犬が鼻を鳴らす理由
犬が鼻からピーピーと笛のような音や、ブーブーと苦しそうな音を出しているのを聞いたことがあるでしょうか。犬が鼻を鳴らすのは、その音色や鳴らし方によって様々な意味があり、コミュニケーション手段の一つでもあります。
この記事では、鼻を鳴らす音によって違う犬の心理や体の状態について解説します。
匂いを嗅いだ後に嗅覚をリセットしている
犬は、匂いを嗅いだ後に鼻に残った匂いの粒子を吐き出そうとして「フンッ」と勢いよく鼻から空気を吐き出すことがあります。
犬は、匂いの粒子を鼻から吸い込み嗅細胞で感知します。その匂いが求めていた物とちがったり刺激が強すぎると、嗅覚をリセットするために鼻の中から粒子を出そうとして強く鼻息を吐きます。
たとえば、散歩中に草むらに鼻を突っ込んだ後、勢いよく「フンッ」と鼻を鳴らす場合は、嗅覚をリセットしようとしているのでしょう。ただし、頻繁に続く場合や連続して何度も鼻を鳴らすときは、異物が詰っていないか確認してみましょう。
犬の感情や意思を表現している
犬が鼻を鳴らすのは、感情表現や意思表示の意味もあります。
ため息のように長めに「フー」と鼻を鳴らす時は犬が満足していたり落ち着いていることを表しています。また、興奮がエスカレートしてブーブーと鼻を鳴らしたり、見知らぬ犬に威嚇するように短く鼻を鳴らしたりもします。ピーピーと甲高い声で鳴くのは飼い主に構ってほしいときです。
犬は、コミュニケーションの手段としても鼻を鳴らします。何を表現しているかは、鼻の鳴らし方だけでなく姿勢や耳の位置、尻尾の高さなど全体的に見ると理解しやすいでしょう。
犬の呼吸状態や空気の通り道の異常を示している
犬が鼻を鳴らすのは、鼻や呼吸器官の異常を示している場合もあります。
パグやフレンチブルドッグなどの短頭種は、先天的な鼻腔や気管の異常が多く、空気の通り道が狭くなり呼吸がしにくくなることがあります。この鼻腔や呼吸器官の構造的な問題による症状を、総合して「短頭種気道症候群」といいます。
悪化すると呼吸がしにくくなることで脳に酸素が取り込めなくなり、チアノーゼ状態になる可能性がありますので、特に呼吸が乱れやすい夏場や、高齢犬、肥満犬で鼻が鳴る場合には注意しましょう。
監修ドッグトレーナーによる補足
チアノーゼとは、酸素不足によって皮膚や粘膜が青紫色になる症状です。
正常な犬の舌の色はピンクから淡い赤色ですが、呼吸困難の症状に伴って赤紫色から青紫色になり、多くの場合おすわりの姿勢となり、首を伸ばして動けなくなります。重症になると起き上がることが出来ずに横になってしまいます。
その他にも息切れや咳、倦怠感や意識障害など、これらの症状が見られたら早急に動物病院を受診することが重要です。
犬が鼻を鳴らす音の種類によって異なる意味
犬にとって、鼻を鳴らすこともまた意思表示のひとつ。
犬は、たくさんのコミュニケーション手段を持っています。鼻を鳴らす音色一つでも伝えたい意味が異なってきます。
犬がどんなことを伝えようとしているか、音のパターンごとに解説します。
「フー」というため息のような音は「リラックス」
安静状態のときに「フー」とため息のような音をだしているのなら、リラックスや嬉しい気持ちを表しています。人間ももおなかいっぱいで満足したときや、家に帰って落ち着いたときに「フー」とため息がでることがありますが、犬も同じです。
ご飯を食べ終わった後にソファーで横になり、目を半開きにして「フー」と鼻息がでているときは、満足してリラックスしている状態です。
監修ドッグトレーナーによる補足
犬がフーッとため息のような鼻息をだすのは、人間の深呼吸と同じです。
活動によって疲れた体を修復させる副交感神経をはたらかせることにより、心身をリラックスさせています。
「フンッ」という短く勢いのある鼻息は「威嚇」のサイン
勢いよく鼻から「フンッ」と音を出すのは、「威嚇」のサインかもしれません。鼻息だけでなく、犬の置かれている状況からもそれがわかります。
見知らぬ人や犬がいる場合に、犬は警戒や威嚇により短く鼻息を吐くことがあります。犬の体は固くこわばり、ときには体毛が逆立っている場合もあるでしょう。
興奮して吠えかかる気配がみられる場合には、すぐにその場を立ち去るようにしましょう。
「ピーピー」「クンクン」という高い音は「構ってほしい」アピール
鼻を上にむけて「ピーピー」と高い音を出したり、「クーン」と細く鳴いたりするときは、構ってほしいというアピールや、不安な気持ちを表しています。
これは、子犬によくある鳴き声ですが、成犬になっても甘えたいときや構ってほしいときに鼻をピーピー鳴らして飼い主を上目遣いで見つめます。犬が鼻を鳴らすたびに構っていると、鼻を鳴らせば飼い主の気を引けることを覚えてしまいます。
そんなときは、「おすわり」「お手」などの簡単な指示を出し、指示通りにできたらご褒美をあげて撫でるといいでしょう。
細い鼻声で「クーン」と鳴くのは「痛み」や「不安」から
犬の態度や表情によっては、恐怖や不安、どこかに痛みを感じている可能性もあります。特に体に触れられることを嫌がるときは、どこかに痛みを感じているかもしれません。
