物の名前を覚えることは、その犬の特別な才能なのか?それともトレーニングの結果なのか?【研究結果】

物の名前を覚えることは、その犬の特別な才能なのか?それともトレーニングの結果なのか?【研究結果】

犬がおもちゃの名前をいくつも覚えるという報告がいくつかありますが、その能力はその犬が特別に持つ「才能」によるものなのか「トレーニングの結果」によるものなのかを検証した研究結果が報告されました。さてどちらだったのでしょうか。

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記事の監修

東京農工大学農学部獣医学科卒業。その後、動物病院にて勤務。動物に囲まれて暮らしたい、という想いから獣医師になり、その想い通りに現在まで、5頭の犬、7匹の猫、10匹のフェレットの他、ハムスター、カメ、デグー、水生動物たちと暮らしてきました。動物を正しく飼って、動物も人もハッピーになるための力になりたいと思っています。そのために、病気になる前や問題が起こる前に出来ることとして、犬の遺伝学、行動学、シェルターメディスンに特に興味を持って勉強しています。

物の名前を覚える犬の研究

いろいろな犬のおもちゃ

ハンガリーのエトヴェシュ・ロラーンド大学の動物行動学の研究チームでは、犬の認知能力や社会的学習について多く研究していて、その一つとして、犬がおもちゃの名前を覚えて個別に認識することについての研究を継続して行っています。

こちらが同じ研究チームによる過去の研究の一部を紹介した記事です。
https://wanchan.jp/column/detail/25326

たくさんのおもちゃの名前を覚えていて他のおもちゃと区別できる犬は、メディアなどで取り上げられて話題になることがあります。

同研究チームは、物の名前を覚えることができる能力は個々の犬が特別に持っている才能によるものなのか、トレーニングをすればできる一般的なことなのかを検証するための調査と研究を行い、その結果を発表しました。

40頭の犬へトレーニングを実施

ラブラドールとオレンジ色のボール

研究には、「おもちゃの名前を認識している犬」としてSNSを通じて世界中から募集した6頭の犬(全てボーダーコリー)と、物の名前を覚えるトレーニングをしたことがない家庭犬34頭(うち18頭がボーダーコリー)が参加しました。

トレーニングをしたことがない34頭は「おもちゃへの興味がとても高いこと、おもちゃを持ってくることに対してとても意欲的であること」という条件をクリアし、おもちゃを使ったモッテコイ遊びのテストに合格して採用された犬たちです。34頭のうち19頭は平均約5歳の成犬で、15頭は平均約3ヵ月齢の子犬でした。

研究チームがオンラインで飼い主に指導をし、参加した40頭の犬全員が飼い主による2つのおもちゃの名前を覚えるためのトレーニングを受けました。トレーニングは1回5〜10分を複数回毎日行いました。飼い主が犬におもちゃを見せて、その名前を繰り返し言いながら一緒に遊ぶというものです。

犬に物の名前を覚えさせるのに、一緒に遊ぶのが効果的だというのは過去の報告でも言われています。もちろん、犬がその遊びが大好きであることが前提です。

おもちゃの名前を覚えた犬は何頭いた?

ボーダーコリーとブタのおもちゃ

トレーニングの途中と終了後に、名前を覚えるようにトレーニングしたおもちゃ1つとトレーニングしていないおもちゃを1つ、合計2つのおもちゃを別室に並べ、飼い主がおもちゃの名前を言って犬に取りに行かせる、というテストを実施しました。テストはトレーニングしたおもちゃ1つにつき6回、犬1頭につき合計12回行われました。

その結果、すでに「おもちゃの名前を認識している犬」6頭は高確率で新しく名前を覚えたおもちゃを持ってくることができ、それまで物の名前を覚えたことがない犬34頭ではその確率が約50%で、100%の確率で指示されたおもちゃを持ってくることができたある1頭を除いては、新しいおもちゃの名前を覚えてその2つのおもちゃと他のおもちゃを区別できている様子が見られなかった、ということが分かりました。

34頭のうち1頭だけ新しいおもちゃの名前を覚えられた犬もボーダーコリーで、すでに「おもちゃの名前を認識している犬」6頭と併せて7頭の犬が、1つ覚えたらまた次の新しいおもちゃの名前を覚えるという更なるトレーニングを受けました。

その結果、3ヵ月の間に最大39個ものおもちゃの名前を覚えたということです。

初めて物の名前を覚えるトレーニングを受けた犬の中で1頭だけおもちゃの名前を覚えることに成功した犬は病弱だったために、それまでおもちゃで遊んだ経験が少なかったそうですが、今回2ヶ月の間に21個のおもちゃの名前を覚えました。このことから、今後の更なる研究が必要ではありますが、過去の経験(おもちゃと遊んだことがあるかどうか、どの程度おもちゃと触れ合っているか)は物の名前を認識、記憶する能力に必須ではないと研究者らは考えているそうです。

また、この犬は成犬であった一方、研究に参加した子犬は1頭もおもちゃの名前を覚えなかったことから、一般に新しいことを教えるのに向いていると言われている子犬の時期が物の名前を覚えるのに必ずしも適しているわけではないと考えられます。もっと早い時期ではどうなのか、トレーニングにどんな工夫をしたら効果があがるのかなどについては、今後の研究が必要となります。

これらの結果から、犬が物の名前を覚える能力は、その犬が持つ特別な才能で、いくつものおもちゃの名前を覚えて指示された通りにそのおもちゃを持ってくるという行動は、犬として特別な行動であると研究者らは述べています。

