1.VetCompassのデータを利用してパグの健康状態を調査
パグは愛嬌のある顔立ちやキャラクターから、短頭種の犬の中でフレンチブルドッグと人気を二分する存在です。しかし残念なことにこれもフレンチブルドッグ同様、その容姿のために深刻な健康問題が懸念されています。
イギリスのケネルクラブは、エビデンスに基づくパグの「犬種健康保護計画」で気道障害、てんかん、癌疾患、肥満、パグ脳炎、皮膚疾患、脊椎疾患をこの犬種の優先的な健康課題として特定しています。
しかしパグとパグ以外の集団を比較した情報は少なく、疾患についても単独の研究は多いが疾患全般についてのデータは限定的でした。
この度イギリスの王立獣医科大学の研究者は、パグの健康問題のエビデンスと根拠を補強するため他のパグ以外の犬との比較調査を実施しました。
同大学ではイギリス全土の一般動物病院の臨床記録を匿名で一括管理するVetCompass(The Veterinary Companion Animal Surveillance System の頭文字)というシステムを運営しています。調査のためのデータはこのシステムの2016年の1年間のパグと他の全ての犬の一般的な疾患が抽出、照合、分析されました。
2.パグとパグ以外の犬の有病率を比較
イギリスで2016年にVetCompassに登録している動物病院を訪れた犬905,544頭が調査対象とされました。ここから無作為にパグ4,308頭とパグ以外の犬21,835頭を抽出し、40種の一般的な疾患の有病率を比較しました。
分析の結果の主な内容は次のようなものでした。
- パグの平均年齢2.36歳、パグ以外の犬の平均年齢4.44歳とパグが有意に若かった
- 1つ以上の疾患が診断された調整オッズは、パグはパグ以外の1.86倍だった
- 40の疾患のうち23においてパグは有意に高い調整オッズを示した
- 特に高いオッズを示したのは短頭種閉塞性気道症候群、鼻腔狭窄、角膜潰瘍、肥満
- 40の疾患のうち心雑音、脂肪腫など7つにおいてパグは低いオッズを示した
- 疾患グループでは気道障害、口腔障害、腹部疾患、脳疾患で高い調整オッズを示した
- 逆に疾患グループでは内分泌系疾患と行動障害の調整オッズが有意に低かった
3.「パグは典型的な犬として考えられない」
このように、パグは他の犬と比べて有病率の高い疾患が低い疾患よりも多く、克服すべき健康および福祉上の重要な課題を抱えていることが示されました。
この研究では「パグ対パグ以外」で比較分析が行われましたが、パグ以外のうち18.74%が短頭種であったことから、パグにおける有病率の高さが過小評価されている可能性があります。つまり短頭種以外の犬と比べると有病率の高さはさらに上がると考えられます。
研究者は「パグとパグ以外の犬の健康プロファイルの大きな違いは、パグの健康が犬の主流から大きく外れており、この犬種はもはや典型的な犬として考えることができないことを示している」というショッキングな結論を出しています。
まとめ
一般的な犬の疾患40種についてパグとパグ以外の犬の有病率を比較調査した結果、パグは有病率の高い疾患が多く、健康と福祉の上で早急に改善すべき大きな問題があることが示されたという報告をご紹介しました。
平たい顔、飛び出した大きな目、困り顔のようなニュアンスのしわ、これらは人間がパグを愛らしいと感じる要素で人気の理由です。しかしこれらの要素はパグの呼吸障害、眼疾患、皮膚疾患を増やしパグを苦しめるものでもあります。
人間が思う「可愛い」を作り出したことが、パグの健康と福祉を低下させることになりました。犬と暮らしている人、犬を迎えたいと考えている人はこのようなことを知っておく必要があります。
《参考URL》
https://cgejournal.biomedcentral.com/articles/10.1186/s40575-022-00117-6