犬の認知症はどのようなもの?
「認知症」は、「高齢性認知機能不全」とも呼ばれることのある認知機能障害の一種です。
人でも犬でも、高齢になるにつれて脳神経細胞や自律神経がうまく働かなくなるため、何らかの障害が起こることがあります。そうした障害を総称した呼び方が「認知症」なのです。
認知症の多くは老化が原因とされていますが、中には脳梗塞や脳出血などの別の病気が原因で起こる場合もあります。
人の場合だと「会話が成り立たない」など、話しているうちに抱く違和感から認知症に気づくこともありますよね。
では、話すことのできない犬の場合、一体どのような症状から「認知症かもしれない」と気づくことができるのでしょうか?
犬の認知症の症状や行動
犬の認知症で見られる症状や行動は、主に以下のものです。
- トイレの失敗が多くなった
- 同じところをグルグルとずっと歩き回っている
- 夜鳴きが増えた
- 夜に徘徊するようになった
- 狭いところに入って出られなくなる
- 呼びかけても無反応
- 特に意味もなく単調な声で鳴き続ける
他にもさまざまな症状がありますが、上記のような症状は毎日生活を共にしている飼い主さんは気づきやすいかと思います。
こうした症状が見られた際には、早めにかかりつけの動物病院を受診しましょう。
犬の認知症の治療法
人間でもそうですが、犬でも認知症の根本的な治療方法はまだ見つかっていません。そのため、一度認知症になってしまうと完治はできないのが現状です。
ですので、犬の認知症の治療も「完治のために」ではなく「進行を遅らせるため」や「問題行動の改善・緩和」が目的となります。
治療方法は獣医師さんによっても変わってきますが、内服薬やサプリメントでの療法が一般的です。また、認知症の進行を遅らせるには「日頃の飼い主が行うケアの方法」も、とても重要となってきます。
認知症の愛犬への介護のポイント
認知症になった犬の介護は大変なことも多いかと思います。しかし、どんな状態になっても大切な愛犬であることに変わりありません。
ここからは、認知症になった愛犬のために行っていける介護で気をつけたいポイントを解説していきます。
トイレの失敗は叱らない
犬の認知症で多いのが「トイレの失敗が多くなった」という経験です。何度も度重なってしまうと後片付けも大変ですし、飼い主さんもつい叱りたくなってしまいますよね。
しかし、つらいのは飼い主さんだけではなく、愛犬も一緒です。認知症になってしまっても犬の元々の本能は変わりませんから、「排泄物で汚れる」ということに対して、犬が全くストレスを抱いていないわけではないのです。
トイレの失敗が多くなった愛犬を叱ってしまう前に、飼い主は次のことを意識してみましょう。
- 失敗を少なくする工夫をする
- 「失敗しても仕方ない」という心持ちでいる
- 必要に応じてオムツも利用する
食事の後にトイレに行く子も多いと思いますので、食事をする場所とトイレを近づけてしまうのも一つの手です。
また、認知症に限りませんがシニア期に入ると足腰が弱ってきて、少しの移動であっても大きな負担となることもあります。普段生活しているスペースからトイレに向かうまでの導線に、段差や障害物などがないかを確認してみましょう。
後片付けの大変さに加えて、「これまでできていたことができなくなってしまった」という面で、飼い主さんも精神的なショックが大きいかと思います。しかし、あまり気張りすぎずに「失敗は仕方のないこと」という気持ちで過ごすようにしてくださいね。
早い段階で使ってしまうと愛犬の生活の質を下げることにもつながるので注意が必要ですが、必要に応じてオムツの利用も視野に入れましょう。
昼夜逆転を防ぐ
認知症になって、夜鳴きをするようになった子や夜に徘徊をするという子も多いでしょう。これは、昼夜逆転してしまっていることが原因と考えられます。
認知症になると、どうしても以前と比べて日中の活動量が少なくなります。そのため犬は夜になっても疲れることなく活動してしまい、夜を昼、昼を夜だと勘違いして過ごすようになってしまうのです。
認知症と言えど、「自分が活動しているときに飼い主や他の家族が寝ている」というのは犬にとって大きな不安となります。その不安やストレスから、夜鳴きをしてしまうケースも多いのです。
昼夜逆転を防ぐためにも、朝になったら犬を起こして日の当たる場所に連れていきましょう。
犬が昼と夜の差を判断しやすいように、部屋の照明なども「昼は明るく、夜は暗く」というのをはっきりさせてあげるといいですよ。
脳に刺激を与えることを意識
愛犬が認知症になると「どうせ治らない」と飼い主はショックを受けてしまいがちです。しかし、生活環境によって認知症の進行を遅らせることは十分期待できますよ。
愛犬の認知症の進行を遅らせるためには「脳に刺激を与えること」を意識してみましょう。
脳に刺激を与えないまま過ごしていると、脳の機能はどんどん低下する一方です。少しでも愛犬の脳に刺激を与えるため、飼い主は次のようなことを積極的に行いましょう。
- 外に連れ出す
- たくさん話しかける
- 規則正しい生活を送る
空気や匂い、車の音や人の話し声など、私たち人間にとっては「何気なくていつもと変わらない」と思ってしまうものであっても、嗅覚や聴覚の鋭い犬にとってはどれも脳へのいい刺激となります。
なので、「認知症だから」と閉じこもってしまうのではなく、散歩などで積極的に外へ連れ出してあげることがおすすめです。もし愛犬が自分で歩くことが難しいようでも、カートを使ったり抱っこをしたりして散歩に連れて行ってくださいね。
また、飼い主さんがこまめに話しかけてあげることも、犬の脳へのいい刺激となります。忙しい時にはテレビやラジオなどを使ってもいいので、人の話し声をたくさん聞かせてあげるようにしましょう。
規則正しい生活を心がけることも忘れずにいてくださいね。
飼い主は明るい気持ちを忘れずに
認知症になった犬の介護で気をつけたいポイントについてお話しました。
今回お話した以外にも「認知症になってから愛犬が噛み付くようになった」という声もたまに聞かれます。しかし、これは「認知症だから」というだけではなく「不安」が原因のことも珍しくありません。
犬は、大好きな飼い主の気持ちを汲み取るのがとても上手な動物です。明らかに攻撃性が増した場合には鎮静剤などの薬を処方してもらうことも必要ですが、飼い主の不安などマイナスな気持ちを感じ取って自分も不安になっていた……という子もじつはたくさんいます。
認知症と診断されても、飼い主さんはまず「認知症になっても愛犬は愛犬だ」と再度ご自分の中で認識を深めてみてください。
大変なことも多い愛犬の介護ですが、飼い主は自分だけで無理をせずに、少しでも明るい気持ちで介護を行っていけるように工夫してみましょう。
介護は「目的」ではなく「自分と愛犬が幸せに暮らすための手段」だということを忘れないでくださいね。