ドッグトレーニングは学問の集大成
犬と暮らしている人がドッグトレーニングという言葉を聞いたときに思い浮かべるイメージはそれぞれに本当に大きな幅があり、その具体的な方法も千差万別です。
しかし近年は動物行動学や行動分析学、比較心理学、さらには脳科学や遺伝子学にも犬の研究が大きく深く広がり、様々な科学的な裏付けのあるトレーニング方法が開発されています。
このような学問の集大成とも言えるドッグトレーニングは効率が良いだけでなく、犬への負担が少なく安全で、犬と人間の良い関係のベースにもなるものです。
科学だとか学問だとか言うと取っつきにくい印象を持たれるかもしれませんが、ドッグトレーニングの目標とベースになるのは「犬も人も幸せに」と言うことです。
そんな今時のドッグトレーニングはどのような流れになっているのか、3つの傾向をご紹介していきます。
傾向1 犬が嫌がることでもストレスを与えずに少しずつ慣らしていく
これはハズバンダリートレーニングと呼ばれ、動物園の動物などでかなり浸透しているトレーニングの範疇に入ります。husbandryというのは「畜産の」という意味がありますが「丁寧に、大切に扱う」というニュアンスが含まれ、ハズバンダリートレーニングとは、家畜や動物園などの動物の診察やケアのために必要なこと(採血するために腕を前に伸ばすとか、口の中を観察するために口を大きく開けておくなど)を、動物に不快感を感じさせたり強制したりしないで訓練する方法として開発されたものです。たくさんのスモールステップをふみながら食べ物のごほうびを使って目的とする動きをできるようにさせるのが、主な方法になります。犬や猫などのペットにおいては、ロー・ストレス・ハンドリングと呼ばれているものの一つになります。ロー・ストレス・ハンドリングとは文字通り「ストレスの少ない扱い方」ということで、犬や猫などの動物を扱う人(例えば獣医師や動物看護師)側の問題であると同時に、扱われる動物側の問題でもあるのです。
爪を切る、歯を磨くなど犬にとって嫌なことは、いきなり強制するのではなく、少しずつスモールステップで慣らしていきます。そのような処置や診察台で体の色々な場所を触られることなどに普段から慣らしておく、さらには「これをやるとごほうびがもらえる!」と楽しいことにしておくことで、動物のストレスを少なくしてあげることができるのです。
方法としては、例えば爪切りなら、最初は爪切りを目の前において見せて何もしないで、トリーツを与える。その後少しずつ爪切りで足に軽くタッチ、爪にタッチなど慣らして行き、最終的に犬が怖がらずに爪切りで爪を切らせてくれるところまでを少しずつ段階を追って進めていきます(トリーツだけではなくクリッカーを用いたトレーニングを行う場合もあります)
目薬や耳の薬を投与する必要がない時でも普段から人間の両足の間に立つように訓練する、身体中のあらゆるところを触ることを受け入れるなども、普段から段階を追って少しずつ訓練しておきます。
このようなことを訓練しておく時のポイントは、犬が処置や投薬などのケアを実際に必要とする状況になる前に、万が一の処置のために必要な姿勢や我慢を犬がストレスなく受け入れられるように、できるだけ早い時期に普段からのトレーニングを始めておくことです。
傾向2 犬に自分で選ばせる
上記のハズバンダリートレーニングなど犬の協力や我慢が必要な場面で、犬が「これ以上は嫌だ」「それはしたくない」という意思表示をした時に使うトレーニング方法です。
何かを嫌がって犬が抵抗した時に犬に罰を与えない、または押さえつけたり引っ張ったりして強制しないというのは既に一般的になっています。
近年のさらに新しい考え方では、犬がどのような行動をとるか、何を「したい」のか「したくない」のか、という犬自身の意思を利用する、つまり犬がとる行動を犬に自分で選ばせるのです。これは、犬が嫌がることをしない、犬がやりたがることだけをやらせる、ということではなく、今は「嫌だ」と犬が思っていることでも、その「やりたくないこと」につながる動作をスモールステップに分け、ごほうびを使いながら少しずつそのステップを進めていき、最終的には「やりたくないと思っていたこと」を「やりたいこと」に変えるということです。
