おばあちゃんと老犬
私が勤めている動物病院に通う飼い主さんで、私の大好きな飼い主さんがいます。
老犬と一人暮らしのおばあちゃんです。
おばあちゃんはもうすぐ80歳、犬も15歳を越えているシーズーです。
犬は心臓が悪く、いつもたくさんの薬を飲んでいます。時々調子を崩すこともあるので、いつもおばあちゃんは近所の人からもらったというベビーカーに愛犬を乗せて、病院へ20分かけて歩いてやってきます。私達だったら10分もかからない道を、おばあちゃんと愛犬は雨の日も歩いて病院にやってきます。
「往診に行くことも出来ますよ」と伝えても、「まだ自分の足が動くから運動を兼ねて歩いてるんよ」と、かわいい笑顔で答えてくれます。
愛犬との出会い
おばあちゃんに聞いた話ですが、おばあちゃんはもともと犬は嫌いだったそうです。
おばあちゃんは、おじいちゃんと二人で暮らしていました。
ある時、おじいちゃんがたまたま立ち寄ったペットショップで、その後愛犬となるシーズーをみつけました。あまり手入れをされていない状態で、見た目も悪く売れ残っていたそうです。もうほぼ成犬になっており、寂しそうに店の隅っこの狭いゲージで飼われていました。
実は、おじいちゃんは犬が大好き。昔から犬を飼っていましたが、高齢になってからは諦めていたそうです。
おじいちゃんがそのシーズーを飼いたいとおばあちゃんに相談すると、おばあちゃんは強く反対しました。その時、お互い60歳を超えていたため、「これから先、何かあったら困るからダメだ」と・・・。
それでも諦めきれなかったおじいちゃんは、後日おばあちゃんを連れて、そのペットショップに行ったそうです。
おばあちゃんは、悲しそうな目でこちらをみつめるシーズーを見た瞬間、すっかり心を奪われてしまったそうで、そのまま連れて帰ることになりました。
おじいちゃんの死
おじいちゃんは、愛犬を本当の子供のように可愛がっていたそうです。
犬もおじいちゃんが大好きで、おばあちゃんは、「私よりもおじいちゃんの方が好きな子やから、私には懐いていない。可愛くない子!」といつも言います。
「でも、昔は近所でかわいいって人気者やったんよ。今はおじいちゃん犬になって顔も汚れちゃって、見る影もないけどね。」と笑って、昔の愛犬の写真を見せてくれました。
愛犬は綺麗にトリミングされていて、かわいいリボンをつけフリフリの服を着て、おじいちゃんの膝の上で嬉しそうに笑っています。
おばあちゃんはその写真をいつも持ち歩いているようで、病院に来るといつも見せてくれます。
自分の子供のように愛犬を可愛がっていたおじいちゃんは、病気で急に亡くなりました。
おじいちゃんに可愛がってもらっていた愛犬は、おじいちゃんが亡くなってから急に体調を崩しました。一時は、かなり危険な状態までいったそうです。
おばあちゃんの看病でなんとか持ち直しましたが、おばあちゃんは、「そのお陰で、おじいちゃんの死を考える暇なんてなかった」と笑って話してくれました。
「飼うだけ飼って、勝手に死んで・・・本当に勝手な爺さん!」と、いつも笑って言います。
お会計をする時、「犬か私かどっちが先に天国に行くか」という話を笑いながらよくします。
正直、私達もすごく心配です。
もし、おばあちゃんが先なら、この老犬はどこへいくのか・・・面倒見てくれる人がいなければどうなるのか?
考えたくありませんが、現実に起こりうる問題です。
近所に娘さんが住んでいるようですが、果たして心臓の悪い老犬を引き取ってくれるのかわかりません。
もし、老犬が先なら、おばあちゃんの生き甲斐がなくなってしまわないか・・・それに、おばあちゃんは一人になってしまいます。考えるだけで心が痛みます。
でも、おばあちゃんはいつも言います。
「近くに娘も住んでるけど、娘になんかこの子を任せたくない。だから、私は絶対この子よりも先には逝かない!
だから毎日健康には気をつけている、あんたらよりもまだまだ若いよ!」
そう言っていつもの道を、ベビーカーを押しながら愛犬と帰っていきます。
小さい背中ですが、頼もしい背中です。
いつまでもこの背中を見守りたい、といつも思います。
まとめ
私はおばあちゃんが大好きです。
でも、やはり高齢者が犬を飼うことは、さまざまな問題が生じます。そのことを考えると、反対せざるを得ません。
しかし、それは私達にも言えることです。
私も犬と猫を飼っています。私も主人も今は元気ですが、これから何があるかわかりません。
「一人暮らしで寂しいから犬を飼う」
そんな気持ちで犬を飼ってほしくありません。
それは高齢者だけではなく、若い人でも同じことだと思います。
動物病院で働いていると、毎日たくさんの飼い主さんに出会います。
その中には残念ですが、愛犬を「家族」として扱っていないような飼い主さんもいるのが現状です。
犬は一生をかけて、私達家族のために一緒にいてくれます。犬を飼うことは、体力も気力もなければ飼えません。
その犬の最後を看取る体力と覚悟がないなら、犬を飼う資格はないと思います。
少なくとも私の大好きなおばあちゃんには、その資格はあると私は思っています。
▼シーズーについて詳しく知りたい方はこちら
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50代以上 男性 動物の力