イギリスの獣医師が取り組んでいる短頭種の犬の健康問題
イギリスでは、獣医師会や動物保護団体が長年にわたって短頭種の犬の健康問題改善のために取り組んでいます。
飼い主への啓蒙教育活動やケネルクラブへの犬種スタンダードの見直し提言に加えて、短頭種の犬たちが具体的にどのような疾患や障害を持っているのかを明らかにする調査も継続して行われています。
王立獣医科大学はVetCompassというイギリスの一般動物病院の臨床記録を匿名で一括管理するプログラムを運営しており、短頭種の犬の健康問題研究にも役立てています。
過去にはフレンチブルやパグの健康状態を他の犬種と比較した調査結果も発表しています。
「フレンチブルドッグは他の犬種に比べて病気が多い?」
https://wanchan.jp/column/detail/31044
「パグとパグ以外の犬の健康状態を比較したイギリスでの調査結果」
https://wanchan.jp/column/detail/33411
そしてこの度はイングリッシュブルドッグと他の犬種を比較して、どのような病気や障害が多い(または少ない)のかと今後の課題が報告されました。
イングリッシュブルドッグの健康状態の悪さが浮き彫りに
この調査には、VetCompassで管理されている2016年に病院で治療を受けた犬905,544頭のデータから、イングリッシュブルドッグ2,662頭とイングリッシュブルドッグ以外の22,039頭を無作為に抽出したサンプルが使用されました。
これらの犬の医療記録から、それぞれのグループで最も多い疾患を分析し、イングリッシュブルドッグとそれ以外の犬種の疾患のリスクが比較されました。
分析の結果、以下のような内容が明らかになりました。
- イングリッシュブルドッグの平均年齢2.65歳、それ以外の犬4.42歳とブルが有意に若い
- 8歳以上の割合がイングリッシュブルドッグでは10%未満、それ以外の犬では25%以上
- イングリッシュブルドッグが1つ以上の疾患を持っているオッズはそれ以外の犬の2.04倍
- 最も多い43の疾患のうち24の疾患でイングリッシュブルが有意に高いオッズを示した
- 特に多い疾患は皮膚炎(38倍)、チェリーアイ(27倍)、短頭種閉塞性気道症候群(19倍)
- 43の疾患のうち、歯周病、脂肪腫、ノミ感染など6つにおいては低いオッズを示した
イングリッシュブルドッグの健康と福祉の改善が必須!
2つのグループを比較した結果は、イングリッシュブルドッグの健康状態はそれ以外の犬に比べて非常に悪く、病院で受診する犬の平均年齢の若さや、8歳以上の犬の割合の低さはイングリッシュブルドッグの平均寿命の短さを示しています。
またイングリッシュブルドッグに多い疾患は、たるんだ皮膚、垂れた目、短いマズルなどの極端な身体的特徴に起因していることも示されています。ノルウェーやオランダではこのような特徴を改善する対策の一環として、イングリッシュブルドッグの繁殖が実質禁止されています。
調査に携わった研究者は、イギリスでイングリッシュブルドッグの繁殖禁止という事態を避けるためにはこの犬種の身体的特徴のスタンダードの見直し、犬の健康や福祉を損なわない体型への改良が急務だと述べています。
まとめ
イギリスでイングリッシュブルドッグとそれ以外の犬種の健康状態を比較調査したところ、イングリッシュブルドッグはその身体的特徴から来る疾患や障害が多く、その他の犬種と比較して健康状態が非常に悪いという結果が出たことをご紹介しました。
イギリスでは過去10年の間にイングリッシュブルドッグの人気が急激に高まりました。その結果、犬の福祉や健康を考慮しない悪質な繁殖業者が増えたことも、この犬種の健康状態の悪さの一因になっています。
しかし業者が犬を作り出し売る背景には、知識を持たずに犬を欲しがる人が多いという現実があります。短いマズル、たるんだ皮膚、短い脚を「かわいい」と考える前に、これらの身体的特徴が犬を苦しめる原因になっていると知る必要があります。
《参考URL》
https://cgejournal.biomedcentral.com/articles/10.1186/s40575-022-00118-5