また、神経質な犬なら、少し環境が変わるだけでも不安やストレスを感じて鼻を鳴らします。注意深く観察し、場合によっては獣医師の診断を受けましょう。
「ガーガー」「ブーッ」という苦しそうな音は病気の症状かも
苦しそうな様子で鼻を鳴らしているときは、病気の症状かもしれません。
特にブルドッグやパグなどの鼻の短い犬種は、鼻や気管に構造的な問題を抱えており、空気の通り道が狭くなりガーガー、ブーという濁音を出すことがあります。その症状は老犬になるほどひどくなります。
外科手術で治る場合もありますので、あまりひどいようなら一度病院で診てもらいましょう。
また、短頭種や小型犬は特に、「逆くしゃみ」の症状を起こしやすいといわれています。ブーッ、ブーッと苦しそうに息を吸い込んでいる様子は、くしゃみというよりしゃっくりのように見えます。通常、症状は長くは続かず数十秒で収まったあとはケロッとしています。
逆くしゃみの原因は不明で、対処法もはっきりとはわかっていません。
犬が鼻を鳴らす時の注意すべき症状
犬が鼻を鳴らしているだけでなく、苦しそうなときや長時間止まらない場合には、以下のような病気が原因かもしれません。
- 短頭種気道症候群
- 気管虚脱
- 鼻炎副鼻腔炎
- 心臓病やそれに伴う肺水腫
- 鼻の腫瘍
短頭種気道症候群を持つ犬種は、落ち着いた状態でも鼻をグーグー鳴らし、寝ているときには大きないびきや無呼吸といった症状が出ます。パグやブルドッグなどの短頭種の飼い主は、このブヒブヒという呼吸音や大きないびきを微笑ましく思うでしょうが、重症の場合は外科手術で処置をしなければなりません。
鼻炎や副鼻腔炎など鼻腔に炎症が起きて、フガフガと苦しそうな音で鼻呼吸をしていることも考えられ、この場合はくしゃみや鼻水、涙を伴います。
また、心臓病による肺水腫を引き起こすことでも、鼻を鳴らして苦しそうに息をする症状が出ます。心臓病が進んで肺血管の血圧が上がると、血液中の水分が肺にたまって呼吸困難になり、鼻や口で喘ぐような息をするようになります。
まれに鼻腺癌という鼻の中にできる癌によって鼻呼吸がしづらい場合もあります。鼻の腫瘍は腫瘍全体の1%程度で、早めに放射線治療を行なうことで80%は回復すると言われていますが、早期発見、早期治療が何より大切です。
犬が鼻を鳴らす時の適切な対処法
犬が鼻を鳴らすときの対処法は原因によって異なりますが、病気でない場合はトレーニングや接し方次第で改善することもできます。
以下で、鼻を鳴らす理由ごとに対処方法を紹介しますので、参考にしてみてください。
犬とのコミュニケーション時間を十分にとる
犬がピーピーと鳴いて「構ってほしい」というサインを出していたら、犬とのふれあいの時間を増やしましょう。
遊ぶ時間を増やしたり、散歩を増やしたりすることが難しい場合は、短時間でも充実した遊び時間を一緒に過ごしてあげましょう。ただし、「構ってほしい」のサインが出るたびに要求に応えると、少々わがままな性格になってしまう可能性もあります。
おとなしくしているときやピーピー鳴くのをやめたときに、おやつを与えて褒めるようにしましょう。
威嚇で鼻を鳴らす場合はシチュエーションを把握して止める
威嚇で鼻を鳴らす場合は、犬が鼻を鳴らすシチュエーションを把握することで、鳴らす前に止めることができます。
知らない人と出会ったときや他の犬が近づいてきたときなど、威嚇のために鼻を鳴らすシチュエーションがあらかじめわかっている場合は、犬が鼻を鳴らす前に指示を与え、アイコンタクトが取れたらご褒美をあげるトレーニングを繰り返しましょう。
トレーニングを続けると、そのシチュエーションになっても威嚇をしなくなります。
興奮しているときは、落ち着くまで待つ
犬が興奮してクンクン鳴いている場合は、落ち着くまで待ってから構うようにしましょう。
特に飼い主が帰宅した時に興奮して鼻を鳴らしている場合、すぐに構うと、興奮すれば飼い主が構ってくれたと勘違いして、さらにエスカレートして呼吸困難になることもあります。
犬が落ち着いてクンクン鳴かないようになってから構うようにしましょう。
病気を疑う場合は動画を撮って獣医師に相談
犬が苦しそうに鼻を鳴らしている場合は、病気の症状が出ているかもしれないため、すぐに獣医師に相談するようにしましょう。
実際にどのような症状か診てもらうために、犬が鼻を鳴らしているときの動画を撮って見せると、獣医師はより状態を把握することができ、診断に役立ちます。
まとめ
犬が鼻を鳴らす理由の多くは、感情を表現するためです。嬉しいとき、満足したとき、また寂しいときや威嚇するときなど、さまざまな音色で鼻を鳴らして犬は意思表示をします。
犬がどんなときにどのように鼻を鳴らしているか観察すると、日頃のコミュニケーションに役立つでしょう。
しかし、中には先天性の異常や病気などによって鼻が鳴っている場合もあります。特に、犬が辛そうにしている場合や、いつもと様子が違うときには早めに獣医師の診断を受けましょう。
鼻を鳴らす音だけでなく、日頃から犬のボディランゲージをよく観察することは、犬を理解することにつながり、病気の早期発見にも役立ちます。