犬が威嚇する行動の心理とは
「威嚇」という行為は、辞書でいうなら「実際に攻撃する気はなく、攻撃する様子を見せることで対象を脅かすこと。自分の身を守るために自分の力を誇示すること」とあります。
「攻撃するならこちらかも攻撃する」という意思がある場合と、「攻撃してくるな!去れ!」という意思表示の場合があります。前者は「怒り」、後者は「不安、恐怖」という心理からの行動です。
本来、犬は人間のように「嫌だけど、我慢する」「相手を困らせてやろう」といった複雑な心理は持っていません。単純に、自分が経験したことから「嬉しいこと」「楽しいこと」「嫌なこと」「怖かったこと」などが記憶に刻まれます。
そして、嬉しいことなどは何度も経験したいと考え、「嫌なこと」「怖いこと」からは逃げたり、避けたり、遠ざかったりしたいと考えます。
犬が威嚇しているときのサイン
子犬を守ろうとして、近づくと母犬に威嚇されることはよくあると思います。そういったわかりやすい理由もなくじゃれているだけで、突然唸り声をあげたり、吠えたりする場合があります。。
ここでは、どういった行動が威嚇のサインなのかについて紹介していきます。
体に力が入りこわばらせる
緊張により体全体に力が入り、場合によっては前方に体重をかけることもあります。子犬を守ろうとする場合にもこうした行動をします。低い唸り声を出す
「ウーッ」と低い唸り声を出すのは一般的な威嚇のポーズです。長時間続くと、警戒心が高まり何かのきっかけで攻撃してくることがあります。
吠える
普段の鳴き声よりも大きく、複数回に分けて吠える場合は遠くの相手に向けた威嚇です。一方、絶え間なく吠える場合は、近くに威嚇対象がいるときで警戒心が高まっています。
鼻にシワを寄せて歯をむき出す
犬が相手を本気で威嚇している状態です。戦闘する意思を相手に見せる行動で脅しというよりも、相手の出方次第では攻撃してきます。
相手に噛みつく
甘噛みのような優しく歯をあててくることもあれば、本気で噛みつくこともあります。威嚇しながら、攻撃している状態です。
犬が飼い主に威嚇する4つの心理
嫌気
「嫌気」の中には、強い嫌悪感、憎悪、反感などの感情が含まれます。嫌なことを避けるための衝動が起こり、それを抑えるとストレスを感じます。
恐怖
「恐怖」の中には、震撼、恐怖、パニック、不安、緊張、狼狽などが含まれます。
震撼、恐怖、パニックなどは明確な恐怖を感じている場合で、不安、緊張、狼狽などは「怖い思いをするかもしれない」という予知や予想をして、心が不安定になることを示します。
怒り
怒りには、「憤怒」「執念」「苛立ち」などの感情があります。
犬の場合の「執念」は、自分の経験上、嫌なこと、怖いことが起こったため、二度とそんな感情に侵されたくないために相手に対して攻撃をしようとする心理と考えられます。
痛み・体調不良
愛犬の体に触ったり、抱きかかえたときに「ウーッ」と唸り声をあげたり、吠えられることがあります。いつもと違う唸り声や吠え方をしていたら要注意です。
これは体のどこかが痛かったり、体調不良が原因とも考えられます。見える場所に怪我をしていなくても、早めにかかりつけの動物病院で診察してもらうようにしてください。
犬が飼い主に威嚇する問題点
まず、飼い主さんに対して「嫌悪感」「反感」「恐怖」などの感情を愛犬が抱いていることが大問題です。
例えば、保護された野犬や人に虐待されていた経験を持っている犬は、飼い主さんだけでなく、人間すべてに強い警戒心を持っていることがあり、人間全てが敵であり、恐怖だと捉えていると考えられます。
ですから、まず、飼い主さんは自分に対して威嚇してくる愛犬からの信頼を得るためにあらゆる努力をしなければいけません。
犬が飼い主を威嚇したときの対処法
本来なら、愛犬と家族になった時からしっかりと信頼関係を築けるようにしっかりと飼い主さんが家族一丸となって愛犬を教育するべきです。
