ペットロスには段階がある
ペットロスについて調べていて「悲しみの5段階」という言葉を見聞きしたことのある人もいるのではないでしょうか。
この「悲しみには段階がある」という説は、ドイツの精神科医であるエリザベス・キューブラー・ロスが初めて提唱したと言われています。
これは、ペットロスに限らず「身近な存在の死」という衝撃的な出来事を目の前にした人が、悲しみをどう受け入れていくのかというプロセスを表したものです。
悲しみの段階説には、キューブラーが唱えた他にも存在するのですが、この記事では「悲しみの5段階」について詳しくお話していきます。
第一段階:否認・孤立
愛犬を失って、まず最初に訪れるのが「否認・孤立」の段階です。大切な家族でもある愛犬を失うと、人はとても冷静ではいられません。
頭では「愛犬は死んだ」とわかっていても、心が追いつかずに「愛犬の死を受け入れたくない」「こんなこと信じられない」と、愛犬の死を否認してしまうのです。
「まだどこかで生きているのでは?」というような希望すら持ち始めるこの段階。愛犬の死をすんなりと受け入れる周囲の人との温度差にショックを受け、距離を置くようになり孤立してしまうケースもあります。
第二段階:怒り
否認・孤立の段階が過ぎていくと、次に「どうしてうちの子が死ななくてはいけないの?」という怒りが込み上げてきます。
そして、怒りの矛先は自分自身にも向けられて「私が何か悪いことをしたのかもしれない」と自責の念にかられるのです。
こうした怒りは自分自身だけにとどまらず、治療を担当していた獣医師や動物看護師へ向けられることも珍しくはありません。
ペットロスカウンセラーとして私が実際にお話を伺った飼い主さまの多くは、やはりこうして動物病院の関係者に怒りを抱いていました。
カウンセラーである私も、ペットを亡くした飼い主さまから怒りを向けられた経験が何度もあります。側から見ていると「尽くしてくれた人に対して失礼だ」なんて思ってしまうかもしれません。
しかし、この時の飼い主はまだ冷静ではなく、こうして周囲の人や自分自身に怒りをぶつけてしまうのも仕方のないことなのです。
もしも、愛犬を亡くした人がこうした怒りをぶつけてきたとしても、周囲の人は優しく受け止めてあげてくださいね。
自分自身がペットロスに陥って周囲に怒りをぶつけてしまう場合にも「自分はなんてひどい人間なんだろう」と落ち込む必要はありませんよ。
第三段階:取引・交渉
第二段階のような怒りがおさまってくると、次に飼い主は「なんでもするからあの子を返してほしい」と“見えない何か”に頼りたくなります。
神様などの現実的ではない存在にすがってしまうこの時期は「これは夢なのかもしれない」という気持ちが頭を離れません。「なんとかこの状況を変えたい」と必死になって考えるようになります。
第四段階:抑うつ・落胆
「どんなに祈っても現実は変わらないんだ」と現状を受け入れ始めるこの段階。「受け入れ始める」とは言え、この頃の飼い主はまだ愛犬の死に関して納得はできないでいます。
そのため、ひどく落胆して「愛犬を追って自分も死んでしまいたい」とすら考えてしまう段階です。
自分が元気に過ごすことさえも悪いことのように感じてしまい、何に対してもやる気が起きない段階。私自身もペットロスの経験者ですが、おそらくペットロスの悲しみの段階の中で、この第四段階が一番苦しい時期だったかもしれません。
この時には無理に元気になろうなんて考えなくてもいいので、たくさん悲しむようにしましょう。
第五段階:受容・回復
苦しくてつらかった第四段階が過ぎると、ようやく愛犬の旅立ちを受容できる日がやってきます。これまでは愛犬との楽しかった思い出を振り返ることすらできなかった人でも、少しずつ生前の姿を懐かしむことができるようになるのです。
ペットロスの症状が原因で崩れていた日常生活も徐々に元通りになっていき、笑顔で過ごせることが増えていきます。
そして、「お空で愛犬が幸せでいてくれるといいな」と、自分自身の未来についても前向きに考えられるようになるのです。
段階の進み方は人それぞれ
悲しみの5段階について説明してきましたが、「決してその道は平坦ではない」ということを心に留めておきましょう。
第一段階から第五段階まで、すんなり進むパターンもあれば、第四段階からまた第三段階に戻ってしまう……などのケースも珍しくはありません。
私が以前お話を伺った飼い主さまは「第二段階から急に第四段階にいった気がします」と不安そうにおっしゃっていました。
しかし、こうした場合にも心配する必要はありません。悲しみ方が人それぞれであるように、悲しみの段階だって人それぞれの進み方をします。人と比べずに、自分のペースで前に進んでいけば大丈夫です。
そして、周囲の人はつい「まだ悲しんでいるの?」なんて、冷静に対応してしまいがちです。ですが、そうした言葉をかけられると、飼い主の心はひどく傷付きます。
ペットロスからの立ち直りが、かえって遅くなることだって十分にあり得ます。ゆっくり見守ってあげるようにしてくださいね。
悲しみの段階を知ると何のためになる?
また、私がお話をお聞きする中で「段階説は知っているけれど、なんだか信じられない」という飼い主さまも多くいます。
確かに、目に見えない「心の話」なので、信じられないというのも仕方がないと思います。
それに、この段階説を信じたからと言って「ペットロスから早く抜け出せる」というものではありませんので、信じる信じないは個人の自由です。
ただ、こうしたプロセスを知っておくことで「自分を客観的に見る」ことができます。
そうすると、先の見えないペットロスで苦しく塞ぎ込んでしまいがちな毎日にも、多少ではありますが「もうすぐ抜け出せるかもしれない」という一筋の光が見えてくるのです。
信じるか信じないかは別として、まずは自分の心の状態が今どの段階なのかは知っておいてもいいかと思いますよ。
悲しみには焦らずにゆっくり向き合う
ペットロスでの悲しみの5段階についてお話しました。
ペットロスで最も重要なことは「悲しみに時間をかけて向き合う」ということです。
つらくて苦しいペットロス、早く抜け出したいと思ってしまいますよね。でも、まずは「悲しい」という“自分のありのままの心”を大切にしてください。
我慢せずに悲しみを受け止めて、ゆっくり乗り越えていきましょう。