保護犬による保護犬のための研究の実例

保護犬による保護犬のための研究の実例

アメリカの動物保護施設にいる保護犬の福祉や譲渡率向上について、多額の助成金を受けた科学的な研究が行われているそうです。保護犬による保護犬のための研究とは、実際にどんなものなのでしょうか。

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記事の監修

東京農工大学農学部獣医学科卒業。その後、動物病院にて勤務。動物に囲まれて暮らしたい、という想いから獣医師になり、その想い通りに現在まで、5頭の犬、7匹の猫、10匹のフェレットの他、ハムスター、カメ、デグー、水生動物たちと暮らしてきました。動物を正しく飼って、動物も人もハッピーになるための力になりたいと思っています。そのために、病気になる前や問題が起こる前に出来ることとして、犬の遺伝学、行動学、シェルターメディスンに特に興味を持って勉強しています。

アメリカの保護施設の犬を対象にした大規模な調査

ケージの中の犬の鼻をタッチする人

2018年11月、アメリカのアリゾナ州立大学心理学部にある「イヌ科学共同研究所」の研究者とバージニア工科大学の科学者が共同で行うある研究に対して、全米屈指の保護された犬猫に対する慈善事業を行っている基金、マディーズファンドから、170万ドル(約1億9000万円相当)の助成金が授与されたと発表されました。

イヌ科学共同研究所は、犬と犬にかかわる人たちの生活と福祉を科学的な根拠に基づいた方法で向上させることを目指しており、またその根拠となる科学的データを得るための研究も行っています。具体的には、保護施設にいる犬たちの譲渡率を上げるための活動や、保護施設にいる犬の生活の質の改善についての研究、ペットとして飼われている犬の問題行動を解決するための取り組み、犬を飼うことが人間に与える影響についての研究などを行っています。

今回マディーズファンドより授与された助成金は、普段は保護施設で暮らす保護犬たちを対象に一時預かりプログラムを行い、犬たち及び保護施設の職員やボランティアに与える影響を調査することに使われます。

調査はアメリカ全土の動物保護施設に呼びかけて、研究調査への参加希望施設を募るところから始まっています。参加の条件は、犬を物理的に収容する施設を持っていることと、新しい一時預かりプログラムを実施する意欲があることです。

3つのタイプの一時預かりと既に分かっている効果

保護犬を撫でる女性

この調査と研究では、全米から100箇所の保護施設が参加することを目指し、それぞれの施設で3つのタイプの犬の一時預かりプログラムを行い、犬と保護施設で働く人間がどのような影響を受けるかが調査されます。

従来あった一般的な一時預かりは、ボランティアの家庭で犬が一定期間暮らすことを前提として行われています。それは犬にとっては理想的ですが、長期的に犬を預かることのできるボランティアを確保することが難しいというデメリットもあります。一定期間調査に参加する施設で行われる3つのタイプの一時預かりとは、「日帰り旅行」「一泊お泊まり」「従来の長期預かり」です。

イヌ科学共同研究所が以前に行った研究では、「一泊お泊まり」をした保護犬たちの唾コルチゾール値が著しく低下したことが示されています。コルチゾール値はストレスレベルを反映するものなので、「一泊お泊り」のような短時間の預かりであっても、保護犬たちのストレスを軽減させる効果がある可能性が分かっているのです。

今回の研究は、その結果を基にさらに規模を広げて、また一時預かりのタイプを増やして掘り下げて調べることで、保護犬たち自身と保護犬をお世話する人間に与える影響を調べるものです。犬のストレスレベルが下がると犬は本来の性格を表しやすくなり、里親になりたい人にとってもその犬がどんな犬なのかが把握しやすくなり、保護犬の譲渡率が上がることにつながると考えられています。また、一時的にでも犬のストレスレベルが下がることは犬自身にとっても有意義なことだと考えられています。

