ポメラニアンが吠える理由
ポメラニアンは、その愛くるしい容姿と活発な性格で多くの人々を魅了する犬種です。
「ポメ」の愛称で親しまれ、日本でも常に人気上位にランクインしています。しかし、その一方で「吠えやすい」という悩みを持つ飼い主さんも少なくありません。ポメラニアンの吠えには、必ず何らかの理由が隠されています。
ここでは、ポメラニアンが吠える主な理由を5つ厳選し、それぞれの状況や意味、さらにはオスとメスの違いが影響するのかについても解説します。
ポメラニアンは、その小さな体に似合わず、かつては大きなそりを引いていた大型犬スピッツ犬種の子孫です。
そのため、番犬としての気質も受け継いでおり、警戒心が強く、物音や見知らぬ人に対して敏感に反応しやすい傾向があります。 これが「吠え」という行動に繋がりやすい一因とも言えるでしょう。
警戒吠え・縄張り吠え
ポメラニアンの吠えで最も一般的なものの一つが、警戒吠えや縄張り吠えです。これは、自分のテリトリー(縄張り)に見知らぬ人や他の犬が近づいたり、インターホンや窓の外の物音など、異変を察知した際に「警告」として吠える行動です。特にポメラニアンは聴覚が優れているため、人間には気にならないような小さな音にも反応することがあります。これは、「番犬の本能」とも言える行動で、家族や自分の縄張りを守ろうとする意識の表れです。玄関のチャイム、来客、窓の外を歩く人や自転車、他の犬の鳴き声などが主なトリガーとなります。
要求吠え
「おやつが欲しい」「遊んでほしい」「散歩に行きたい」といった、飼い主に対する何らかの要求がある時に吠えるのが要求吠えです。
ポメラニアンは賢く、感情表現も豊かなため、過去に吠えたことで要求が通った経験があると、「吠えれば言うことを聞いてもらえる」と学習し、要求吠えが悪化するケースも少なくありません。
興奮吠え
飼い主が帰宅した時や遊びの最中など、嬉しさや楽しさといった感情が高ぶった際に、興奮のあまり吠えてしまうこともあります。
不安・ストレスによる吠え
ポメラニアンは飼い主との絆を非常に大切にする犬種であり、寂しがり屋な一面も持っています。 そのため、留守番などで長時間一匹にされたり、飼い主とのコミュニケーションが不足したりすると、不安やストレスを感じて吠えることがあります。これは分離不安と呼ばれる状態の一症状であることもあります。
また、運動不足や環境の変化(引っ越し、家族構成の変化など)もストレスの原因となり、吠えにつながることがあります。雷や花火などの大きな音を怖がって吠えるのも、この一種と言えるでしょう。
体調不良や認知機能の低下による吠え
いつもと違うタイミングで吠えたり、理由が思い当たらないのに吠え続けたりする場合、体のどこかに痛みや不快感がある可能性も考えられます。また、シニア期に入ったポメラニアンでは、認知機能の低下(いわゆる犬の認知症)によって、理由なく夜間に吠え続けるなどの行動が見られることもあります。
このような場合は、自己判断せずに動物病院を受診し、獣医師に相談することが重要です。
ポメラニアンの吠えにおけるオス・メスの違い
一般的に、犬の吠えやすさに関してオスとメスで顕著な差があるという科学的根拠は限定的ですが、傾向として語られることはあります。オスの場合、縄張り意識がメスよりも強く出やすいため、マーキング行動(おしっこをかける行為)と同様に、縄張りを主張するための警戒吠えが多いと言われることがあります。
一方、メスは発情期や偽妊娠(想像妊娠とも呼ばれ、妊娠していないにもかかわらず妊娠時のような兆候を示す状態)の際にホルモンバランスの影響で神経質になり、一時的に吠えやすくなることがあります。しかし、最も影響が大きいのは性差よりも個体差や育った環境、しつけの状況であり、オスだから、メスだからと一概に決めつけることはできません。
ポメラニアンが吠えるのをやめさせる方法
