パピーウォーカーとは
パピーウォーカー(puppy walker)とは、日本盲導犬協会にいる盲導犬候補である生後2カ月の子犬を約10カ月間育てる里親のボランティアのことです。「パピー」とは子犬のことを指し、パピーウォーカーを直訳すると「子犬の散歩をさせる人」という意味になります。
これは、もともと盲導犬の飼育を手伝う人のことを表す言葉として定着したものですが、介助犬や聴導犬などを含めた補助犬の飼育ボランティアのことを広くパピーウォーカーと呼ぶことがあります。
子犬は1歳になるまでの時期に、社会性や一般的なしつけを身につけるとされています。この大切な時期にパピーウォーカーとなる一般の家庭が子犬を預かり、人間社会でさまざまな経験をさせたり街中のさまざまな騒音に慣れさせたり、一般的なしつけを身につけさせます。
生後2カ月から約10カ月の間に人間からの愛情を受けながら育つことで、将来目の不自由な方のパートナーになったときに信頼関係を築きやすくする基礎を養うことを目的としています。
パピーウォーカーになるためには
パピーウォーカーのなるための募集条件は以下の通りです。
- 訓練センター周辺に住居をもち、移動手段として車を所有していること
- 月1回訓練センターで開催される講習会に参加すること
- 室内飼育ができ、子犬を留守にする時間が少ないこと
- 犬のしつけに対し家族全員で参加できること(一人暮らしは不可)
- 現在犬を飼育していないこと
- マンションなどの集合住宅に住んでいる方は管理側の承諾が必要
パピーウォーカーになるためには、ドッグトレーナーといった特別な資格や犬を飼育した経験などは一切必要ありません。条件をクリアすれば誰でも参加できるボランティアの一つです。
登録方法および子犬委託までの流れは、まず登録申込書を書いて盲導犬協会に返送します。登録後、月に1回開催されている訓練センターでの説明会に申し込むようになります。
説明会に参加した際には、簡単な面談を合わせて行うため、「盲導犬」「盲導犬協会」「視覚障がい者」などについて十分に勉強してから、正式に申込みしましょう。
このように説明会に参加を終えてから、パピーウォーカーへ申込みをした順番で犬が委託されるという流れになります。
パピーウォーカーに必要なしつけ
マナーを身につける
盲導犬は、目の不自由な視覚障害者の方と行動をともにします。そのため、必然的に室内で過ごすことが多く、人間とともに生活するマナーを身につける必要があります。
食事や排泄のしつけを行うことはもちろんのこと、「無駄吠えしない」「イタズラで物を噛まない」「人の食べ物を欲しがらない」などといったことも、社会性や人間との信頼関係を身につけさせるためにパピーウォーカーに必要なしつけポイントとして挙げられます。
人との関わり方を教える
パピーウォーカーになったら、子犬が人間と楽しく関われる犬に育てましょう。人が大好きで、言うことをよく聞く犬にするために、アイコンタクトができただけでも思い切り褒めるなど、「褒めてしつけをする」と効果的です。そうすることで、犬は名前を呼ばれて人間の近くに行くと嬉しいことがあると学習してくれます。
また、犬同士だけで頻繁に遊ばせるのは、犬にしか興味を示さなくなる可能性があるため避けたほうがよいとされています。できるだけ人間との関わりを大切にしながら、盲導犬として働く犬になるということを常に意識して過ごすようにしましょう。
パピーウォーカーの出会いから別れまで(引退後)
出会い
盲導犬候補の子犬は、生後2カ月で登録されたパピーウォーカーの家庭にやってきます。この日が子犬と家族との出会いとなり、家族とともに過ごす中でさまざまな経験やルールを学んでいくことになります。
当日は、指導員さんに飼育環境を確認してもらい、飼育の際の注意点なども合わせて聞きます。この日から、子犬が盲導犬として障害者の良きパートナーとなれるよう、さまざまなことと愛情を与えながら教えていくことになります。
別れ
家庭で過ごす期間を終了した子犬は日本盲導犬協会などに戻ります。訓練センターで約1年の訓練を受けてから適性が認められ、試験に合格すると盲導犬として巣立っていくことになります。
こういった犬たちは、一般的に10歳で引退するまで盲導犬として視覚障害者と生活をともにし、引退後は新しい家庭に引き取られ、家庭犬と同じようにのんびりと過ごします。
子犬との別れのタイミングが来る1カ月ほど前になると、はがきや電話で連絡がくることが多いそうです。引き渡しのときと同様、協会の指導員さんが迎えにきてくれます。引き渡し後は二度と会えないというわけではなく、訓練の節目や希望者には犬との再会が許されています。
しかし、協会に戻った犬は指導員さんとの信頼関係を築き、基本的なしつけをして盲導犬としての資質を見ていくことになります。そのため、パピーウォーカーだった家族と頻繁に面会することは難しいことがあります。
パピーウォーカーでかかる費用
パピーウォーカーはボランティアなので、収入や報酬といったものは一切ありません。そして、約10カ月間にかかるある程度の費用を、パピーウォーカーの方で負担する必要があります。
実際にかかるものとして、盲導犬協会が推奨している「エサ代5~6千円」「損害保険2千円」「備品類」などがあります。備品に関していえば、留守中などに子犬を入れておくケージは、盲導犬協会から借りることができます。しかし、それ以外にかかる備品類の初期費用、2万円程度は基本的にパピーウォーカーが負担することになります。
- 子犬のベッド
- 子犬のトイレ
- ケージに敷くシーツ
- 汚れふきシート
- リード
上記のように、ペットシーツといった消耗品から、子犬の成長にあわせたおもちゃやペット用の服なども合わせると、さらに月額で2千円程度の費用がかかります。
金額は選ぶ物や量によって調整することができるため、あくまでも費用の目安として考えてください。一方で、子犬の医療費やフィラリア、狂犬病予防といったワクチン接種の費用は、盲導犬協会の負担となり無料になります。
このように、パピーウォーカーになると費用がかかることもあります。しかし、子犬を預かることでかかる費用以上に、パピーウォーカーになることで得られる経験は、何にも変えられない尊い経験の一つになるということを覚えておきましょう。
パピーウォーカーのここが大変!
