インドの野良犬研究と家畜化のスタートについての考察
犬の家畜化についてはいくつかの説がありますが、その発端は野生のイヌ科動物が食べ物を求めて人間に近づいたことだというのは、ほぼ定説となっています。
その説に新しい視点を提供する研究結果が、インドはコルカタのインド科学教育研究所の研究チームによって発表されました。
同研究所は過去10年以上にわたってインドの路上で暮らしている犬たちの行動生態を研究しています。研究チームが過去6ヶ月間に新しく行った調査の結果が、犬の家畜化について違う視点での考察を提供するかもしれないということです。
人間と信頼関係を築いた野良犬
今回の調査を行った研究チームは、以前に野良犬と指差しジェスチャーについての調査結果を発表しています。
人間から訓練を受けたことのない野良犬の80%が指差しジェスチャーを理解したことから、犬は人間のジェスチャーへの理解を生得的に持っている可能性を示すというものでした。
「訓練を受けていない野良犬も人間のジェスチャーを理解するという研究結果」
https://wanchan.jp/column/detail/19161
今回の新しい調査は4ヶ所の地域で80頭の野良犬を対象にして行われました。犬たちのうち半分には1日1回短い時間ですが身体を撫でることを3日間続けました。そうして全ての犬に2回の指差しジェスチャーを行いました。
1回目は指差した器に食べ物が入っていて犬は報酬にありつくことができました。2回目は器に食べ物が入っていないフェイクの指差しジェスチャーでした。
事前の触れ合いがなかった犬たちはフェイクのジェスチャーを見破って2回目は指差された方向に行きませんでした。一方、身体を撫でられた犬たちはフェイクのジェスチャーでも人間を信頼して指差された方に行きました。
研究者はこれについて適応行動として理に適っていると説明します。食べ物で誘惑して犬を傷つける者はいるけれど、信頼関係を築いた相手は食べ物がなくても犬を傷つけることはないというものです。
犬たちは信頼の手がかりとして優しく撫でられたことに適応したと考えられます
家畜化初期の犬たちが人間のもとに留まった理由
この調査結果を受けて、犬の家畜化は野生動物が食べ物に近付いて来たという一方的なものだけでなく、愛情を示した人間側からの働きかけもあってのことではないかと考察されています。
食べ物を得て去っていくのではなく、人間の居住地に留まることで家畜となった土台には、愛情を示したことで信頼関係が築かれたからではないかと考えられます。
短期間の触れ合いの後に人間への信頼を示したインドの野良犬の話も心温まるものですが、その関係は何万年も前のイヌ科動物と人間の姿から繰り返されて来た可能性があると思うと、さらに胸が熱くなる思いです。
この点について研究者の1人は「彼らは食べ物を求めてやって来たけれど、愛情を求めてそこに留まりました」と述べています。素敵ですね。
まとめ
短期間であっても人間から優しい触れ合いを与えられた野良犬はその人に対して愛着と信頼を示したという調査結果と、犬の家畜化の初期にも同様のことがあって野生動物が人間のもとに留まって家畜化したのではないかという考察をご紹介しました。
インドの野良犬は人間から残飯などをもらって良好な関係を築いている場合が多く、彼らの研究は「人間と共存する犬という生き物」の原点を見せてもらえるような気がします。