ポメラニアンの「無駄吠え」とも呼ばれる過剰な吠えは、飼い主さんだけでなく周囲にとっても悩みの種となり得ます。しかし、適切な方法で根気強く向き合えば、改善は十分に可能です。ここでは、ポメラニアンが吠えるのをやめさせるための具体的な直し方や対策、役立つグッズについて解説します。大切なのは、なぜ吠えているのか原因を見極め、それに応じた対策を講じることです。
原因別の基本的な対策アプローチ
まず、前述した「ポメラニアンが吠える理由」を参考に、愛犬がなぜ吠えているのかを特定することが第一歩です。
警戒吠え・縄張り吠えへの対策
このタイプの吠えには、警戒対象に慣れさせることが基本となります。インターホンや来客に対して吠える場合は、それらが「怖いものではない」と教える必要があります。
例えば、インターホンが鳴ったらおやつを与える、来客に協力を得ておやつを与えてもらうなど、警戒対象と良い経験を結びつける「系統的脱感作法(けいとうてきだっかんさほう)」や「拮抗条件付け(きっこうじょうけんづけ)」と呼ばれる行動療法のテクニックが有効です。
系統的脱感作法とは、恐怖や不安を感じる刺激に少しずつ慣らしていく方法で、拮抗条件付けは、恐怖や不安を感じる刺激に対して、それとは反対の良い感情(例:おやつをもらって嬉しい)を結びつける方法です。また、窓の外が見えないようにカーテンを閉めたり、音を遮断する工夫をしたりすることも物理的な対策として有効です。
要求吠えへの対策
要求吠えに対しては、「吠えている間は絶対に要求に応えない」という毅然とした態度が最も重要です。吠えている間は無視し、吠え止んで静かになった瞬間に褒めて要求に応える(例えば、おやつを与える、遊んであげるなど)ことを繰り返すことで、「吠えても無駄だ」「静かにすれば良いことがある」と学習させます。
興奮吠えへの対策
興奮吠えの場合は、飼い主が帰宅した際に過度に騒がず、犬が落ち着くまで声をかけない、遊びの最中に興奮しすぎたら一旦中断する、といった対応でコントロールを促します。
不安・ストレスによる吠えへの対策
分離不安が疑われる場合は、飼い主がいなくても安心して過ごせる環境作りが大切です。クレートトレーニング(ハウスを安全で落ち着ける場所だと教える訓練)を行ったり、留守番前に十分な運動をさせてエネルギーを発散させたりするのも効果的です。
また、知育トイ(中にフードを詰めて遊ばせるおもちゃ)などを与えて、一匹でも退屈しない工夫をするのも良いでしょう。ストレスが原因の場合は、散歩の時間を増やす、遊びの質を高めるなど、愛犬の心身の満足度を高めることが根本的な解決に繋がります。
社会化トレーニングの重要性
子犬の頃の「社会化期(しゃかいかき)」と呼ばれる時期(一般的に生後3週齢から12~16週齢頃)に、様々な人、物、音、他の犬などに触れさせ、ポジティブな経験を積ませることは、将来的な吠えの問題を予防する上で非常に重要です。
この時期に多様な刺激に慣れておくことで、成犬になったときの過剰な警戒心や恐怖心を軽減できます。成犬になってからでも社会化トレーニングは可能ですが、子犬期に比べると時間と根気が必要になります。
効果的なコマンドトレーニング
「静かに(お静かに)」や「ハウス(自分の場所に戻る)」といったコマンド(指示語)を教えることも、吠えのコントロールに役立ちます。
「静かに」を教えるには、まず吠えている時に声をかけ、一瞬でも吠え止んだらすぐに褒めておやつを与えます。 これを繰り返し、「静かに」という言葉と「吠えを止める行動」を結びつけます。
「ハウス」は、クレートやベッドを愛犬にとって安心できる場所に設定し、そこへ誘導するコマンドです。興奮している時や来客時などに使うことで、落ち着かせる効果が期待できます。これらのトレーニングは、「正の強化(せいのきょうか)」と呼ばれる、望ましい行動をしたら褒美を与える方法で行うのが基本です。
対策グッズの活用
しつけをサポートする様々な対策グッズも市販されています。
知育トイ・コングなど
