私は動物看護師として働いており、家では猫を飼っています。
動物病院によって多少異なりますが、一般的にペットにかかる医療費は病気やケガなどによって高額になってしまいます。
およそ犬1匹に対して生涯かかる費用は200万円程ともいわれています。
しかし、犬や猫の寿命が伸びていることもあり、さらに費用がかかってきます。
そのため医療費も含めた治療内容の相談も多く、動物病院では患者さんご家族と一緒に考えながら治療プランを決めています。
しかしその一方で、医療費の支払いを拒否されたり、クレームになるケースも少なくありません。
今回は、実際に医療費の支払いを滞納した飼い主さんとパグについて書きたいと思います。
重度の膀胱結石のパグ
ある日、私が働いている動物病院に年齢が10才以上のパグを飼っている飼い主さんから電話がかかってきました。
「ここ最近オシッコの色が赤くて出が悪い気がするのよ、このまま様子みてもいいかしら?」
伺った内容を獣医師に伝えると、泌尿器系の病気の可能性があるため様子みることは危険性が高いので受診するように、とのことでした。
すぐにそれを飼い主さんに説明すると
「そうなんですね…ちょっと考えてみますわ」
というお返事でした。
飼い主さんの返答にやや不安感がありましたが、程なくして血尿や頻尿などの症状が続いているとのことで来院してくれました。
診察が始まり、レントゲン検査とエコー検査を実施したところ、膀胱内に結石がみられ、「膀胱結石」と診断されました。
また結石が多数あると思われ、血液検査では炎症反応が強く出ていました。
しかしこのままでは結石によって尿が全く出なくなり、最悪命を落とす危険性が非常に高いです。
そのため、結石を取り出す手術をする必要性があることを、獣医師とともに飼い主さんに検査結果を見せながら説明をしました。
「え、そんなにひどいんですか…?でも手術費用高いですよね…?」
思っていた以上の状況に、飼い主さんはさすがに落ち込んでいたようでした。
しかし、手術に対してはおおよその費用を確認しても悩んでしまうばかり。結局、手術の同意を得ることはできないまま帰宅されてしまいました。
けれどもご帰宅から1時間後、飼い主さんから電話があり、やっと決心したようで「手術をお願いしたい」とのことでした。
そのため再度来院していただき、手術内容や費用などの説明をし、無事に承諾を得たため、その日の夜にパグの膀胱結石摘出手術をおこないました。
放置し過ぎた挙句、大量の結石と炎症により歪になってしまった膀胱
手術が始まり、実際に膀胱を開けてみてみると、数えきれない程の結石が大量に出てきました。
また膀胱自体も粘膜が赤くただれており、異常なくらい歪な形にまで変形していました。
それまで何回か膀胱結石の手術や症例をみてきましたが、ここまでひどい状態なのは初めてでした。
年齢も10才以上と決して若くないため、麻酔のリスクも含めて耐えられるかどうか不安でしたが、大きなダメージを抱えながらも手術を頑張って乗り越えてくれました。
また膀胱内の炎症がかなり酷かったこともあり、術後も不安な気持ちでしたがしばらくして良好な様子がみられたため、後日飼い主さんにお迎えに来ていただくように伝えました。
「うわ…そんなに石があったんですか……?全然気づかなかった…」
実際に摘出した結石を飼い主さんに見せましたが、どこか他人事のような様子でした。
当初から多少疑問を抱いてはいましたが、本当に愛犬のことをみているのか、しっかり飼育しているのかと感じてしまいました。
そして改めて獣医師が手術時の経緯や注意点、今後の通院の必要性を説明をしたあと、飼い主さんから衝撃な発言をされました。
「あの〜お金なんですけど、今全然なくて、来週になれば給料日だからそれまで待ってもらってもいいですか?」
事前に費用について説明した時になぜ言わなかったのでしょうか。
悪気なく平然とした飼い主さんの態度はあまりにもひどく、私は言葉を失いました。
獣医師とともに説得を試みましたが「無理」「お金ない」「払えない」の一点張り。
泣く泣く1週間後に支払う約束をし、その日のうちにパグは飼い主さんの元へと帰りました。
未払いのまま逃げた飼い主、連絡すらも完全無視
しかし約束の1週間後、パグの飼い主さんは病院に来ませんでした。
また連絡すらなかったため、こちらから電話をかけてみましたが、電話に出ないどころか折り返しの電話すらもありませんでした。
獣医師と相談をし、結局合計3回飼い主さんに電話をかけてみましたが、出ませんでした。
その後飼い主さん宛に2回督促状を郵送しましたが、数年経った今現在でも支払いはなく、連絡も一切きてもいません。
もしかしたら、そもそも最初から支払う気すらなかったかもしれないとも思えてしまうような、その悪質な態度にとてもショックを受けました。
愛犬のことを全くみてもいなかったあの飼い主さんにちゃんと愛情もらっているのかな、今でも元気にしているのかな、と不安な気持ちになります。
まとめ
最近ではペットの保険会社に加入している飼い主さんもいらっしゃいますが、やはりペットの医療にかかる費用は決して安くはありません。
さらに年々長生きするようになった背面、介護費用や病気などによる治療費用もかかってきます。
それぞれ動物病院の方針にもよりますが、費用が高額で支払いが難しい場合には分割払いにするなど、一度相談してみると意外と対応してもらえたりする場合も。
まずは今回のように悪質な手口で金銭トラブルをおこさないように、ペットにかかる費用についてしっかりと考えていただけたらと思います。
また今回お話したパグはかなり長い間放置されて酷い状態で来院してきました。
予防関連はもちろんのこと、適切に飼育して愛情注いであげることが飼い主としての義務、そして責任でもあります。
じゅうぶん長生きして寿命を全うする犬もいれば、飼い主のせいで短命で亡くなる犬も残念ながら少なくありません。
愛犬と出会って生活をともにしている以上、改めて飼い主としての自覚をもってほしいと思います。