引きこもりだった中学1年生の夏
当時13歳だった私は、いじめが原因で不登校でした。なんとなく家族ともギクシャク。庭で飼っていた、今はもう亡きラブ(雑種犬)と戯れる日々を送っていました。
ですが季節は夏、そして老犬ということもあって遊べる時間は限られており、毎日が退屈で仕方がありませんでした。
キッカケ
そんなある日のこと。老朽化と客の減少により地元で唯一ペットショップがテナントで入っているデパートが、あと残り一ヵ月で
閉店してしまうことを母から聞いた私。
いつもなら同級生と遭遇するのを恐れ家族との外食さえも拒んでいた私ですが、なぜかその時は外出したい欲が抑えられず、久しぶりに自らの意思で外へ出向いたのです。
出会い
ペットショップに入店してみると閉店間近で他の店舗へ移動した子が多いのか、売られている犬猫の数は少なく、昼間にも
関わらず店員さんは1人しかいませんでした。そんな閑散としている店内をぐるりと1周していると、ある1匹の犬と目が合いました。
それが、今私が飼っている10歳の音次郎です。
犬種は、パグとシーズーのミックス。生体価格はまさかの5000円でした。当時中学生の私でも違和感を覚えたその安すぎる値段。思わず店員さんに理由を尋ねてみました。
先天性の重度のアトピー性皮膚炎と、足のヘルニアが原因で販売扱いではなく保護犬扱いになったとのことでした。
つい1ヵ月前まで治療のためバックヤードにずっといた影響で、子犬特有の可愛らしい時期を逃してしまい(この時すでに生後7ヵ月、それら全てが初めて犬を飼う人にとってはリスクが大きすぎるとの判断のようです。
もし閉店までに飼い主が見つからなかったら…店員さんのなんとも言えない表情で、この子の行く末は容易に想像できました。自分の寿命が刻々と近づいてることなど知る由もない音次郎は、私がゲージ越しに手を近付けると無邪気に尻尾を振り、手をペロペロとなめてきました。
「こんなに人懐っこくて可愛いのに…」これが、私と音次郎の出会いでした。
説得
家に帰ったあとも、考えることといえば、私のところへニコニコしながらじゃれてきてくれた音次郎のことばかり。
ここだけの話、実は私自身も先天性のアトピー性皮膚炎を患っていました。それが理由で、あのような扱いをされているのがどうしても納得できなかったのです。
けれど、室内犬を飼った経験もなく、尚且つ10歳の先住犬もいる環境。ごく普通のおねだりでは絶対に両親から音次郎を迎えることを反対されると思った私は、あることを条件に、音次郎を我が家に迎えることができたのでした。
引きこもりだった私を変えてくれた存在
我が家へようこそ
「あの子を飼ってくれたら学校に行く!」今考えると、ものすごく無謀なお願いですが、小学校時代まで明るく活発な性格で学校が大好きだった私の姿をもう1度見たいとずっと思っていた両親は、その私のむちゃくちゃなおねだりを快く受け入れてくれたのです。
実際、中学2年生になってからは毎日学校に行けるようになり、卒業式も皆と一緒に参加することができました。
その仲は人種さえも超える
母いわく私の弟ということで、私の本名から“音”という文字を譲り受け、名前は『音次郎』と名付けられました。
末っ子だった私にとって音次郎は、本当に弟そのものでした。
ゲージは、私の部屋に。寝るときも、私と同じベットで。トイレやお風呂に行くときさえも、私の後ろをトコトコと着いてくる音次郎。
かという私もほんの短時間出かけているだけでも「きっと私の帰りを待っているだろうな」という思いで、すぐに家に帰ったり
果物を食べていれば音次郎に分け与えたりと自他ともに認めるほど相思相愛の仲でした。
あれから…
いじめを乗り越え
その後、私は無事に中学、高校、大学と無事に卒業することができました。就職のため現在は地元を離れ、一人暮らしをしています。もちろん、音次郎も一緒に。
私の彼にもベッタリと懐いていて今は仲良く3人で暮らしています。
最近では、小さな妹が増え3匹で楽しく遊んでいる姿を見るのが私のなによりの幸せです。
たまに2匹からおやじ狩りのごとく追っかけられていますが...。
こちらが妹の『殿子』です。
こちらがもう一匹の妹の『悦子』です。
持病について
先天性のアトピー性皮膚炎と足のヘルニアは、子犬の頃と比べかなり改善はされましたが現時点でも完治はしておりません。
市販のシャンプーはもちろん、トリミングサロンのシャンプーさえ荒れてしまうほど繊細ではありますが、シーズー特有の長くて綺麗な毛がきちんと生えてくるまでになりました。
後ろ足を引きずるように歩く影響で、ドッグランなどの大きな場所には危ないので連れて行けません。ですが、こちらが名前を呼べば、ゆっくりではありますがトコトコと笑顔で歩いてこれます。
それで十分なのです。それだけで、いいのです。生きているだけで、素晴らしい。人間だって、そうであるように犬だって同じではないですか?持病が何個あろうが、重度であろうが、そんなの関係ないと私は思っています。
伝えたいこと
皆さんは、犬が好きですか?私は、大大大好きです。3歳の頃から現在にかけて、ずっと耐えることなく犬を飼っている私。その経験を通して分かったことがひとつあります。
それは、犬は遺伝子レベルで人間のことが大好きということ。犬は古来から、人間と共に生活してきた動物なので、本来ならば
本能的に人間のことは嫌わない生き物です。
すなわち、攻撃的だったり臆病だったり、人間に対して、拒絶反応を示す犬は過去に人間に酷い扱いを受けた子が圧倒的に多いと思います。保健所やペットショップにいる保護犬は、そういった理由がほとんどです。
人間不信になっている分、慣れるまでは大変だと思いますがあなたの気持ちや想いはきっといつかその子の元へ届きます。人間の勝手な都合で刻々と寿命が近づいてきている、かつての音次郎のような犬が1匹でも多く救われますようにと私は願っております。