犬にもダイエットって必要ですか?
獣医にワクチンや定期検診で行ったときに「体重が増えすぎているからダイエットさせてください」と言われてびっくりする飼い主さんがおられるようですね。
私は、獣医師としてたくさんのワンちゃんを見てきた経験から、飼い犬の半分近くは「肥満」といっていい状態だと思っています。
その中でも3分の1は、健康に害を及ぼす危険性のある「過度の肥満」です。
そんな時に、飼い主さんには「愛犬のダイエット」についてお話することになるんですね。
ベスト体重を知りたい
愛犬が肥満になっているかどうか知りたいなら、普段からの体重チェックをおすすめします。
犬の体重計がない場合は、飼い主さんが抱っこして引き算して体重を量りましょう。
かかりつけ医などで、お散歩がてら気軽に体重測定をお願いするのも良いと思います。
まずは、ベスト体重を割り出す方法ですが子犬の頃から成犬になるまでの体重変化を見ておくと良いですよ。
子犬の頃は、グングン右肩上がりに体重が増えていきます。大体半年~1年の間に、大人の体重になり体重グラフが水平になりますので、その体重が、愛犬のベスト体重と思っていただければ良いでしょう。
肥満ってどれくらい?
ベスト体重がわかれば、それ以上は肥満になるということですよね。
でも、人間でも太めの人がいるように軽度の肥満であればそれほど心配することはないでしょう。
- 超小型犬(チワワやトイプードルなど)であればベスト体重から+500g
- 小型犬(スタンダードダックスフントなど)は、ベスト体重+1kg
- 中型犬(柴犬・ウェルシュコーギーなど)は、ベスト体重+1~2kg
- 大型犬(ラブラドールレトリーバー・ゴールデンレトリバーなど)はベスト体重+3~4kg
この程度を目安にして、その体重をキープするように心がけましょう。
このベスト体重はあくまでも目安です。犬種やそれぞれの体型・体格などでも肥満度は変わってきます。
では次に、目で見て分かる肥満度チェックのポイントもまとめておきましょう。
- 上から見て腰のくびれがある
- 背中を首から尻尾まで軽く押さえるようになでると背骨のゴツゴツを触ることができる
- 胸(前足の付け根から後方)を押さえるようになでると肋骨があることを手で確認できる
このような状態であれば、ベスト体重であると考えて良いですね。
くびれがない・背骨や肋骨に触れる感覚がない場合は肥満である可能性が大きいです。
普段からのチェックで、肥満の早期発見を心がけてください。
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犬のダイエットを始めよう
大切な愛犬が「肥満」。
ベスト体重に戻してあげるためには、ダイエットが必要です。
動物病院では、肥満の危険性やダイエットの必要性をお話してもあまり大事だと思っていただけないことも多いです。
まずは、ダイエットの必要性・どのような方法でダイエットするのかについてお話してみましょう。
肥満はとても危険
定期検診やワクチン接種などの予防の時に、肥満のチェックを行う獣医さんが多く、それは毎年決まった時期の体重を記録しているので、体重の変化をしっかりチェックできていると言えます。
肥満になるとどんな危険なことが待っているのか、なかなか診察中にはお話できないのでまとめて分かりやすく説明します。
椎間板ヘルニア
椎間板ヘルニアのお話をすると、飼い主さんが「いや~僕もヘルニアでね~」なんてジョークだと勘違いなさることもあります。
しかし、昔と違い長生きできるようになった愛犬たちは肥満・体重増加による椎間板ヘルニアで苦しむケースが増えているんですよ。
椎間板ヘルニアは、腰の骨(椎骨)の間をつなぐクッションが磨り減って潰れてしまうことで発生します。
人間は立っていることで、重みでクッションが潰れます。
犬の場合は、常に横に腰の骨が並んでいるためお腹についた余計な脂肪が腰骨にぶら下がってたわむことでクッションが潰れてしまいヘルニアを起こします。
椎間板ヘルニアは、初期症状であれば「尻尾を触れない・腰を痛がる・歩くのを嫌がる」という症状が見られ投薬とダイエットで健康を取り戻すことが可能です。
しかし、そこで肥満のまま放置すると悪化し「下半身麻痺・歩行不能・激痛」など一生苦しむ状態になってしまうんですよ。
膝関節変形症
最近は、超小型犬をパートナーにするかたが増えています。
超小型犬たちは、体重100kgを超えるオオカミから1kgのチワワへと品種改良を経て現代を生きています。
その品種改良の結果、太ももの骨とスネの骨が曲がって生まれやすくなり膝のお皿(膝蓋骨)が外れやすいワンちゃんがとても多いんです。
ここで大事なのが、若い頃からの体重管理です。