家族全員が協力しなければいけない
子犬が正しいマナーを身につけるようしつけるためには、家族全員の協力と理解が必要不可欠です。しつけの際には、家族で終始一貫した態度を繰り返し、愛情を持って犬と健全な関係を築きましょう。
また、小さな子どもがいる家庭や高齢者がいる家庭では、しつけにかかる負担の大きさや犬の飛びつきといった事故など、安全面を一緒に考えなければいけません。パピーウォーカーは、飼い主としてではなく「盲導犬の候補生の子犬を育てる」という役割を持ったボランティアであるということを意識することが大切です。
別れが辛い
パピーウォーカーは、子犬を引き取ってから犬を返すまでの期間にたくさんの愛情を注いで育てます。そのため、可愛い盛りの子犬と別れるときには非常に辛い気持ちになるという方が多いです。
しかし、健康面もしくは性格面などから、盲導犬にならない方が向いていると判断された犬は、キャリアチェンジ犬として一般の家庭にペットとして迎え入れてもらうこともあります。このように、育てた犬が盲導犬になれないというケースに当てはまる場合には、パピーウォーカーの家で引き取りが可能になります。
パピーウォーカーの募集情報
パピーウォーカーの募集は、地域ごとに協会が異なります。
- 公益財団法人「日本盲導犬協会」(神奈川訓練センター東京事務所埼玉県)
- 公益財団法人「関西盲導犬協会」(京都府大阪府北部兵庫県東部亀岡市)
- 公益財団法人「東日本盲導犬協会」(栃木県)
- 公益財団法人アイメイト協会(東京都練馬区)
- 千葉介助犬協会(千葉県)
上記のように、地域ごとにさまざまな協会でパピーウォーカーのボランティアを募集しています。しかし、パピーウォーカーの募集が多い地域などでは委託待ちのところもあり、常に募集があるというわけではありません。
一方で、パピーウォーカーが不足している地域では、申し込んだらすぐに直ぐに子犬がやってくるところもあります。詳しい情報は募集の時期で異なるので事前に地域の協会に確認しましょう。
まとめ
パピーウォーカーは、盲導犬の候補である子犬を育てるという、社会的にも非常に重要なボランティアです。飼い主さんとペットのような関係性とは違い、責任を持って子犬を育てることができなければ務めるのは難しいという一面があります。
しかし、犬が好きであり、盲導犬候補の子犬を育て社会的に役に立ちたいという方にはぜひ挑戦してほしいです。そして、パピーウォーカーとして子犬を迎え入れたときは、子犬にたっぷりの愛情を注ぎ、人間が大好きな犬になってもらいましょう。
ユーザーのコメント
30代 女性 なーこ
驚いたのが、フードなどがこちら側の負担である事。子犬の生活に関わる全てを負担してくれるものだと思っていたのですが違うのですね。そして、ボール遊びが厳禁だというのも意外でした。誤って飲み込んじゃう子がいるからでしょうか。
奉仕のためとはいえ、元気がありあまってる子犬だから家まで破壊される恐れ(笑)があるパピーウォーカー。もし迎えるとしたら、色々な覚悟も必要かもしれませんね。
ずっと一緒に居た分巣立ちの時の別れが辛いけど、自分の元を離れて誰かのためにがんばってるんだと思うとやりがいのあるボランティアだと思います!
20代 女性 なっちゃん
でもボール遊びできない、おやつもあげれない…なんか寂しい気もしますが将来このわんちゃんが人を助けてくれるようになるためのお約束ですもんね!仕方ないのかもしれませんね!預かるのであれば、やっぱりお別れのことも考えなくてはならないですね。
とんでもなく寂しいと思うので、覚悟の上でボランティアはしなくてはなりません…
30代 女性 バッハママ
たった1年ですが生半可な気持ちで引き受けることはできないし、お別れの日がくるなんて、寂しすぎます。
でも、読み進むうちに何かお手伝いができないかと思うようになりました。第一に犬の幸せを考えることが大切だと感じました。
20代 女性 yummy
そして引退した犬も余生を幸せに過ごすことが出来ないと困ります。
はじめて知った情報が多かったので、とても勉強になりました。犬と生きていくということに、このような関わり方もあるんだな、と。
盲導犬などの介助犬に関しては、反対する人も中にはいるようですが、この記事を読む限り、育ての親が太鼓判を押すような働きっぷり、自信を持って幸せそうに仕事を遂行している光景からは犬の悲壮感などはみじんも感じられません。犬たちも天職とばかりに仕事に邁進しているのかもしれませんね。
女性 モエナ
20代 女性 てとめる