盲導犬訓練士とは
目の不自由な方が、社会生活をおくる上で歩行の支えとなってくれる盲導犬を育成・訓練するのが、盲導犬訓練士です。
盲導犬訓練士は国家資格ではなく、国家公安委員会が指定した盲導犬育成団体(法人)に所属している職員で、訓練技術や実務経験を重ねて認定されるものになります。
盲導犬候補の犬たちの資質を見極め導き、お世話をしながら盲導犬に育てあげていくという仕事を担っていますが、それだけではなく、実際に盲導犬ユーザーになる方と盲導犬との関係作り・歩行訓練までを行う、盲導犬歩行指導員という重要な仕事もあります。
盲導犬訓練士は、盲導犬ユーザーの方と盲導犬が一緒になって、新たな生活を踏み出すまでの責任を負い、またその後も盲導犬との暮らしについて、盲導犬ユーザーの相談に乗ってサポートしたり、盲導犬ユーザーと盲導犬との生活を見守っていったりするということもありますので、単に犬が好きだというだけではやりきれない厳しさがあるかもしれません。
また盲導犬訓練士は、盲導犬候補の犬たちが母犬から誕生するときを見守り、その子犬たちをパピーウォーカーに預け、その後成長して戻ってきた盲導犬候補の犬たちを、自分の元で育成・訓練をしてから盲導犬ユーザーの方にお渡しするという、一連のすべてに関わり、更に引退犬を引き取って看取ることもあります。
1頭1頭と長く関わることの責任は大変重いものですが、重要な福祉の仕事のひとつとして盲導犬訓練士への期待はとても大きいです。
盲導犬訓練士になるには
盲導犬育成施設の職員になる
盲導犬訓練士を目指す場合は、まず全国にある盲導犬育成団体(法人)のいずれかに職員として、就職する必要があります。採用の条件については各団体で異なり、また職員の求人も定期的に行われているものではなく、基本的には欠員が出た場合などに募集される形です。そのため、熱意を持って希望しても、なかなか盲導犬訓練士になれるチャンスがない、狭き門でもあります。
まずは研修生から
盲導犬育成施設に就職しても、すぐには訓練士にはなれません。まず盲導犬訓練研修生として学び、試験に合格しなければ盲導犬訓練士にはなれないのです。盲導犬訓練士になるためには、およそ3年の実務経験を積む必要があり、経験や知識・技術が満たされて、更に試験に合格すれば、盲導犬歩行指導員に認定される道は続きます。盲導犬訓練士になるまでには、平均して5年ほどかかると言われているのが現状です。
人とのコミュニケーションを重視
盲導犬訓練士になるためには、犬への愛情はもちろんですが、知識や技量を身につけるために惜しみない努力をする必要があります。そして犬と関わること以外にも、同じ訓練士同士・ボランティアの方々・盲導犬ユーザーさんとその家族の方々と接することが大変多いです。そのため、人とのコミュニケーションこそ大事だという意識を持ち、訓練技術と同じように磨いていく気持ちが重要になります。
盲導犬訓練士を目指す前に
採用が少ない盲導犬訓練士になりたい場合は、もしチャンスがあれば事前に、盲導犬育成施設で犬舎掃除などのボランティア活動を行うことをオススメします。実際の盲導犬訓練士さんたちの仕事ぶりを目にできることで、自分が盲導犬訓練士に向いているかどうか考える機会にもなるでしょう。採用の機会を待つ間のボランティア活動は、訓練士を目指す上でとてもいい経験になります。また、事前に福祉学や視覚障がいの専門知識・技能を身につけておくこと、白杖歩行指導員という資格取得をしておくことなども、採用時には役立つと言われています。
盲導犬訓練士に必要な勉強内容
盲導犬訓練士学校で学ぶ事
- 訓練技術
- 訓練方法論
- 犬の歴史・体の事
- 繁殖学
- 視覚障がいや法律に関する知識
- 指導のための知識
一般的に盲導犬訓練士になるためには、高校卒業程度の学力が必要になりますが、盲導犬訓練士には専門学校や大学などのように学べる学校がありません。全国の盲導犬育成団体に就職してから学ぶ以外には、日本盲導犬協会で開校している盲導犬訓練士学校で学ぶことができます。
盲導犬訓練士学校はごく少人数で不定期での募集ですが、基礎科2年・専修科1年を修了すると盲導犬訓練士の認定資格を得ることができますので、盲導犬訓練士を目指している方にはとても人気のあるものです。
盲導犬育成施設での研修でも、盲導犬訓練士学校でも、理論・実習・訓練士らしい人格の育成に至るまで、かなり踏み込んだ専門知識の教育が行われます。盲導犬訓練士になるための勉強は、犬の訓練技術、犬の歴史や犬の体のこと・繁殖学等犬全般の知識、盲導犬の歴史や訓練方法論、視覚障がいや法律に関する知識、盲導犬の歩行指導のための知識や技術など多岐に渡り、大変充実した内容です。
知識を深める以外には、訓練技術でも決められた習得基準がありますので、そのための勉強が必須になります。また、視覚障がいについての知識を得ておくことも非常に大切です。特に、盲導犬訓練士の更に上の盲導犬歩行指導員になるためには、眼科学や障がい者の心理学なども学んでおく必要があると言われています。
