犬に輸血が必要な病気
動物医療の発展と、飼い主さんの犬の治療に対する意識の変化によって、動物病院で輸血を行うケースは増えています。
皆さんがご存じの通り、輸血はいわゆる貧血の状態を改善するために行われます。生物は全血量の1/3以上が失われてしまうと生命の危機に晒されます。これは、例えば5kgの犬なら110ml失血するだけで、命に関わるということになります。
輸血が必要になる病気は、大きく分けて2つに分けられます。
出血による貧血
1つ目は、体の中や外のどこかで出血がおきて、身体から血液が失われているケースです。出血で血液そのものが足りなくなっている状態です。
- 外傷:交通事故や大きな切り傷など
- 胃潰瘍など消化管からの出血
- 感染症:内部寄生虫やノミなどによる吸血
- 腫瘤
赤血球に対する異常
2つ目は、何らかの原因で血液中の赤血球が壊されたり、作られなくなったりすることで、不足してしまい、貧血になってしまうケースです。この場合は、赤血球が壊されていることで、黄疸という症状が現れることがあります。
- 中毒:玉ねぎや薬物など
- 感染症:バベシア症(マダニが媒介)など
- 自己免疫性疾患
- 骨髄性疾患
- 腎臓病
貧血のときの症状について
犬の貧血の程度が軽いうちは、あまり症状に現れることはありません。貧血が進行するにつれ、症状として現れてきますが、病気がゆっくり進行している場合、犬の体が状況に慣れてしまい、症状が分かりづらい場合もあります。
定期的な健康診断で、血液の状態を確認して、早期発見に努めましょう。犬が貧血を起こしている場合、以下のような症状を起こすことがあります。これらの症状を見つけたら、早めに動物病院を受診してください。
- 運動不耐性:動きたがらない、散歩に行きたがらない
- チアノーゼ:歯茎や舌などの可視粘膜が青白くなる
- 心拍亢進、呼吸促拍
犬に輸血が必要なときに行われる検査
動物病院で、輸血が必要なほど貧血が進んでいると分かり、輸血することになった場合、輸血に向けて更に検査が必要です。それはどのような検査でしょうか。
犬の血液型検査
人にABO式の血液型があるように、犬にも血液型があります。犬ではDEA式という方法で、13種類以上の血液型に分類することができます。犬の輸血の場合でも、血液型が適合しているかが重要です。
動物病院では、輸血にとって重要な(DEA1.1)陽性・陰性の判定を行うことができます。供血犬を探す際には、受血犬の血液型と合致する血液型の犬を探します。
血液交差適合試験
血液型の一致する供血犬が見つかったら、供血犬と受血犬の血液同士を用いて、輸血の際に血液抗体による凝集反応の有無を調べます。血液型検査の結果が一致していても、交差試験の結果凝集が認められた場合は、輸血を行うことができません。
供血犬を探す
動物医療の世界では、人の献血制度のようなシステムはありません。ですので、飼い主や動物病院が供血犬を探さなくてはなりません。
「病院犬」という言葉をご存じですか?
動物病院で飼育されていて、輸血が必要な犬がいた場合に、供血犬として協力してくれている犬たちです。
病院犬のいる動物病院は、輸血が必要になった場合、その犬たちから採血を行うことができますので、早く輸血を始められるという利点があります。
ですが、犬自身の負担を考えると、病院犬からの供血では、血液が足りない場面が数多くあります。また病院犬がいない病院もたくさんあります。そんなときに備えて「供血ボランティア」という形で犬を募集している病院もあります。
それでも血液が足りないということが起こります。お近くの動物病院で「供血ボランティア」を募集していないか、ぜひ確認してみてください。
輸血を行った後の注意
貧血をおこしている犬に輸血を行うと、貧血が改善するため、犬の状態は良くなるでしょう。ですが、貧血は対症療法であり、病気自体を治してくれるわけではありません。輸血後の治療について、担当獣医師とよく相談しましょう。また、先述の検査結果に問題がなくても、輸血後に副反応が起こる場合があるため、処置後の管理が重要です。
まとめ
愛犬に輸血が必要になるような場面と、輸血を行う際に知っておきたい知識についてまとめました。輸血を行うような場面は、一刻も早く処置を始めたいことがしばしばあります。
実際の場面に遭遇した場合、輸血について改めて調べるような時間はないかもしれません。そのような場面に備えて、輸血に限らず、日頃から知識を収集しておくようにすると、いざという時にも後悔がない選択ができるでしょう。そして、一番は輸血が必要な場面に遭遇しないことです。
そのためには、日頃から愛犬の様子を観察したり、健康診断を受けたりして、健康管理をしていきましょう。