保護施設の犬の「お泊まり保育」はストレス軽減に役立つか?【研究結果】

保護施設の犬の「お泊まり保育」はストレス軽減に役立つか?【研究結果】

動物保護施設で暮らす犬が短期的に一般家庭に預けられる制度は犬のストレス軽減に役立つかどうかを調査した結果が発表されました。保護犬の「お泊まり保育」は有効なのでしょうか?

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短期間の一時預かりは犬のストレスを軽減できるか?

旅行カバンとビーグル

動物保護施設での生活は、保護されている犬にとってストレスの多いものです。中でも大きいのは犬舎の中にいる時間の孤独な時間です。犬にとって最善な保護期間の過ごし方は、譲渡先が決まるまで預かりボランティアの家庭で暮らすことですが、それが難しい場合もあります。

アメリカの動物保護団体などは「譲渡先が決まるまで」という長期的な預かりボランティアではなく、1〜2泊だけといった一時預かりボランティアを募集している所もあります。

犬にとっては犬舎生活のストレスから解放され、一般家庭の環境で過ごす経験を得ることができ、預かる人も気楽に応募できるという利点があります。保護犬の「お泊まり保育」とも言えるものですね。

しかしこのような短期間の一時預かりでストレスが軽減しても、施設に戻れば元に戻って意味がないのでは?という見方から、理解が得られにくいケースも多々あります。

この点について、アメリカのアリゾナ州立大学とバージニア工科大学の研究チームが短期預かりの前と後で犬の尿検査や行動分析を実施し、その結果を発表しました。

アメリカ国内の5カ所の保護施設の犬たちで比較

ケージの中で立ち上がっている犬

調査のためのデータはアメリカの5つの動物保護施設が実施している短期預かりプログラムから収集しました。施設は次の5つです。

  • 全米最大のアニマルサンクチュアリ、ベストフレンズアニマルソサエティ
  • アリゾナ動物愛護協会
  • ウエスタンモンタナ動物愛護協会
  • ジョージア州デカルブ郡アニマルサービス
  • テキサス動物虐待防止協会

地域、施設の規模、犬の居住形態などはそれぞれに大きく異なります。研究に参加する犬は各施設のスタッフが決定し、各施設の要件を満たした短期一時預かりボランティアに託されました。

ベストフレンズアニマルソサエティの犬は1泊の短期預かり、その他4カ所の施設の犬は2泊の短期預かりに送り出されました。必要な物資や指示は施設のスタッフから提供されました。預かりボランティアの人々には研究の目的が説明され、犬たちの行動について質問票への回答が依頼されました。

犬たちは一時預かりに出かける日の朝、預かり中、一時預かりから戻る日の朝に尿サンプルが採取され、それぞれの時点のコルチゾール値が測定されました。コルチゾールはストレスホルモンとも呼ばれ、ストレスの強い状況下で分泌されます。

尿サンプル採取の他に、犬たちには心拍数や活動量のデータを収集するモニターが装着されました。このようにして合計207頭の犬のデータが収集されました。

お泊まり経験の他にストレスレベルに影響を与えるもの

保護施設の犬舎

データ分析の結果、すべての施設の犬のコルチゾール値は一時預かり中に有意に低下し、施設に戻ると一時預かり前の普段のレベルに戻ることが分かりました。しかし施設に戻った後の行動は、一時預かりの前よりも安静で落ち着いたものになりました。

また預かり中の活動量では、途中で起きてウロウロしたりすることのない連続した休息時間が増加していました。また休息時間の長い犬ほど、コルチゾール値のレベルも低くなっていました。

このように施設からの一時的な解放は犬にとって一定の効果があることが確認されました。しかしこの調査で注目されたのは、5つの保護施設の犬たちの平常時のコルチゾール値に大きな差があったことでした。その差は一時預かりと平常時の違いよりも大きい場合さえありました。

5つの保護施設は、犬の収容スペースや収容数などに大きな違いがあるので、この違いがコルチゾール値=ストレスレベルの差につながっていることが考えられます。

保護施設の環境要因が、保護犬の福祉全般にどのように関連しているのかを具体的に数値で示す研究は今のところまだありません。今回の調査は一時預かりの影響を調べるものでしたが、犬舎環境のストレス要因の軽減に取り組むきっかけになるかもしれません。

まとめ

保護施設のボランティアの男性と犬

1泊または2泊の短期一時預かりの「お泊まり」を経験した犬のストレスレベルを調査した結果、お泊まり経験は一定のストレス低下の効果を示したこと、しかし日常生活を送っている施設の環境要因は、犬のストレスレベルにより大きい影響があることが数値によって示されたことをご紹介しました。

騒々しく自由の少ない保護施設から短期とはいえ一般家庭で過ごす時間が犬にとって休息になること、施設に戻ると再びストレスを感じることは容易に予想がつきます。また、施設の環境によって犬のストレスレベルが大きく異なるというのも同じです。

しかし、予想したことが数値によって具体的に示されることで、改善が必要であることの証明になります。動物の福祉を改善するために、最低限どのような施設環境が必要なのかという一定のルールを作るためには科学的な証拠が不可欠です。このような研究に大きな意味がある理由です。

《参考URL》
https://peerj.com/articles/6620/

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