目が見える訓練士が、目が不自由な方を助ける犬の訓練をするという難しさがありますので、犬のことだけ詳しければ良いというわけではなく、目の不自由な方のことを知らずに訓練はできないと考えておくべきなのです。また将来的に、海外の盲導犬育成協会との連携も計画されています。そうした第一線で活動できる盲導犬訓練士を目指すのであれば、早いうちから英語の勉強をしておくことも必要になるでしょう。
盲導犬訓練士の仕事内容
盲導犬訓練士の1日のスケジュール
盲導犬訓練士は、犬の訓練だけが仕事ではありません。もちろん盲導犬を育てることはもっとも重要な仕事ですが、訓練犬の日常的なお世話も盲導犬訓練士の大事な仕事です。盲導犬訓練士の1日は基本的に、犬舎の掃除や訓練犬の排便・ブラッシングや健康チェックなどの細かいケアから始まります。
午前中のうちに基本訓練と市街地での歩行訓練を行い、訓練犬の排泄後にお昼休みとなり、午後も再び訓練、終了後には犬舎管理と訓練犬のケアを、その他訓練の合間には、ミーティングや事務処理等があり、夜間に訓練犬たちに排便をさせて1日が終わります。
こうしたスケジュール以外でも、盲導犬に関するお問合せに答えたり、盲導犬ユーザーからの相談にのったりすることも大切なことです。
訓練
盲導犬歩行指導員であれば、盲導犬ユーザーの歩行訓練もあります。盲導犬を求めている方が盲導犬と歩く訓練、盲導犬に出す指示の練習や一緒に暮らす上での共同訓練・指導はとても責任のある仕事です。
盲導犬訓練士は、1人あたり4〜6頭の訓練犬を担当することもあり、生後1年ほどの盲導犬候補犬を6〜12か月かけて訓練します。訓練を修了して盲導犬になれる犬は、訓練したうちの3〜4割と言われていますので、盲導犬に向かなかった犬を見極めて、キャリアチェンジ犬として新たなオーナー探しをすることもあります。
関わる人への対応
パピーをパピーウォーカーにお預けすること、盲導犬を引退したリタイア犬の引取りをお願いすることなど、こうして盲導犬訓練士はどんな場合でも、犬たちのことを考えた橋渡しも大事な仕事として行います。
その他、盲導犬をもっと社会に理解してもらうための広報活動も必要な仕事のひとつです。
盲導犬訓練士のお給料
盲導犬訓練士のお給料は、各団体によっても変わりますが、平均月収は20万円程度です。休日はほとんどなく、泊まり込みの勤務もあるほどのハードなお仕事内容とお給料のバランスは様々な感覚がありますが、自分が訓練した犬が盲導犬として活躍する姿を見たり、盲導犬ユーザーの感謝の気持ちをいただいたりしたときの喜びは、言葉では言い尽くせないほどで、やりがいを感じる仕事であることは間違いありません。
盲導犬訓練士に向いている人
盲導犬訓練士は体力勝負であり、そして学ぶべきことが非常に多いので、決して簡単になれるものではありません。勉強した知識や技量以外にも、訓練を行う上では観察力や洞察力・判断力の高さも必要とされます。繊細な訓練を行うからこそ、訓練犬の適性を見極めて犬の敏感な感情や行動に迅速に対応して気配りできることが重要だからです。
さらに、自ら感情のコントロールができること、繰り返し同じ訓練を行う計画性・根気強さと責任感、それこそが盲導犬訓練士には大切な資質です。また、年齢層が幅広い盲導犬ユーザーとの密なコミュニケーションも必要になるため、相手の立場に立って気遣いができ、うまく伝えられる工夫ができる思考力と柔軟なコミュニケーション能力も求められます。そして何よりも、犬のことを大切に思い、人の役に立ちたいという志を持っている人こそ盲導犬訓練士に向いています。
まとめ
盲導犬はかつてドイツで誕生し、日本での訓練が始まったのは1967年からで、日本盲導犬協会が発足して訓練所を立ち上げました。
そんな歴史から盲導犬訓練士が誕生しましたが、現在でもまだ盲導犬訓練士は全国に80名程度しかおらず、活躍している盲導犬は1000頭弱です。
盲導犬との暮らしを希望している、目の不自由な方が全国にはまだ約8000人いるということから、盲導犬の数が圧倒的に足りていないことがわかります。
盲導犬候補の犬の数が少ないこともありますし、盲導犬訓練士の数も少なく1頭を育てるのに時間がかかるからです。
盲導犬訓練士になりたいと希望していても、なかなかその機会に恵まれないという現状の中、盲導犬訓練士になるためには採用枠が少ない上に、とても険しい道程なので、途中で断念してしまう人が多いということもあります。
そのため、募集が出るチャンスを待つ間にまずは犬の訓練士の勉強をしたり、犬の行動学や生態などを学ぶ大学に行っておいたりすることも有意義な方法だとして、採用に向けて努力をしている熱意あふれる盲導犬訓練士志望者もいるようです。
盲導犬は、目が不自由な方にとってはまさに希望の光です。
盲導犬の希望者は多く、年々その必要性は高まっているからこそ、盲導犬訓練士には盲導犬を1頭でも多く育てあげるという責任がかかっています。
熱意溢れる盲導犬訓練士がこれからも育つことを期待し、そして盲導犬訓練士への温かい応援の気持ちを多くの方に持っていただきたいです。