保護犬の福祉研究から、譲渡率向上についての調査結果
アメリカのアリゾナ州立大学イヌ科学共同研究所とバージニア工科大学農学生命科学部の研究チームは、全米屈指の保護動物基金マディーズ・ファンドから助成金を受け、保護施設の犬の福祉向上のための研究を行なっています。
同研究チームは過去にも、保護施設の犬のストレス軽減のためのプログラム研究などについての調査結果を発表しています。
「保護犬による保護犬のための研究の実例」
https://wanchan.jp/column/detail/14239
「保護施設の犬の「お泊まり保育」はストレス軽減に役立つか?【研究結果】」
https://wanchan.jp/column/detail/33609
そしてこの度は、保護犬の譲渡率の向上に役立つ保護施設の取り組みについて調査を行ない、その結果が発表されました。過去の研究で犬のストレス軽減に役立つことがわかったプログラムは、犬たちと新しい家族を結びつけるためにも役に立ったのでしょうか。
保護犬の遠足やお泊まりプログラムをスタートしてみて結果を分析
研究チームはアメリカで活動している動物保護団体を対象に、研究への参加募集を行ないました。
参加資格は「ボランティアによる犬の短期外出プログラムを設けていない」「ボランティアによる短期外出プログラムはあるが、それを体験する犬は全体の10%未満」というもので、すでに同種のプログラムを広く実施している団体では、プログラムの有無の違いによる比較ができないからです。
短期外出プログラムとは、ボランティアが保護犬を「半日程度の外出」または「1泊〜2泊の泊まり」で遠出をしたり、単に家庭で過ごしたりするといった超短期の一時預かりボランティアを指します。
このようなプログラムを実施している団体や施設では、「遠足ボランティア」や「お泊まりボランティア」と呼ばれることが多いようです。遠足やお泊まりの体験は、犬が施設に戻った後にもストレス軽減効果が持続することが過去の研究でわかっています。
研究への参加が決まった団体は、スタッフがマディーズ・ファンドが提供するトレーニングに参加し、遠足やお泊まりボランティアを運営するための手順を学んだ上で、これらの短期外出プログラムをスタートさせました。
最終的にアメリカ国内の51の動物保護施設が調査に参加し、新プログラム実施からの約4年の間に遠足やお泊まりの短期外出プログラムを経験した1,955頭と、これらのプログラムを経験していない25,946頭が分析対象となりました。
短期外出プログラムに参加した犬は、保護施設で長期間暮らしている犬(=なかなか貰い手が見つからなかった)が優先されたとのことです。
遠足やお泊まりの体験が犬の譲渡率をアップさせた!
保護犬の短期外出のプログラムと譲渡率の関連は明白でした。「数時間の外出」「1〜2泊の泊まり」のどちらも犬の譲渡率をアップさせていました。
数時間の外出(遠足)を体験した犬は、体験していない犬に比べて譲渡率が5倍高く、泊まりの体験では譲渡率は14倍も高くなっていました。
短期外出プログラムの担い手となったのは、シェルタースタッフの他に地域社会の住民だったのですが、地域住民の参加率が高い場合には、譲渡率も比例して高くなっていました。
これは散歩などを通じて、保護犬が地域社会の人々の目に触れる機会が増えたからではないかと考えられています。
また短期外出を体験した後に譲渡縁組みが決まった犬たちの引き取り手のほとんどは、プログラムに参加したボランティアの人ではなかったそうです。つまりプログラム参加がトライアルとなって、譲渡率がアップしたのではないということです。
行動上の問題がある犬は短期外出プログラムに選ばれなかったから、プログラム体験の犬の譲渡率が高いのではないか?という考察もあるのですが、その可能性を考慮しても譲渡率の高さは有意と言えます。
また、犬のこととは別にこのような短期外出プログラムは、従来の一般的な一時預かりと比べてハードルが低いので、「ボランティアの募集がしやすい」「その後ボランティアが定着するきっかけになる」などのメリットも考えられます。
一方で、短期外出プログラムを実行するためには保護団体の人的資源や財源が必要で、これらの確保という課題もあります。
まとめ
保護施設の犬が、預かりボランティアによる短期間の外出や泊まりのプログラムに参加したところ、体験していない犬に比べて譲渡率が向上したという調査結果をご紹介しました。
いくつかの課題はあるものの、研究者はこの結果について「動物保護団体は施設で暮らす犬の福祉を向上させるために、短期間外出プログラムの実施を検討するべきだ」と結論づけています。
《参考URL》
https://doi.org/10.3390/ani13223528