犬の群れに順位は存在しない
犬のしつけを学ぼうとすると、2つの異なる理論の存在に気付くでしょう。犬は強力なリーダーを筆頭に順位付けされた社会の中で統制のとれた暮らしをしたがるという説と、「犬は犬や人に対して順位を付けず、飼い主との間には母子に近い関係を結ぶ」という説です。
いまだに前者の理論で力によるトレーニングを行う方もいらっしゃるようですが、最近次々と発表される研究成果などを見て、「犬は人に対して上下関係を求めていない」という説を常識だと考えるドッグトレーナーや飼い主さんが増えてきています。
ただ愛犬を見ていると、「なぜ人によって態度を変えるのだろう?」と不思議に思われる方もいるのではないでしょうか。家族に順位付けをしない犬が、家族それぞれに対して態度を変える理由を見てみましょう。
犬が人によって態度を変える理由
1.犬からの信頼感の度合いが異なる
ご家族にはそれぞれの生活があり、愛犬への愛情は同じでも、接している時間や接し方は異なります。そのため、愛犬からご家族それぞれへの信頼の度合いが異なっても、少しも不思議ではありません。
アウトドアで思いっきり体を動かすようなシーンで信頼できるのは誰、厳しいけれどもいつも思いっきり優しく褒めてくれるのは誰など、その場その場で最も信頼できるご家族に対応した態度をとっているのだと考えられます。
2.その人の態度が犬を不安にさせる
犬は、相手が自分に対してどのように感じているかを察知することで、態度を変えることもあるようです。特に、相手が不安を抱いてオドオドしたりビクビクしたりしていると、その不安が犬に伝染し、愛犬もそのような態度になってしまいます。
表面的には平静を装っていても、心の中の不安や警戒心は、確実に犬に伝わってしまいます。常に犬に対して堂々と振る舞えるように、ご自身に自信をつける努力も大切です。
3.犬の要求を聞く人、聞かない人を見分けている
人間と同様に、犬も自分の要求を聞いてくれる人と聞いてくれない人を見分けて、おねだりする相手を選んでいます。
食事中にねだるとお裾分けしてくれる人、散歩に誘うと嫌がらずに一緒に楽しく散歩してくれる人、ボール遊びの上手な人など、その時々の要望内容によって相手を選ぶこともあるでしょう。
4.嫌なことをする人を見分けている
犬も、嫌なことはできるだけ回避したいと考えています。そのため、自分に対して嫌なことをする人のことも、きちんと見分けています。
ブラッシングや爪切りなどのケアが乱暴な人、いつも強制的に動物病院に連れて行く人、感情的に怒鳴りつけることが多い人、日によって褒めたり叱ったりする基準が変わる人などは、敬遠される傾向が強いでしょう。
5.一緒にいると楽しい人を見分けている
一緒にいるといつも楽しい人のことは、信頼感が高いだけではなく、一緒に楽しく過ごしたいという気持ちからも、親しげに、そして思いっきり甘えるように接してくるようになります。
良いことをすると褒めてくれるだけではなく、良くないことをした時にも、上手に叱った後で良い行動に誘導し、褒めて終わりにしてくれるような接し方の方には、積極的に寄り添うようになるでしょう。
愛犬と良い距離感で付き合うためのポイント
1.愛犬の前ではオドオドしない
愛犬にご自身の不安が伝わらないように、オドオドしない接し方を身につけましょう。そのためには、犬の習性をよく学び、愛犬の性格を把握し、常に愛犬の行動を観察することが大切です。
2.優柔不断な態度は厳禁
愛犬の前で優柔不断な態度を取るのも禁物です。犬は、絶対的なリーダーを求めてはいませんが、頼れる母親や父親のような存在といることで、安心して暮らせるのです。そのためには、褒めたり叱ったりする際の基準や指示語を統一して一貫性を持たせたり、感情に流されて決めた基準をぶらしたりしないことが大切です。
まとめ
家族の一員として暮らしている犬にとって、飼い主さんやそのご家族との関係はまさに家族そのものです。ご家族のそれぞれに厳密な順位を付け、上位者には従順に従い、下位者を見下すといったような態度はとりません。
しかし見ていると、愛犬がご家族のそれぞれに対して異なる態度で接しているのに気がつくかもしれません。それには、上下関係とは関係のない理由があります。愛犬がご家族それぞれに見せる接し方は、それまでに両者が積み重ねてきた関係性や、その場の状況によって作られます。
愛犬との間に良い関係を築き、その関係性を長く継続できるように努力を積み重ねていきましょう。