今回の研究は、認知機能の特徴という観点からこのような特別な行動がなぜ見られるのかを研究するために行われましたが、犬においてもこのように認知能力に極端な個体差があることは、人間の中にも特定の分野で著しい才能を持つ者がいることについて理解する最初の糸口になることが期待できるかもしれないと研究者らは述べています。

まとめ

ディスクをくわえたボーダーコリー

犬がおもちゃの名前を覚えることは、トレーニングすればどんな犬にでもできることではなく持って生まれた特別な才能であると考えられる、という研究結果をご紹介しました。

ただし、犬と暮らす皆さんに私が知っていただきたいのは、物の名前を覚えられない犬は頭が悪いというわけではないことです。ほとんどの犬は名前と物を関連付けるのは苦手であるのが普通です(動作を表すコマンドを覚えることと物の名前を覚えることは別です)。

また犬の頭の良さにも様々な種類があります。記憶力の良い犬、訓練性能が高い犬などは一般的に「賢い」と言われることが多いです。

しかし、ある種、猟犬のように指示を待つのではなく自分で考えて動く賢さ、あるタイプの猟犬のように動くものを瞬時に見つける能力やそれを追いかけようとする意欲、本来は吠えることが仕事の一部だった犬の賢さや適性などは、家庭犬として理解されにくいどころか、家庭犬として不向きなこともあります。

今回の研究では「物の名前を覚えて他のおもちゃと区別する能力」というごく狭い範囲の能力が取り上げられています。一般的に犬の特性を考える時も「頭のいい犬種」という考え方ではなく、「人の声に注目する能力が高い」とか「作業意欲が高い」といった犬の様々な特性を理解した具体的な内容で語る人が増えていくといいなと思います。

《紹介した論文》
Fugazza, C., Dror, S., Sommese, A. et al. Word learning dogs (Canis familiaris) provide an animal model for studying exceptional performance. Sci Rep 11, 14070 (2021).
https://doi.org/10.1038/s41598-021-93581-2

《ハンガリーのエトヴェシュ・ロラーンド大学の動物行動学の研究者による、犬と人間との関係を行動学的、認知科学的に研究しているFamily Dog Projectのサイト》
https://familydogproject.elte.hu/

《Family Dog Projectが実施した、Genius dog challenge》
http://geniusdogchallenge.com
おもちゃの名前を覚えた犬が、飼い主の指示でそのおもちゃを取ってくる様子などが見られます。ここで紹介されている犬の一部は、本記事で紹介した論文にも「おもちゃの名前を認識している犬」として参加した犬たちです。

【こちらの記事も参考にしてください】
https://wanchan.jp/column/detail/26782

【紹介された論文について獣医師の補足】

 本研究者らは、犬がたくさんのおもちゃの名前を覚えること、たくさんのおもちゃの中から指示されたおもちゃを選んで持ってくることは、人間で言うとアインシュタインやモーツァルトのように、一般的ではない、いわゆる「超人」「天才」と呼ばれる人たちが持っている才能と同じように特別な才能であるとしています。最近は犬における認知科学分野の研究報告も増えているのですが、「犬が複数の物の名前を覚える」ことについての論文はこれまで4つしか報告されておらず、それらの論文を読んで「犬はみんな物の名前を覚えることができる」と思ってしまう人もいるでしょうし、「物の名前を覚える能力」は特別な犬にしかないと考える人もいるでしょう。このような状況を受けて本研究者らは、「物の名前を覚える能力があることが証明されている犬」と「今まで物の名前を覚えさせたことがない、そんなことができるかどうか分からない犬」を比較して実験を行い、トレーニングすればどんな犬でも物の名前を覚えられるわけではなく、子犬なら覚えやすいというわけでもなく、特別な犬が持っている能力だと結論付けたのです。

 実験結果は本記事で紹介されている通りですが、物の名前を覚えた犬はみんなボーダーコリーだった、ということが注目される点の一つでしょう。トレーニングをしたことのなかった34頭の中でもボーダーコリーが多かったのは、物の名前をすでに覚えているボーダーコリーの飼い主からの紹介や親戚の犬も参加していたこと、Family dog projectに参加したことがあった犬から選ばれたことが関係していると思われます。本論文中でもボーダーコリー(もしくはハーディンググループ、牧羊犬に属する犬種)が人間の動作や声による指示に従うことに特に向いている可能性は指摘されています。しかし今回の実験においても、それまで物の名前を覚えるトレーニングをしたことのなかったボーダーコリーが18頭いた内、おもちゃの名前を覚えられたのは1頭だけであり、ボーダーコリーならみんな物の名前を覚えるのが得意とも言えません。また過去に報告された論文では、物の名前を覚えたヨークシャーテリアも報告されています。

獣医師:木下明紀子
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ユーザーのコメント

  • 投稿者

    50代以上 女性 せっちゃん

    2才5ヶ月の雄のロングコートチワワを飼ってますが、オモチャはもとより、物の名前を憶えるのが得意です。
    いつもやっている骨?の形をしたガムも3種類近い分けていますが、「骨っこ」「ボーン」「ポキ」のどれかを「持っておいで。」と命令すると、間違わずにその中の一つを咥えてきます。人の名前も憶えていて、「今日、〇〇ちゃんに会いに行くよ。」と色々な名前を言ってみて、好きな人の名前が出ると、目を輝かせて尻尾を振ります。
    子犬の頃から、普段でも、その物や人自体と名前とを、分かりやすいように関連付けて言って聞かせていたので、その成果が出たのだと思います。
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