数時間や一泊などの短時間の外出は、犬にとって「ここが新しい家だ」と勘違いさせ、犬が施設に戻ったときにかえってストレスになるのではないかと心配する声もあるのですが、これも以前の研究でコルチゾール値は一時預かり中に著しく減少し、多くの場合、施設に戻った後は以前と同じレベルに戻ることから、少なくとも有害ではないと判断されています。また、施設に戻った時のコルチゾールが一時預かり中と同じ低い値であることもあるそうです。
このことから、保護犬の短時間の一時預かりは研究者は「私たちが週末にリフレッシュして、月曜日にまた仕事に戻るようなものだと考えています。」としています。

研究に参加している施設の実施例

犬用のベッドで眠る白い犬

アトランタにある施設「フルトン・カウンティ・アニマル・サービス」では、3つのタイプのうち「日帰り旅行」を行うプログラムを「ちょっとしたお昼寝タイム」として始めています。

この施設のように規模の大きい保護施設は、数多くの犬たちを収容しているため、常に吠え声が響き渡るやかましい場所です。それは言うまでもなく犬たちにとってもストレスフルな状態です。

「ちょっとしたお昼寝タイム」では、ボランティアに昼間の数時間だけ保護犬を自宅に連れ帰ってもらい、ちょっと散歩をしたり静かで快適な場所でのんびり昼寝をさせるというものです。

ワシントン州スポケーンの保護施設では、「日帰り旅行」の一時預かりプログラムに「Dog Meets World」という名を付けています。犬たちは里親募集中と書いたベストやバンダナを身につけてボランティアとの日帰り旅行に出発します。ボランティアには、水飲み用のボウルやハーネス、リード、おやつやおもちゃなど、必要な物は全部貸し出されます。犬を連れだしたボランティアは、犬とハイキングに行くもよし、公園をのんびり散歩するもよし、ドッグカフェに行くもよし、自宅で犬を寝そべらせておいて動画鑑賞三昧でもよしで、好きなように過ごすことができます。預かる時間も、1~2時間でも、一日中でもOKです。この、犬の遠足とも言える日帰り旅行プログラムが行われた後はも、施設の雰囲気が大きく変わり、短時間の一時預かりには大きな効果があると施設の職員は確信しているそうです。

一時預かりが実施されるたびに、犬を預かったボランティアは、預かり中の犬の様子について質問票に回答することになっています。その回答結果はまた、その犬の本来の性格を把握するためにも役立てられます。

まとめ

散歩中の茶色の中型犬と小型犬

アメリカの大学の犬の福祉について研究している複数の研究者らが共同で、保護施設の犬のストレスレベルを下げ、保護犬の譲渡率と福祉の向上のための調査研究を行っている例をご紹介しました。

大規模な基金から授与された巨額の助成金や、保護施設を全国レベルで巻き込んでの大規模な研究などは、今すぐ真似しようと思っても無理かもしれません。けれども、こうして導き出された研究の結果を知ることで、日本で保護活動をしている方のヒントになったり、一般の飼い主にとっても愛犬の生活の質を高める方法を知ったりすることにもつながります。

今後、この研究の最終的な結果が届くのもまた楽しみですね。

《参考》
https://asunow.asu.edu/20181119-asu-canine-researchers-awarded-grant-study-impact-foster-care-shelter-dogs-and-volunteers
http://www.wtol.com/2019/03/04/shelter-dogs-taking-field-trips-getting-off-campus-nap-time-part-new-national-study/

https://asunow.asu.edu/20181119-asu-canine-researchers-awarded-grant-study-impact-foster-care-shelter-dogs-and-volunteers
https://news.asu.edu/20170328-solutions-asu-researcher-finds-ways-reduce-stress-shelter-dogs
https://www.11alive.com/article/news/shelters-across-the-country-testing-field-trips-off-campus-nap-time-for-adoptable-dogs/507-c1a9396b-b9b4-4f65-b655-e38c16c47464
https://www.spokesman.com/stories/2019/feb/28/scraps-will-make-dogs-available-for-short-term-fie/

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