耳も遠くなると、不安な気持ちが強くなります。その不安を抑えきれず、誰かにそばにいてほしいと訴えるために遠吠えしてしまうのです。
認知症の症状の一つに昼夜逆転があり、それと組み合わさると、夜中に徘徊して遠吠えをするという困った行動が続いてしまうこともあるでしょう。
あまりにひどいときにはひとりで介護を頑張りすぎず、獣医師に精神安定剤や睡眠薬などを処方してもらうことも検討しましょう。
病気や怪我で痛みを感じている
怪我の痛みや精神的・肉体的な苦痛の表現として遠吠えをする犬もいます。
犬は痛みを我慢する本能を持っていますが、それでも強い痛みや苦痛に耐えきれず、または痛みを訴えるために遠吠えすることもあります。
肉体的な痛みや苦痛だけでなく、精神的な苦痛の表現として遠吠えをしている場合もあります。前述の分離不安症の犬は、飼い主不在に不安や精神的苦痛を感じて遠吠えをしてしまうのです。
犬が遠吠えをするときの対策
夜中に犬が遠吠えすると、うるさいと近所から苦情がきてしまうこともあるでしょう。それが続けばいつかは通報されてしまうかもしれません。
しかし、ペットの犬は孤独や寂しさのために遠吠えをしていることがあります。犬の寂しさや孤独は、飼い主側のライフスタイルに犬が本能をおさえて合わせていることで募っていきます。
そのため、無理にやめさせるのではなく、コミュニケーションや散歩の時間を多めにとるなどして、犬が自然に遠吠えをしないようになる環境を整えることから始めましょう。
遠吠えをしても返事をしない
犬の遠吠えに飼い主が答えたり喜んだりすると、注目してもらったことが報酬となって遠吠えを繰り返すようになります。
この「行動→報酬→行動強化」のループは、「オペラント条件付け」という仕組みで起こります。これは犬のしつけ方法にも取り入れられている学習理論です。
何かの刺激で犬が遠吠えをした際、飼い主が面白がって遠吠えで応えたり喜んだりすると、それが犬にとって「報酬」となります。
つまり、遠吠えをすると飼い主が喜んでくれるという「報酬」がもらえるため、さらに遠吠えをしやすくなるという仕組みです。
同じ理論で、遠吠えをしても返事をしない、遠吠えに答えないようにすると、遠吠えをしても報酬がもらえないことを犬が覚え、遠吠えは少しずつ減っていきます。
犬のストレス発散を考える
犬の遠吠えの原因として、寂しさやストレスが考えられます。
現代の犬はひとりぼっちにされる時間が長く、寂しさやストレスを抱えやすい環境に置かれているからです。
留守番が長かったり、家族と隔離されて飼育されたりすると、群れをつくって生活するという本能を持つ犬は、本来の生き方を制限されて生活しなければなりません。
犬の心が満たされれば、遠吠えの回数は少なくなっていくでしょう。コミュニケーションの時間を多めにとる、散歩の回数を増やすなど、まずは犬がストレス発散できる方法を考えましょう。
飼育場所を変えてみる
庭先に繋いで飼っている場合、犬は遠吠えしやすくなってしまいます。
家族と隔離されることで寂しさや不安を感じたり、外からの刺激に反応しやすくなったりするからです。
近所の犬の遠吠えや救急車のサイレン、または市内放送に反応する外飼いの犬などがその例でしょう。
犬の不安や寂しさを解消するためには、犬の飼育場所を物理的に外が見えず、家族の姿が見えるような場所に移動するなどの環境改善が必要です。
病気が原因なら治療をする
認知症などの病気が原因で遠吠えをするのであれば、病気の治療をすることが優先です。決して叱らず、治療での症状改善に努めましょう。
犬の認知症は特に日本犬血統の犬種に多く、動物エムイーリサーチセンターの調べによると、34%が柴犬だったと報告されています。
認知症の場合、昼夜逆転をした遠吠えが特に飼い主を悩ませます。そんな時は遠吠えという行動を修正するのではなく、病気の治療に専念しましょう。
犬の認知症には、食餌療法のほか、精神を安定させる薬や漢方療法なども取り入れて症状の改善を目指す治療法もあります。
監修ドッグトレーナーによる補足
認知症の初期症状や治療開始時は、抗酸化物質の含まれた食事やサプリメントを与えることで症状が落ち着く場合もあるようです。
また、10歳頃から(日本犬種は7歳頃から)抗酸化物質の含まれた食事やサプリメントを始めたり、脳に良いとされるDHAやEPAを含むサプリメント与えることで認知症予防に効果が期待できるかもしれません。