例えば、シャンプーの嫌いな犬の場合、まずはお風呂場にいるだけでトリーツをあげます。嫌がることなくお風呂場にいてトリーツを期待するようになったら、飼い主がシャワーを持ったり(まだお湯は出しません)、おけを持ったり、「シャンプーをする」という作業につながる小さなステップアップをします。そして、そのような状況をトリーツで「平気なこと」「ここにいるとおやつがもらえる楽しいこと」に変えていきます。次は、シャワーから少しお湯を出すだけ、次はシャワーから出たお湯で少し足が濡れるだけ、…というように少しずつステップを進んでいき、最終的に「シャンプーをする」ことが「おやつがもらえるから」と犬が自らすすんで選択する行動へと変えていくのです。トレーニングの過程では、犬が「嫌だ」と思ったら逃げられる状況を作っておきます。例えば、足が濡れるのが嫌だったら、濡れない場所へと犬が移動することができる、でも犬が「大丈夫そうだ」「おやつがもらえるから」と戻って来て足が濡れるのを受け入れたらまたトリーツをあげる、というように、犬の行動は全て犬自身が選んだものになるようにします。
この方法にはハズバンダリートレーニングと同様の条件付けが用いられています。しかし「犬が自分で選んだ行動」であるということが強調されていて、コンセント・トレーニングと呼ばれています。コンセントとは「同意」という意味です。また、トレーニングによって関連づけられた2つの出来事があり、例えば「このマットの上にのる」と「爪を切られる」ことを犬が理解していて、犬が自ら「このマットの上にのる」行動をとった場合、「このマットの上にのる」行動をコンセントシグナルと呼びます。あたかも「このマットの上にのったら爪を切るんでしょ。いいよ。今切っていいよ。」と犬が爪を切ることに同意したかのようですが、「このマットの上にのったら爪を切るんだよね。爪を切ったらごほうびがもらえるんだよね。ごほうび欲しい!」というごほうびによる条件付けの結果ということです。
また、このコンセント・トレーニングには犬が自分の意思を伝える方法を学習する効果があるとも言われています。つまり、自分の嫌なことを回避するために歯を剥いたり噛み付いたり必要がないのだと学ぶということです。もし、その「嫌なこと」が犬にやって欲しいことである場合には、飼い主さんやドッグトレーナーの腕の見せ所です。犬に「する」か「しない」かを選ぶ余地を残しながら、犬がそれを「喜んでする」ように仕向けるのです。
この真逆のことが、犬に体罰を与え続けて抵抗する気力すら失わせる方法です。これは学習性無力感と言い、長期間に渡って自分の力ではどうにもならない強いストレスに晒されると、ストレスを回避するために努力することすら諦めてしまうことを指します。これは犬にも人間にもあてはまります。
犬が自分で選び自分の行動を決定すること、犬の自発的な行動を尊重することはこのようにとても重要なことです。
傾向3 レクリエーションとしてのトレーニング
トレーニングまたは訓練と言えば、なんとなくつまらなくて我慢が必要なことというイメージが付きまといがちです。しかし近年はトレーニングというのは犬と人が楽しくコミュニケーションを取るためのもので、それ自体が楽しいレクリエーションなのだという考え方が主流になってきています。
犬のトレーニングは犬と人が安全に楽しく暮らすための方法を教えるものですから、それ自体がつまらないのでは困りますね。プロのトレーナーは遊びの要素を取り入れたトレーニングを色々提供しています。
犬にもそれぞれ違う好きな動作や芸があるようです。ある犬はお手をするのが好きだったり、お腹を見せるのが好きだったり。好きな動作をコマンドによって行うトレーニングをしておく、または飼い主さんが愛犬が好きなトレーニングが何かを把握しておくと、例えば動物病院での診察や人混みの中で待つなど、犬が苦手な状況でその動作をさせたりトレーニングをすることで、犬をリラックスさせ楽しい気分にさせることもできるようです。
「トレーニングはコミュニケーション」これを頭に置いておくだけで、近年のトレーニングの意図するところが掴みやすくなると思います。
まとめ
最近の犬のトレーニングにどのような傾向があるのかを簡単にご紹介しました。
3つの項目を挙げましたが、一口に言えば「最近の新しいトレーニング方法は犬の意思を尊重し、犬と飼い主の幸せを最も重要と考える」とも言えます。
ここで挙げたことは自分で犬のトレーニングをする際にも大切なことですが、プロのドッグトレーナーを探す時の目安にもなるものです。常に学び続け、それぞれの犬にあった良いトレーニング法を考えてくれることが、良いドッグトレーナーの条件の一つではないでしょうか。また最近はインターネットを使ったウェビナーなども増えていますので、最新のトレーニング法を知るためにも積極的に利用したいですね。
楽しみながら信頼と幸せを築くドッグトレーニング、ここを目指して行きたいと思います。
《参考URL》
https://thebark.com/content/6-new-trends-dog-training
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50代以上 女性 犬の付け人