膝関節に変形を持つワンちゃんが肥満になると、体重の負荷がモロに膝にかかってきます。
1歩歩くたびに膝関節が外れたり、膝関節の上下がこすれあって痛みを生じで歩けなくなることも多いんですよ。
糖尿病
肥満のワンちゃんの一番怖い病気は糖尿病です。
糖尿病は、食べたものを上手に体のエネルギーに変えられなくなる病気です。
肥満の状態が続いて、高カロリーの食事を続けることで膵臓が働かなくなり体にエネルギーを送ることができなくなることで死に至ります。
糖尿病になってしまうと、滅多に治ることはありません。
すい臓からでなくなったインシュリンを、注射して補給しなければ体が衰弱してしまいます。
食事を取るたびに、インシュリンが必要となるため食事の回数だけ飼い主さんが注射しなければならないことになるんですね。
体重に気をつけるだけで、防げる病気がいくつもあることがおわかりいただけましたか?
獣医師が「ダイエットしましょう」という先にはこれらの病気になって欲しくないという切実な思いがあることをお分かりいただきたいと思います。
ダイエットの方法について
人間がダイエットする場合と、犬のダイエットはほぼ同じと考えて構わないでしょう。
大事なのは、食事を減らすか・運動を増やすかのどちらかです。
運動療法
運動で体重を減らすのは、人間でもかなり大変ですよね。
特に、犬はオオカミが祖先であるため獲物を探しながら1週間歩くなどという生活も平気な体の作りをしています。
椎間板ヘルニアや膝関節変形症の可能性がある場合は運動は難しいので食事でのダイエットが重要です。
運動でのダイエットでは、アスファルトやコンクリートを長時間歩かないように気をつけましょう。
関節への負担が心配されますし、一緒に歩く飼い主さんもトラブルを起こしてしまうこともありますよね。
ドッグランなどは、愛犬の足元にも配慮されておりほかの犬と触れ合うことで自然に運動量が増やせるオススメの方法です。
そのほかにも、最近は犬専用プールなどもあるようです。
上手に活用出来ると良いですね。
海外では、トレッドミル運動をさせる飼い主さんも多いです。
トレッドミルとは人間が使うランニングマシーンのこと。
ランニングマシーンの左右に壁をつくりゆっくりのスピードから走る練習をすると犬もランニングマシーンで運動できます。
お仕事などで長く散歩できない場合などは、便利ですね。
食事によるダイエット
運動でなかなか体重が減らない、病気などのトラブルで運動することができない場合は食事のコントロールでダイエットをしましょう。
ダイエットをする場合にしっかりチェックしておきたいポイントは二つです。
- 食べさせたい食事のカロリー
- 愛犬のベスト体重
一つ目の食事のカロリーは、市販のフードを購入している方はフードに表示されているので秤などでいつもの食事量を測って計算してください。
手作り食などの場合は、それぞれの食材の重さを測りカロリー表(ネットなどで探しましょう)で計算してくださいね。
二つ目の愛犬のベスト体重、これは上に書いた方法で知ることができます。
昔の体重がわからない・・・という場合は、純血種であれば犬種標準の体重を参考にしましょう。
二つの項目をチェックしたら、かならずベスト体重で食べるべきカロリーをオーバーしているはずです。
オーバーしていない場合は、運動量の極端な不足が関係していると思って良いでしょう。ベスト体重×0.7の体重で、食事の量を決めてください。
かなり少ないと思いますが、肥満の場合少なめにしないと体重が減らないことが多いです。
この量の食事をすると、1ヶ月以内に体重の変化が出てくるはずです。
こまめに体重を測って、ベスト体重に近づいたら少しずつ量を戻してベスト体重のフードに戻していきましょう。
フードの量を減らすととても辛いワンちゃんの場合は、ダイエット用フードが強い味方です。
同じカロリー量でもお腹持ちがよくカサが大きく食べごたえのあるフードが販売されています。
動物病院にも、効果の高いダイエットフードが置いてあるはずなので、困ったときは相談して、上手にダイエットを進めてくださいね。
愛犬のダイエットがうまくいかない理由
動物病院で、ダイエットの指導をしてもなかなか体重の減らないワンちゃんは多いんですよ。
その理由は、飼い主さんとのお話でわかってくることも・・・。
おやつはダイエットの大敵
人間でも同じですが、犬でもおやつはダイエットの大敵です。
「ほんのちょっとだから・・・」「あげる習慣なので我慢させられない」
人間がほんの少しと思っているおやつ、でも愛犬の口のサイズとおやつのサイズをしっかり確認してください。
よく見れば、しっかりほおばれる大きさがありませんか?
