ジェネレーション・パップから新しい調査報告
イギリスで2018年からスタートした『ジェネレーション・パップ』というプロジェクトがあります。
英国発、犬の一生分のデータベースを作る『ジェネレーション・パップ』
https://wanchan.jp/column/detail/11785
この一般参加型の研究プロジェクトは、イギリス最大の犬保護団体ドッグズトラストとブリストル大学が共同で実施しているもので、参加時に生後16週齢以下の子犬を飼っていることが条件になっています。
登録された子犬の飼い主が定期的にアンケートや健康調査に参加して、子犬時代から犬の一生をリサーチしたデータベースを作るというものです。
今までにも「先住猫に子犬を紹介する方法」「トレーニング方法の選択」など、さまざまなテーマについての調査結果が報告されています。
そしてこの度は飼い主と犬との生活体験、犬の行動や行動変化に対する飼い主の認識を調査した結果が、ジェネレーション・パップの研究チームから発表されました。
自由記述式で愛犬の行動と飼い主の認識を調査
この調査は、プロジェクトに参加した飼い主の愛犬が、12週齢および/または16週齢、6ヵ月齢、12ヵ月齢、18ヵ月齢、24ヵ月齢の時の調査票に基づいて行われました。
それぞれの時点での、犬の経験(他の犬や人間、場所、活動)、1日の行動(食事、睡眠、運動、トレーニング)、健康状態など基本的な質問の他に、「愛犬との経験で最も良かったことは何ですか」「最も困ったことは何ですか」「最も楽しかったことは何ですか」という質問に対して、自由形式で記入する項目がありました。
最終的に1,808頭の犬について3,577件の回答が寄せられ、これらの回答から飼い主が愛犬の行動をどのように感じ、どのように認識しているのかが分析されました。犬の性別はオスメスがほぼ半々で、54%が雑種、46%が純血種でした。
記述式の回答では文脈から読み取れることの他に、自分の感情や犬の行動を表すのにどのような言葉が使われているのか、犬の月齢と共に使われる言葉がどのように変化していくのかなども分析されました。
飼い主の誤った認識も多いが、ほとんどの人は犬との暮らしに満足
回答を分析した結果、犬の行動に関する飼い主の考え方は次の3つのパターンに分類されることがわかりました。
- ① 犬種、遺伝、性別、年齢から来る行動と考える
- ② 犬が意図的にやったこと、または性格から来ると考える
- ③ 環境など外部からの影響から来ると考える
①の犬種や年齢から来る行動(子犬期の甘噛み、犬種特有と飼い主が考える気質など)については、多くの飼い主が寛容であったり、「仕方がない」と諦めたりしていることがうかがえました。
②についてはトイレトレーニングが完了しているのに家の中で粗相をする、呼んでも戻って来ないなどがあり、これらを飼い主への挑戦と考える人も多く見られました。この考え方は犬の月齢が上がるほど多く見られるようになりました。
③については過去のトレーニングや社会化の影響が、犬の問題行動の原因になったという回答が多く見られました。
これらは人間の親子関係でも見られる考え方なのですが、人間の場合は①のような年齢や遺伝から来ると考える行動に対し、親は無力感を持ち改善の可能性が低いと考えることがわかっています。
②の意図的または性格から来ると考える行動に対しては、親の怒りや感情的な興奮が大きくなることがわかっています。
③の外部環境から来る行動だと考えることは、親が我が子を肯定的に受け止めることと関連しています。
これら人間の親子関係が飼い主と犬にも当てはまるかどうかは、今後さらに研究が必要だとされ、どの時点の、どの質問への記述においても、飼い主が犬の行動を誤解したり正しく認識していないことが多く現れていました。
他には、犬が自分の尻尾を追ってクルクル回る行動を、微笑ましく可愛らしいものと捉えている例もありました。この行動は不安障害のひとつで早急に対処が必要です。
子犬期に石や靴下などを噛む行動も、多くの飼い主が正常で可愛いいたずらだと認識していましたが、これらは命に関わる誤飲にもつながる危険な行動です。
回答者の多くは、犬の行動を説明するのに擬人化した表現を使っていました。例えば、留守番ができない犬について「弱虫」、犬が刺激に対して吠えることを「不機嫌」、飼い主の指示に従わないことを「こちらの我慢を試している」などです。
また、「幼児のように」「ティーンエイジャーのように」という表現も多く見られました。
擬人化は犬特有の行動への誤解や、人間からの誤った期待につながる可能性があるのですが、上手く使えば飼い主が専門家に助けを求める際のコミュニケーションに役立つこともあります。研究者はこの点についてさらに研究が必要であると述べています。
犬の行動への認識については、今後の課題となる問題点もいくつか明らかになりましたが、全般的にはほとんどの回答者が犬との暮らしにポジティブな感情を持っていました。
多くの人が愛犬のおかげで孤独感が軽減され、生きがいや幸福感を持てるようになったという答えています。
まとめ
子犬期から2歳までの間の犬の行動について飼い主への定期的な調査から、犬の行動についての誤った認識も見られたが、ほとんどの人は愛犬との暮らしに満足し幸せを感じているという報告をご紹介しました。
子犬期から2歳までという変化の大きい時期の行動について、飼い主がどう認識しているのかは犬の福祉に大きく影響します。飼い主向けの情報発信や啓蒙教育の戦略を立てるためにも、飼い主がどのように考えているのかを知ることが大切です。
この調査によって、今後の研究テーマや飼い主への教育の焦点が明らかになったことは大きな収穫です。このプロジェクトからの新しい報告を楽しみに待ちたいと思います。
《参考URL》
https://www.mdpi.com/2076-2615/13/11/1863