高齢夫婦に見放された犬が看板犬に
相談
2020年9月、センター経由の市民相談が愛護団体の私の元に入りました。
高齢夫婦が引っ越し先でご近所に挨拶回りをしていたら、お向かいの家の人が大の犬嫌いで「犬が吠えたら怒鳴り込むからな!」と言われ、恐いので愛犬を手放したいとのことでした。
それで私はご夫婦の新居にいる犬に会いに行きました。
犬は吠えまくりましたが、ご近所さんから罵声が飛んでくることも怒鳴り込まれることありませんでした。
それでも手放したいと言うのなら犬のためにも引き取るべきだと思い、引継ぎ先を探しました。
なぜなら犬はまだ若く、高齢者夫婦がこのまま飼育しても終生飼育ができるとは到底思えなかったからです。高齢犬になってから手放されるよりも早いうちに新しい道を見つけてあげる方が犬にとってもいいと、常に犬目線で相談にのっている私は考えたのです。
医療もかけずお散歩もままならず、しつけも叩いてしているようなご夫婦でした。このような状態ならなぜ、高齢になってから仔犬を買ってしまったのか?一時的な衝動でしかなかったのだと思います。
威嚇
飼主ご夫婦と一緒にいた時の犬と、知らない私達だけになった時の犬の様子が明らかに違いました。激しい唸り、吼え、威嚇、手を出せば牙をむき咬もうとしました。あまりに激しく威嚇され、これは危険レベルだと思い、飼い主夫婦に電話しました。
飼い主さんは「咬んだことはない」と言っていましたが、実際には激しく威嚇があるのです。
咬む犬の引き取りは無理だと説明すると「なら保健所に連れて行ってくれ!」と言われました。
こんなに威嚇がある子を保健所に連れていったら、間違いなく殺処分になりますよと伝えても
「仕方ない!」
この犬が、飼い主夫婦に見放された瞬間でした。
実は飼い主さんのいる場所で会うのと、飼い主さんなしで会うのとでは、全く変貌する犬は珍しくないのです。
引継ぎ
それでも福岡の『チームSAKURA』の『りなママ』が引き継いでくれることになりました。
りなママはミニピン系を得意とされている方でした。犬種によって犬の特性が違ってきます。その犬種を熟知する方が保護されるのが一番いいと考え、お声をかけさせていただきました。
りなママは、激しく威嚇する犬を見て「ああ、このくらいなら大丈夫ですよ!」と余裕の笑顔で言ってくれました。
その瞬間、私達は胸を撫でおろしました!
こんなに威嚇が激しい犬ですから、もし引継ぎを断られたら、もう死ぬ気で保護するしかないと諦めていたのです。飼い主さんに、不要犬として保健所に連れて行かれれば間違いなく殺処分ですから。
ほのか
引き継いだのは昨年の稲刈りの時期。稲穂の香りが漂っていたことから、りなママが「ほのか(穂の香)」と仮名をつけてくれました。
最初の日は、知らない人たちから知らない場所に移動させられ興奮状態だったものの、翌日は落ち着き、他の犬達とも仲良くでき、りなママも撫でることができたそうです。
訓練
その後、りなママはほのかのお散歩訓練などを始めてくれました。
前の飼い主である高齢夫婦はしつけなどをした様子はなく、吠えると叩く様子も見られました。
お散歩も行っているとは言っていましたが、実際はリードの引きがとても強く、その状態で高齢者夫婦がお散歩できていたとは到底考えらないそうです。
でもりなママがちょっとリードショックをくわえただけで、すぐに改善されたとのこと。ほのかは、実はとてもかしこくて良い子だったことが判りました。
お見合い
しばらくして譲渡会にも何度か参加しましたが、中々良いお話はなかったようです。
そんな12月のある日のこと、里親募集サイト『ペットのおうち』から信じられないようなお話が持ち上がりました。
ほのかにお見合いの希望者が出たのです!
キャリー越しに対面するとやはりすごく吠えて警戒したそうですが、しばらくしたら落ち着いて甘えてきたそうです。
その結果、トライアルをされることになったそうです。
そこは一般家庭ではありませんでした。
トライアル
なんと山口県下関市出身のほのかのトライアル先は長崎県にある施設でした。そこの入所者さんと一緒に暮らすことになります。
そう!なんとあのほのかが『施設の看板犬』としてトライアルし始めたのです!
正式譲渡
2021年1月、ほのかの正式譲渡が決まりました!
ほのかは正式に、障がい者グループホーム『わおん長崎』の子になりました。
それは高齢の飼い主夫婦に見放され、保健所で殺処分される寸前だった運命からの大抜擢でした!本当に奇跡的な展開となりました!
わおん長崎
『共に生きる』こと
わおん では、動物を『飼う』のではなく『共に生きる』ことを大切にしています。
障がいや病気があっても当たり前に動物と暮らせる地域社会を実現していきます。
ここが下関の高齢者夫婦から見放された“威嚇大ありのピンシャー”の新しいおうちです。
これは、まさに大どんでん返しではないですか?
わおん長崎様からは下記のメッセージを頂きました。
ほのかちゃんを通じて、また素敵なご縁ができたことに感謝致します。こちらでは「哪吒様」(ナタサマ)と改名させていただき、スタッフの1人として入居者さんと過ごしてもらってます。哪吒は中国の神様です。神様なので、哪吒ではなく哪吒様としました。
最後に
ペットショップで高齢者が衝動買いで仔犬を買う事例が増えています。でも年と共に犬のお世話が難しくなったり、飼い主さんが施設入院したり他界したりで、センターに高齢者が飼育できなくなった小型犬が収容されるケースが大変増えています。
小型犬は長生きすれば20年近くも寿命があります。
60歳で仔犬を購入した場合、飼い主さんは80歳になります。70歳では90歳になります。80歳では100歳になります。
残念ながらペットショップでは売れればいいわけで、飼い主さんの年齢など気にしてはくれません。動物愛護団体とは違い、その犬の終生飼育など関係ないのです。彼らにとっては命ではなく商品なのです。
飼えなくなったからと購入先に相談しても、その多くが無視されます。購入時の相談は乗ってくれますが、売却後のアフターケアーはありません。よく見て下さい!たぶんどのお店でも「生体販売後の返品は不可」とあります。
人生まじめに生きて来たのに最後に罪なき小さな命に辛い思いをさせないように、冷静になっていただけることを心から願います。
※この記事の引用、写真及びリンク先の掲載に関しては、りなママ様及びわおん長崎様、そして当団体ディ・アンクに承諾を得て行っています。
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ユーザーのコメント
50代以上 男性 人面獣心人外の化身
全部ただ犬ばかりです。
犬自体に莫大な金がかかるのに、その本体に金を出して買うという無駄な発想がおきません。
いくらでもただ犬がいるのに金を出して買うという発想が私の中ではおきないのです。
たぶん、特定の犬種へのこだわりがないからこういう発想になるんでしょうね。
犬種へのこだわりがあればたぶん金出して買うのにも抵抗なかったんでしょうけど。
50代以上 女性 犬好きおばさん
女性 さくらまい
更にほのかちゃんは、最初こそ威嚇ありましたが、実際はとても人懐っこい子です。
今はみんなになついて可愛がられています。
譲渡したりなママはセラピードッグを育成されている方です。
ほのかちゃんにとってこの場所が適切なのかちゃんと考えられてから譲渡されています。
何よりもりなママはほのかちゃんのことを良く理解されており、また譲渡先にもいかれていますので、その目で確認されています。ご心配には及びません。