そのオヤツは、人間で言えばコブシ大のたっぷりおやつです。
ちょっと、というなら前歯の大きさ程度。
もしおやつを大さじ1あげるつもりなら、カップ半分の食事を減らすつもりであげてください。
オヤツは美味しいけれど、総じて高カロリーなんです。
ダイエット中は飼い主さんも一緒に我慢で頑張りましょう。
室内飼いならではのダイエットの失敗
室内飼いで、とても可愛がられているワンちゃんのダイエットはおお仕事です。
椎間板ヘルニアを患った、あるワンちゃんの場合は診察室に総勢8名を集める大会議になりました。
ワンちゃんを心配したお母さんは、きっちりダイエット量のフードしか上げていないのにちっとも体重が減らない理由はすぐにわかりました。
ワンちゃんは、それぞれの家族の食事やおやつ時にオネダリ上手な子だったんです。
家族の皆さんは、「ダイエット中でかわいそうだから少しだけ」のつもりでも皆さん合わせれば満腹になれる量。
愛犬のダイエットは、家族ぐるみでしっかり話し合って相談してはじめるのが成功の秘訣です。
お散歩中にワンちゃんにおやつをあげるのを楽しみにしている方もいますが、ダイエット中は健康のためにキチンと断りましょう。
なによりも大事なのは愛犬の健康と長寿ですからね。
ダイエットで大事なこと
ダイエットは、あくまでも肥満の解消のために行うものです。キチンと体重をはかり、適正体重を知って行うようにしてください。
当然ですが、成長期にダイエットはしてはいけません。
成長期に無理な栄養制限をすると、骨や関節が正常に発達できないだけでなく、常に空腹でイライラして暮らすため、穏やかな気持ちになれない犬に育ってしまうことも多いようです。
子犬がおうちにやってきたら、定期的に体重を測ってしっかり成長を確かめていきましょう。
もちろん、成犬であっても体調が悪い時にダイエットはよくありませんよね。
ダイエットをするなら、獣医師と相談して体重や体調をきちんと管理しながら進めることをおすすめしたいですね。
まとめ
せっかく一緒に暮らす楽しみがあるのですから、なるべく健康で長生きしてほしいというのは当たり前のこと。
肥満による病気を避けるためにも、ダイエットを上手にすることがポイントだといっても過言ではありません。
犬は自分でご飯を用意しない
飼い犬は、自分で戸棚や冷蔵庫をあけてご飯を用意しませんよね。
肥満になるということは、どこかで誰かが食事を上げすぎていることが原因です。
家族の一員だからこそ、しっかり食事のコントロールをしてあげるのが飼い主の愛です。
甘やかしと、愛情は違います。肥満を指摘されてダイエットを始める場合はそのことを家族みんなでしっかり認識することが大切ですよ。
かわいそうで心が折れそう
犬はどうして、急に食事が減ってしまうのか理解できません。
ダイエットを始めると「おねだり」「がっかり」、上手に意思表明して飼い主さんの意志を崩そうとがんばります。
でも、上に書いた病気になったらいくらの治療費がかかるでしょうか?
毎日、病院に通ったり入院したり辛い思いをするのは愛犬ですよね?
毎日がんばって、つらいな~と思ったらお散歩のコースを変えて気持ちを新たにしましょう。
目標体重までの間に、小さなキー体重を設定してそのポイントごとに小さなご褒美を用意するのも良いですね。
ポイント達成できたら、リードを新調・おもちゃを1個購入・かわいい洋服を選ぶ、上手に目標をつくって頑張ればきっとダイエットは成功するはずですよ。