前述もしましたが、中にフードやおやつを隠せる知育トイやコングは、犬が夢中になって遊ぶため、退屈やストレスを軽減し、要求吠えや分離不安による吠えの対策に有効です。留守番の際などに活用すると良いでしょう。
ホワイトノイズマシン・防音カーテンなど
外部の音に敏感に反応して警戒吠えをする場合には、ホワイトノイズマシンで生活音以外の音をカモフラージュしたり、厚手の防音カーテンで窓からの音や視覚的な刺激を遮断したりするのも有効な手段です。これにより、犬がリラックスしやすい環境を作ることができます。
ポメラニアンが吠える時に避けるべきNG行動
愛犬が吠え続けると、ついカッとなったり、どうにかしてすぐにやめさせたいと思ったりするものです。しかし、誤った対応は問題を悪化させるだけでなく、愛犬との信頼関係を損なう可能性もあります。 ここでは、ポメラニアンが吠える時に飼い主が避けるべきNG行動について解説します。
大声で叱る・叩くなどの体罰
吠えている犬に対して、大声で「うるさい!」「ダメ!」などと怒鳴ったり、叩いたりする行為は絶対に避けるべきです。 犬はなぜ叱られているのかを正確に理解できず、単に「飼い主が興奮している」「怖いことが起きた」としか認識しないことが多いです。むしろ、飼い主が騒ぐことで犬も一緒に興奮してさらに吠えたり、飼い主に対して恐怖心や不信感を抱いたりする原因になります。体罰は百害あって一利なしと心得ましょう。
むやみに構う・要求に応える
要求吠えをしている時に、気を引こうとして吠えているのに対して、なだめたり、おやつを与えたり、遊んであげたりするのは逆効果です。犬は「吠えれば構ってもらえる」「吠えれば要求が通る」と学習し、ますます要求吠えがエスカレートしてしまいます。吠えている間は徹底して無視し、静かになった瞬間に褒めるというメリハリが重要です。
吠えるたびにケージやクレートに閉じ込める(罰として使う)
ケージやクレートは、本来犬にとって「安心できる自分だけの場所」であるべきです。しかし、吠えた罰として毎回のように閉じ込めていると、犬はケージやクレートに対して嫌なイメージを持つようになり、入ること自体を嫌がるようになってしまいます。これは、本来のクレートトレーニングの目的とは正反対の結果を招きます。罰として使うのではなく、落ち着ける場所としてポジティブな経験と結びつけることが大切です。
中途半端な対応や一貫性のないしつけ
家族の中で、ある人は吠えても無視するけれど、別の人は構ってしまうなど、対応に一貫性がないと犬は何が良い行動で何が悪い行動なのかを学習できません。 また、しつけを始めてもすぐに諦めてしまったり、日によって厳しさが変わったりするのも混乱を招くだけです。家族全員が同じルールを共有し、根気強く一貫した態度で接することが、しつけを成功させるための鍵となります。
まとめ
ポメラニアンの吠えは、飼い主さんにとって大きな悩みのひとつですが、その背景には必ず何らかの理由が存在します。 警戒心、要求、不安、ストレス、あるいは体調不良など、原因を正しく理解することが問題解決の第一歩です。そして、それぞれの原因に合わせた適切なトレーニングとしつけを、愛情と根気を持って続けることが何よりも大切です。
警戒吠えには安心感を、要求吠えには無視と正しい行動の強化を、不安による吠えにはストレスの軽減と安心できる環境づくりを心がけましょう。子犬期からの社会化トレーニングは、将来的な吠え問題の予防に繋がります。また、吠えたときに大声で叱ったり、むやみに構ったりするNG行動は避け、一貫した態度で接することが重要です。
ポメラニアンは非常に賢く、飼い主の愛情を敏感に感じ取る犬種です。正しい知識と方法で向き合えば、きっとあなたの声に耳を傾けてくれるはずです。どうしても改善が見られない場合や、原因が特定できない場合は、抱え込まずに動物行動学に詳しい獣医師や経験豊富なドッグトレーナーなどの専門家に相談することも検討しましょう。愛犬とのより豊かで穏やかな生活のために、諦めずに取り組んでいきましょう。