私は、14年間とある動物病院で動物看護士として働いてました。14年ものあいだ看護師をしていれば、様々な病気や事故で病院に来られるワンちゃん、飼い主さんとお会いします。
ほとんどの飼い主さんは、「家族」である犬に愛情をタップリと注いでいます。もちろん、体調管理にも気をつけていらっしゃいます。
しかし中には、「どうしてそんなひどい仕打ちができるのか?」といった、愛情のかけらすらも感じられない身勝手な飼い主さんがいることも確かです。今回は、そんな「ありえない」と思った飼い主さんのことをお話したいと思います。
高齢犬タロ、下痢・嘔吐に苦しみ耐える
ある高齢の雑種犬タロ(仮)は、病院に来る約10日も前から下痢・嘔吐の症状に苦しんでいました。きっとお腹も痛く気分も悪かったと思います。
愛犬が苦しんでいるのを分かっていて飼い主さんはそれを放置していたのでしょう。しかし下痢や嘔吐の処理に耐えきれなくなたため、「仕方なく」という感じで病院に連れてこられました。
開口一番「どうにかして。匂いに耐えきれないわ!」と、とても「家族」とは思えない言動です。
タロちゃんは、ぐったりしています。普通なら匂いよりもこのぐったりした状況を早く診てほしいというはずです。
先生は、診察してすぐに「なんでもっと早く連れてきてあげなかったのですか?」と問いました。
ですが飼い主さんは、「昔は私の言う事を聞いて可愛かったけど、今は全くいう事も聞かないし、おしっこ漏らすわ下痢するわ可愛くないわ」と、心配どころか愚痴をこぼす始末。
私は看護士ですが、ただただ「何てひどい事を言うのだろう」と心の中で思う事のみ。私にできることといえば、タロちゃんを優しくなでること、血液検査をすばやく回す事だけでした。
検査開始
急いで結果を記入し、先生に報告。先生は「やばいな」と一言…。
その後、レントゲンと超音波検査を行いましたが、タロちゃんは呼吸も荒く横たわっている状態。そのため状況を見つつ、ゆっくり休みながらなるべく負担にならないよう検査しました。
そんな時も飼い主さんは「まだ!?時間ないんだけど」と…。愛犬を心配するどころか、飼い主として、いや人としても信じられない発言をしました。
タロちゃんは頑張ってくれて、なんとか無事検査が終了。私は状態が状態なのでサッとだけ下痢、嘔吐物を拭いて一度飼い主さんの元に連れて行きました
検査結果報告
検査の結果…、タロちゃんのお腹の中には大きな腫瘍ができている事がわかりました。腹水もたまっており、かなり状態は深刻です。
先生は「今、この状態で生きている事がすごい。一刻も早く、静脈から点滴を流してコンディションをあげて緊急手術しなければタロちゃんは助からないよ」と、飼い主さんに厳しい口調で告げました。
どんどん状態が悪くなっているタロちゃん。早く治療をしたいと思っていた私たちは、とにかく説得しましたが、飼い主さんの心には何一つ響きませんでした。先生と私は顔を見合わせて唖然としたほどです。
飼い主さんからの信じられない言葉…
1時間ほど診察室で病状の説明。緊急手術がベストですが、高齢ということもあり、手術しない場合の治療方針を何個か提案しました。
しかし、まず最初に飼い主さんが質問してきたことは「手術したら昔みたいに私の言う事聞くようになるの?」でした。
「この人は何を言ってるの?」…らちが明かないと思った私は、院長に出てきてもらい飼い主さんに説明してもらいました。しかり気持ちは変わりません。
そして最後には、自分の耳を疑うほど信じられない言葉を発しました!
どこまで身勝手な人なのでしょうか!これが犬の飼い主として許されるのでしょうか!
しかし、入院・手術を強制することができない私達は従うしかありませんでした。
せめて点滴だけでも…
担当の先生が「脱水がひどいからせめて栄養剤が入った点滴だけさせてほしい」と説得。すると、しぶしぶ納得したようで皮下点滴だけできることになりました。
私は、皮下点滴を温め、タロちゃんに皮下点滴を行いました。泣いてもタロちゃんが良くなるわけではない、意味がないことだと分かっている…。けれども自然と涙が溢れ出てしまいました。
動物看護士ですが、私は息が荒いが懸命に生きようとしているタロちゃんのそばで、ただただ泣きながら撫でる事しかできなかったのです。
悔しいです。同時に悔しがる事しかできない自分が情けなかったです!元気のない子を元気になるまでお世話するために動物看護士になったはずなのに…。
10年も動物看護士をしていても飼い主さんを説得することもできず、とにかく泣く事しかできませんでした。
最悪の結末と最低な飼い主
点滴が終わるとタロちゃんは飼い主さんと帰っていきました。
次の日、診察に来られなかったので、様子を聞こうと思って電話しました。すると「今朝、亡くなったよ。これで心おきなく旅行に行けるわ」…。
もう…怒りを通り超えて、あきれるしかありません。ただ一つ思ったのは「動物を飼う資格はこの人にはない!そして飼ってはいけない」ということです。
私は、タロちゃんの苦しそうな顔が今でも忘れられません。当時もっと何かできることがあったのではないかと、自分に問いかけています。
まとめ
最後に…。
私が動物看護士として言いたいことは、当たり前ですが「最後まで責任を持って家族として過ごしてほしい」ということ。それを全ての飼い主さんにお伝えしたいです。
現在、私にも15歳のシーズーが家族にいます。若い頃は、私にいつでもぴったりひっつき回って、どこに行くにも一緒でした。しかし高齢になってくると、色々な病気と闘う毎日を送りながら家で過ごす事が増えました。
おしっこやうんちもトイレ以外でするようになり、私に触られるのも嫌がるようになりました。若い時は噛んできませんでしたが、ちょっと嫌だと感じると噛むようにもなりました。「もう、放っておいて」という仕草にも見えます。
でも私はそれを受け入れ、なるべく愛犬がひとりで快適に過ごせるような環境づくりを心がけ、一緒に過ごしています。
犬は、いつまでも元気ではありません。人と同じで、高齢になればトイレやごはんなど様々な介護も必要になってきます。ですので、これから犬と暮らしたいという方は、高齢になった犬のお世話もできるという覚悟をもって迎え入れてください。そのうえで、ぜひ楽しい『わんだフルライフ』を過ごしていただければ幸いです。