私は動物病院で動物看護師として働いています。
動物病院には、毎日たくさんの犬が来院してきます。
動物病院によって多少異なる部分があるかと思いますが、待合室では他の犬やその飼い主さんがいらっしゃるため、愛犬をキャリーバッグに入れたり、リードを装着したりとマナーを守っていただく必要があります。
また愛犬と共に生活するうえで躾は欠かせないことであり、特に子犬の頃の社会化期に学習させてあげる必要があります。
しかし中には特に躾をせず好きなようにさせてしまい、飼い主さんの言うことを全く聞き入れないどころか、落ち着きがなく暴れてしまったりと手に負えなくなったケースも少なくありません。
実際に好き放題にさせた挙句、暴走化してしまったラブラドールレトリバーとその飼い主さんについて今回お話ししたいと思います。
やんちゃなラブラドールレトリバー
以前私が働いている動物病院に、ラブラドールレトリバーが通っていました。
そのラブラドールレトリバーは子犬の頃から通っており、人懐っこくて元気いっぱいな性格の子でしたが、唯一躾が全くされていない所が問題点でした。
子犬の頃はまだ体が小さく色んなものに対して興味深々な様子が多くみられましたが、噛み癖が目立っていました。
犬にとってさまざまな学習をする大事な「社会化期」がおよそ生後3ヶ月頃までにあるため、飼い主さんに躾の必要性を説明しました。
「一応やっているつもりなんだけどね、全然言うとこ聞かなくてダメなんだわ」
その飼い主さんの言葉から、まるで全て悪いのは愛犬のせいと言っているかのようでした。
個体差はありますが、ラブラドールレトリバーは賢く優しい性格といわれているため、しっかり躾をおこなえば正しい主従関係を築けることができます。
また、人間と共に生活する上で犬の躾は必要不可欠なことであり、とても大事なことです。
たとえば、自宅でのしつけが難しい場合には、ドッグトレーナーさんの元でトレーニングをおこなう方法もあります。
しかしこちらで強制はできないため、ただしっかりと躾をしてくれることを願うことしかできませんでした。
躾をしないどころか「ダメな子」と言い訳する飼い主
こちらの不安な予想が的中したかのように、このラブラドールレトリバーは、成長するにつれ、そのやんちゃんな性格がだんだんとエスカレートしていきました。
来院するたびに飼い主さんのリードを引っ張って落ち着きがなく、待合室に置いてある雑誌などを荒らしたり、診察室のドアをぶつけるなどの行動が目立ってきました。
私が働いている動物病院は小さく、待合室も狭いため、他の患者さんのペットとトラブルが起きないか終始警戒していました。
改めて飼い主さんに、その後ご自宅で躾をおこなっているのかどうかを尋ねてみました。
「うーん、この子全然言うこと聞かないし、ダメな子なのかね、もうやる気すらなくてね」
躾をしていないどころか、諦めている様子で平然としている飼い主さんをみて、正直言葉が出ませんでした。
動物病院によって多少異なるかもしれませんが、待合室は、他の患者さんの動物達やその飼い主さん、業者の方など、みんなが共有するスペースでもあります。
そのため、ある程度のマナーを守っていただかなくては、いつトラブルに発展してもおかしくない状況です。
しかしラブラドールレトリバーの飼い主さんは、そのような周りの状況に対しても特に気にもしていない様子。
しかたなく、再度最低限のマナーを含め、躾の必要性を飼い主さんに説明しなくてはいけませんでした。
「分かってはいるんだけどもちっとも言うこと聞かなくてね、ラブラドールって賢いはずなのにね」
別に自分は悪くないと言っているかのように聞こえ、今後トラブルを起こすことなくきちんと飼育できるのかどうか、とても不安な気持ちになりました。
飼い主の指示を全く聞かず暴れて診察困難に
その後、このラブラドールレトリバーは、外耳炎の治療で何回か来院してきました。
やはり飼い主さんの言うことを全く聞き入れずに落ち着きがなく、診察台にあがるだけでも一苦労!
大型犬ということもあり、スタッフ数人で保定に入りながら声をかけたりと色々試みました。
しかし、案の定ジッとすることができず大きく暴れてしまい、治療どころか診察自体も難しくなってしまいました。
待合室での様子も落ち着きがなく、雑誌やサンプル製品を荒らしたり、診察室のドアに向かって体あたりして診察中の他のペットを驚かせてしまったりと、様々な問題が浮上。
診察の順番が来るまで車で待っていただく、などの対策もしてきましたが、根本的な解決にはならず。
さすがにこのままでは、大きな問題が起きてしまってからでは遅すぎるため、獣医師とともに飼い主さんに厳重注意と、ドッグトレーナーによるトレーニングの受講を強くおすすめしました。
「本当にごめんなさいね〜、この子ったらね、考えてみますわ〜」
とりあえず話は聞いてはくれましたが、悪気はなさそうな様子。
犬を飼うという責任の重さに対する無関心や、愛犬のマナーに対する自覚の無さに私は愕然としました。
まとめ
愛犬家の方のなかには実際、犬の躾による悩みが少なくありません。
はやいうちに適切な対処をしなければ、今回のように好き放題に暴走化してしまったり、吠え癖や噛み癖が直らないなど、様々なトラブルを招いてしまう恐れがあります。
実際にそのようなことが原因で、第三者に大怪我を負わせてしまうなどの問題が起きているのも事実です。
特に、子犬の頃の社会化期では、さまざまなことを学習する大事な時期でもあるため、躾を通して飼い主さんとの関係を築く必要があります。
これは、人間が「犬を飼い、ともに暮らしていく」うえで非常に重要なことです。
それを怠ってしまったり、間違ったやり方でおこなってしまうと、犬との関係は悪化してしまうどころか、信頼関係すら成り立たなくなってしまいます。
中にはとうとう手に負えなくなり、手放してしまうケースも少なくありません。
犬の性格などにもよりますが、いったん暴走化してしまうと、そこから立ち直るまでにとても長い時間がかかる場合があります。
また動物病院では、他の犬や猫など様々な動物達が来院し、その飼い主さんやご家族もいらっしゃいます。
今回の記事をきっかけに、マナーも含め、改めて愛犬との関係がきちんと築けているかどうか見直してみることをおすすめします。
また、今後犬を飼う方は、今のうちから愛犬への躾の重要性を知ってほしいと思います。