そうして、飼い主さんと愛犬との間に深い信頼関係を築くことが出来れば、なぜ威嚇するのか、愛犬の気持ちも理解出来ますし、愛犬の問題行動にも対処し、改善出来ます。
例えば、普段は、飼い主さんに対しても友好的で甘える様子を見せていても、散歩の後の足ふきなど、愛犬の気に障るようなことをした時に唸ったり、吠えたりする程度なら、家庭でも対処できる可能性があります。
特に小型犬ならどんなに吠えても暴れても、人間が命を落とすような怪我を負うことはありません。
けれども、中型犬以上の体の大きさで力も強い犬が飼い主さんを威嚇する場合や、なんらかの事情で愛犬との信頼関係を築くことが出来なかった場合で、自分の気に入らないことがあれば飼い主さんを威嚇し、飼い主さんが恐怖を覚えるほど吠え、実際に飼い主さんを傷つけるほど攻撃性が強くなってしまっては、早急に対処が必要です。
その様な状態の時は、ドッグトレーナーさんや犬の訓練士さんなどのプロにトレーニングをお願いしましょう。
犬が威嚇しているときの注意点
愛犬が威嚇しているとき、飼い主さんは驚いて威嚇行為をやめさせようとしがちです。いつも穏やかな愛犬が豹変したとき、何とかして元の状態に戻したいと思うあまり、愛犬を叱ることがあると思います。
実はこれは、飼い主さんがやりがちな悪い対応のひとつなのです。ここでは、愛犬が威嚇しているときの注意点‐「飼い主さんがやってはいけないこと」についていくつか紹介します。
強く叱らない
愛犬が威嚇しているときは、不安や恐怖が原因となっていることが多いため強く叱るのは厳禁です。もし叱るとしても、小さく低い声で「ダメ」という程度に留めてください。
強く叱ることで不安や恐怖が増幅され、飼い主さんへの不信感につながります。愛犬との信頼関係が崩れることにもなりかねないので、強く叱らないようにしてください。
叱る前に飼い主さんがするべきことは、威嚇の原因を見つけ出して可能なら取り除くということです。
いきなり触らない
威嚇しているときは、戦闘態勢に入る準備でもあるためとても興奮しています。普段から愛犬とコミュニケーションが取れていても、興奮しているときにいきなり触るのはやめましょう。
興奮を鎮めるために触って愛犬を落ち着かせたい気持ちはわかりますが、突然触られると驚き反射的に噛みつくことがあります。
なお、顔の近くに手を近づけるだけでも噛まれることがあります。それほど愛犬が緊張と興奮しているということを理解し、いきなり触らないようにしましょう。
おやつを与えない
愛犬が威嚇している時に、気を逸らさせるためにおやつをあげる飼い主さんもいると思います。「ウーッ」と唸り声をあげたり、吠えたりするとその場を収めたくなります。
ただ、こうした威嚇行為に対しておやつといった「ご褒美」を与えると、愛犬のなかで行動と結果が結びついてしまいます。つまり、威嚇したらいいことがあると学習してしまうのです。
この学習が定着してしまうと、おやつ欲しさに威嚇するということにもなりかねません。おやつを与えて、威嚇行動を解決しないよう心がけてください。
まとめ
犬にも人間にもなにか行動を起こせば、必ずそこにはその行動を起こした理由があります。
飼い主さんに向かって威嚇してくる、という時も「お気に入りの物を取られたくない」「嫌なことをされたくない」など犬の立場から考えると、必ずなにか理由があるはずです。
まずは「どんな時に飼い主に向かって威嚇するのか」を把握しましょう。それには、愛犬の性格や嗜好などをしっかりと観察することが重要です。
その上で食事や排泄の世話をし、散歩などの運動や遊びも一緒に楽しみ、たくさん笑顔で話しかけて、愛犬との距離を縮めて信頼関係を築いていきましょう。
そうしているうちに、攻撃目的の威嚇なのか、拒絶の意思を示す威嚇なのかが理解できるようになります。縁あって家族となった愛犬に威嚇されるのは飼い主さんも辛いかも知れませんが、大きな心で愛犬の感情を受け止めてあげましょう。