おもちゃで気をそらす
犬の遠吠えを止めさせるためには、大好きなおもちゃで遊ぶことも有効です。
犬は飼い主とのコミュニケーション不足でもストレスを抱え、吠えやすくなります。特に一日中家の中にいて散歩が不足していたり、留守番が多かったりすると、退屈でストレスがたまり、大声を出すことで発散しようとします。
大好きなおもちゃで遊んでストレスを解消できれば、遠吠えの回数も少しずつ減っていくでしょう。
監修ドッグトレーナーによる補足
遠吠えをしている時ではなく、遠吠えをしていない時に散歩へ出かけたり、遊んであげることが大切です。
犬に遠吠えをさせたいときの覚えさせ方
ここまでは、遠吠えをやめさせる方法について解説しました。しかしここからは、遠吠えする姿をかわいいと感じ、自分の愛犬にも遠吠えさせてみたいと考える方に向けて、遠吠えのさせ方について解説します。
犬に遠吠えをさせたいと考えるなら、犬が遠吠えをする理由から考えてみましょう。犬が遠吠えをする理由としては、以下のことが考えられます。
- 遠くの仲間とのコミュニケーション
- 群れ(家族の)絆を深める「合唱」
- 寂しさやストレスを感じている
- 苦痛や痛みを感じている
4つのうち、トレーニングに応用できるとしたら、1か2の理由でしょう。
飼い主が遠吠えを真似することで、犬がそれに応えて遠吠えをすることがあります。犬によって反応する音程が違いますので、いろんな音色で遠吠えを真似してみましょう。
そして、それに犬が応えて遠吠えをしたら、たくさんほめてごほうびを与えます。それを繰り返すことで、飼い主に応えて遠吠えする行動が強化されていくでしょう。
遠吠えをしやすい犬種
犬には、遠吠えをしやすい犬種とほとんどしない犬種に分かれます。
一般的に、オオカミに近い犬種は遠吠えをしやすいといわれます。柴犬、日本犬の血が混じった雑種は遺伝的にオオカミに近いといわれているため、遠吠えをしやすい犬種といえます。
また、シベリアンハスキーやアラスカンマラミュートやハウンド系の犬種、特に吠え声で獲物を追い込むセントハウンド系の犬種もよく遠吠えをします。
逆に遠吠えをしにくい犬種は、フレンチブルドッグやパグのようにそもそも吠えることをあまり得意としない短頭種、愛玩犬のマルチーズやトイプードルなどがあげられます。
犬の遠吠えする声に異変があったら注意
普段遠吠えをする犬が、いつものタイミングで遠吠えをしなくなったり、遠吠えをする声がかすれていたりする場合には注意が必要です。
今までしていたことを急にしなくなった場合には病気が隠れている場合もあるため、早めの受診を心がけましょう。
遠吠えをしなくなったら老化の可能性
今まで遠吠えしていた音に反応しなくなったら、老化の可能性があります。犬も高齢になると五感が鈍り、外の刺激に対する反応が鈍くなります。
特に今まで遠吠えのきっかけになっていたサイレンや市内放送などに反応しなくなったら、耳が遠くなって音が聞き取りにくくなっている可能性があります。
これは、どの犬でも歳をとれば起こる自然現象なので、静かに見守りましょう。
遠吠えがかすれるなら病気の可能性
遠吠えはするけれどその声がかすれていたり、咳き込む様子が見られたら、病気が疑われます。声のかすれや咳を症状とする病気としては、気管や喉、声帯に問題があるものが考えられるでしょう。
例えば気管虚脱、咽頭がん、咽頭麻痺、咳を主症状とする場合にはケネルコフや心臓疾患も考えられます。
声の異常は飼い主が気づきやすい病気です。中には命に係わるものや、大変な苦痛を伴うものもありますので、気づいた時点で受診することをおすすめします。
まとめ
犬の遠吠えはオオカミから受け継がれた本能によるものです。ただし、ペットの犬が遠吠えをする場合には、寂しさやストレスなど、オオカミとは違う理由もあります。
飼い主のライフスタイルに合わせて、犬たちはときには本能に反した生活をしなければなりません。群れで生活する動物が長時間留守番をしたり、家族の顔が見えない場所に隔離されてしまったり。そんなときに響く遠吠えは、不安や寂しさを伝えるものでしょう。
犬の遠吠えを止めさせたいとおもったら、吠えるのをやめさせることより、犬を吠えざるをえなくさせている環境の改善から始めましょう。
犬と人間、別の種が一つの家族として同居するのだから、お互い心地よいと感じるライフスタイルは違います。犬にがまんさせるだけでなく、犬の心に寄り添った飼育を心がけましょう。