皆さんは輸血提供犬という言葉を聞いたことがありますか?
各病院に必ずいるわけではありませんが、大きな病院では飼育をしつつ何かの際には血液を提供してもらう犬がいます。
今回は、私が動物病院勤務の際にみてきた輸血提供犬について、書いていきたいと思います。
輸血提供犬とは
動物病院で治療中や手術の際、また交通事故などで輸血が必要!となった場合に出番となるのが血液を提供してくれる犬になります。
実は、この輸血提供犬は大きな動物病院では、病院で飼われている場合も多く、様々な症例に対応できるように、大型犬を数匹飼っているところもあります。
どのような暮らしをしているか
私が勤務していた動物病院には、実は8匹、猫は20匹いました。在院の犬はすべて大型犬ですが、いくら大きな犬といってもいっぺんに大量に採血すれば命にかかわるため、たくさんの大型犬が必要なのです。
犬8匹がどのような暮らしをしていたかというと、病院の空き犬舎に入っている状態でした。ゴールデンレトリバー、ラブラドールレトリバーなど大きな犬ばかりで、8匹の世話はもちろん動物看護士の仕事です。
大きな犬舎の中に基本はそのまま入りっぱなしの状態で生活をしており、散歩に連れていくこともできません(感染症の危険性から散歩も禁止されていました)。
してあげられることと言えば、犬舎から出して掃除をする際に院内の部屋の中で遊ばせてあげることぐらいでした。
「体力が有り余っている若い大型犬を充分に遊ばせてあげることができない」、そんなストレスを看護師たちは抱えていました。
犬舎の中で糞尿をした場合、看護師の姿をみて喜びすぎて犬舎の中が糞尿まみれで、その掃除に追われることもたびたびでした。
輸血後の体調不良
ある日、ゴールデンレトリバーが運ばれてきました。交通事故に遭い出血が多く輸血が必要になりました。その時に血液を提供してくれたのは、7歳になるゴールデンレトリバーのリキ。
その日は採血のあとリキの調子が悪く、院内は急患の手術後、リキの看護もICUにて同時進行となりました。
その様子を、ICUで自分のゴールデンの術後の様子を見ていた飼い主さんは「この子は何の病気なのか」と聞いてきました。
いつもは「この子から採血して輸血しました」などの情報はお伝えしませんが、担当看護師はその飼い主さんに輸血提供犬のことを話してしまったのです。
輸血提供犬を引き取りたい
輸血提供犬のリキはずっと病院での生活を送ってきた犬です。
年齢が高くなり体力的なことも考えて輸血提供はもう最後にしよう、という話が出ていました。そうなると病院側も引き取り手を探さなければいけません。
対応していた看護師はベテランで、リキの体力の限界を感じとても心が締め付けられる思いで、飼い主さんに言ってはいけないことを言ってしまったのです。
しかしその結果、飼い主さんから「この子を引き取らせてほしい」という意外な申し出が後日あったのです。
幸せな余生
飼い主さんは輸血します、と聞いたとき「その血はどこから?」と素直に思ったそうです。提供する犬がいるという話を少しだけ知っていたそうで、ぐったりしているリキをみて「もしかして?」と思ったとのこと。
自分の犬のために血を分けてくれた犬がいる、家族に話して、看護師さんから聞いた引退の話も考慮し「私たちがリキの余生を幸せなものにします」と約束してくれたのです。
看護師も獣医師も、それまで何年も輸血のたびに犬たちの今後を考えていました。
「引退したら絶対に幸せになってほしい、でも引き取り手はあるのか?」と、不安になりながらもその現状を受け入れなければならないジレンマを抱えていたため、申し出が嬉しくて院長も快諾しました。
引き取られたリキは、その後回復した犬とともに毎年健康診断に訪れ、元気な姿を見せてくれていました。幸せな余生を送ることができて本当に良かったです。
まとめ
今回の輸血提供犬のリキは確かに余生を幸せに過ごすことができましたが、ほぼ7年院内の狭い犬舎の中で過ごしていた事実は変わりません。
しかし、このように少しでも輸血提供犬の存在を知っている人がいたことで、余生だけでも幸せにと賛同してくれて引き取ってくださったことは本当に素晴らしいことだな、と思います。
この記事を通して、輸血提供犬の存在を心の片隅においていただき、もしご自身の周りでなにかできることがあれば、是非行動に移していただきたいのです。
例えば、輸血バンクのようなものもあります。ご自身の犬猫がもし健康であればそのようなところで血液を提供していただくこともできます。この記事をきっかけにして動物医療に関して考えてみていただければ幸いです。