犬のおならが出る仕組み
犬がおならをするのは、人間と同じく自然な生理現象です。おならは主に、口から飲み込まれた空気や、腸内で食べ物が消化される際に細菌が発酵させることで発生するガスによって引き起こされます。
食事中に空気を飲み込んでおならが出る
犬がフードを勢いよく食べたり、水を大量に飲んだりすると、一緒に空気を飲み込んでしまうことがあります。
この現象は「空気嚥下症(くうきえんげしょう)」と呼ばれ、特に早食いの癖がある犬に多く見られます。飲み込まれた空気の多くはゲップとして出ますが、一部は腸に送られておならとして排出されます。
腸内細菌の発酵でガスが発生する
犬が食べた食物は腸内で細菌によって分解・発酵され、この過程で窒素、水素、二酸化炭素などのガスが作られます。
特に消化が難しい食物繊維や未消化のタンパク質が腸内に残ると、より多くのガスが発生しやすくなります。犬の場合は人間に比べてメタンを産生する細菌が少なく、水素や二酸化炭素が主成分になることが多いとされています。
短頭犬種は空気を飲み込みやすい
フレンチ・ブルドッグやパグ、ボストン・テリアなどの短頭犬種は、軟口蓋(喉の奥の柔らかい部分)が長い「軟口蓋過長症」や、鼻腔が狭い「鼻腔狭窄(びくうきょうさく)」などの呼吸器の特徴を持っています。
そのため、普段の呼吸や食事の際にも空気を飲み込みやすく、他の犬種に比べておならの回数が多くなる傾向があります。
犬のおならが臭い原因
犬のおならが臭くなるのは主に腸内で悪玉菌が増えたり、食べ物が十分に消化されずに腐敗してしまうためです。臭いおならには、腸内環境の悪化や食生活の乱れが関わっています。
「品質の低いフード」を与えている場合
犬は本来肉食に近い雑食動物ですが、品質の悪い動物性副産物や、トウモロコシ、大豆など犬にとって消化しづらい植物性タンパク質を含むフードは腸内で腐敗しやすくなります。
腐敗によって硫化水素、インドール、スカトールなどの臭いガスが発生し、おならが臭くなります。
「犬が消化できない食材」を与えている
特定の食材(特に乳製品に含まれる乳糖や、一部の穀物など)を消化できない体質(食物不耐性)の犬もいます。
この場合、消化されず腸内に残った食物が異常発酵を起こし、臭いの強いおならを発生させることがあります。
腸内で「悪玉菌」が増加している
犬の腸内には善玉菌と悪玉菌が存在しますが、抗生物質の服用やストレス、加齢などが原因で善玉菌が減り、悪玉菌が優勢になる場合があります。
この状態を「腸内細菌バランス異常(ディスバイオシス)」といい、悪玉菌による腐敗が進んで臭いおならが発生しやすくなります。
犬のおならが臭いときに疑われる病気
犬のおならが急に強烈な臭いを放つようになった場合、消化器系の病気が隠れている可能性があります。とくに、おならの悪臭に加えて便の異常や体調変化が伴う場合は注意が必要です。
炎症性腸疾患(IBD)・食物アレルギー
臭いおならとともに慢性的な下痢、嘔吐、体重減少が見られる場合は、腸に炎症が起こる「炎症性腸疾患(IBD)」特定の食べ物に免疫が過剰反応する「食物アレルギー」などの消化器疾患が疑われます。
これらは腸内環境の悪化を招き、消化吸収を妨げるために臭いガスが多く発生します。
膵外分泌不全
膵臓から分泌される消化酵素が不足して起こる病気が「膵外分泌不全(EPI)」です。食べ物が正常に消化・吸収されず、栄養失調を起こし、灰白色から淡黄色の脂肪を多く含む便(脂肪便)が特徴的な症状として現れます。
非常に強い臭いのおならや、食欲があるのに痩せていく症状もこの病気を疑うポイントです。ジャーマン・シェパード、ラフ・コリーなどの犬種で多くみられます。
消化管腫瘍
腸や胃など消化管にポリープや悪性腫瘍(腺癌やリンパ腫など)ができると、腸の通過障害や正常な消化活動が妨げられ、未消化の食物が腸内で腐敗します。
その結果、腐敗ガスが増え、おならが非常に臭くなることがあります。とくに高齢犬で臭いおならが急に増え、食欲不振や体重減少などを伴う場合は、消化管腫瘍を疑う必要があります。
動物病院へ連れて行くべき症状
犬のおならの臭いが異常に強いことに加えて、以下の症状がある場合は深刻な病気が隠れている可能性があるため、自宅で様子を見ることなく動物病院を受診してください。とくに、命に関わる可能性のある症状が見られる場合は迅速な対応が重要です。
腹部が張って苦しそうにしている
犬が落ち着きなくうろうろ歩き回ったり、お腹が張ってパンパンになり、吐こうとしても吐けないという症状がある場合、「胃拡張・胃捻転症候群(GDV)」という緊急性の高い病気が疑われます。
ゴールデン・レトリーバーやシェパードなどの大型犬や胸が深い犬種では特にリスクが高く、迅速な診断・治療が必要です。
繰り返す嘔吐・下痢が止まらない
臭いおならに加えて、繰り返す嘔吐や持続的な下痢を伴う場合は、消化器系疾患、感染症、または中毒の可能性があります。特に子犬や老犬では脱水が進みやすく、命の危険に繋がる恐れがあるため、早期に受診してください。
元気がなく食欲が著しく低下している
臭いおならに伴って、明らかに元気がない、普段喜ぶ散歩に行きたがらない、ご飯を食べないなどの症状がある場合は、体の深刻な不調を示している可能性があります。
感染症や慢性疾患、内臓疾患の可能性があるため、なるべく早く動物病院で検査を受けるようにしましょう。
短期間で体重が急激に減少する
食事量が同じまたは増えているにもかかわらず、1ヶ月間に5%以上体重が減るなど、急激な体重減少が見られる場合は、栄養吸収がうまくいっていない可能性があります。
膵外分泌不全、炎症性腸疾患、消化管腫瘍などが疑われるため、早急に獣医師の診察を受ける必要があります。
犬のおならが臭いときの対処法
犬のおならが臭くなったとき、病気などの異常が見られない場合は、生活環境や食事内容の見直しで改善できることがほとんどです。自宅で簡単にできる効果的な方法をご紹介します。
体質にあったフードに切り替える
現在与えているフードの原材料を見直してみましょう。消化が難しいトウモロコシや大豆、動物性副産物などが多く含まれている場合は、チキン、ラム、魚などの良質な動物性タンパク質を主原料としたフードに切り替えることを検討しても良いでしょう。
消化吸収のしやすさや、適切な原料などは個体差があるため、口コミ評価が高くても、愛犬に最適とは限りません。体質や全身状態に適したフードを選択しましょう。
また、グレインフリーのフードを試す場合は、レンズ豆やジャガイモを主原料とするフードと拡張型心筋症(DCM)の関連性が指摘されているため、獣医師と相談してから与えるのが安心です。
食事を少なくして回数を増やす
食事を1日2〜3回に分けることで、一度に食べる量を減らし、消化器にかかる負担を軽減できます。食事回数を分けると腸内のガス発生が抑えられ、おならの臭いも改善されます。
また、食べるスピードが速い犬には早食い防止用の食器を使ってゆっくり食べさせると効果的です。
食後の軽い散歩で腸を動かす
食後30分~1時間ほど経ってから、軽い散歩を取り入れることをおすすめします。適度な運動は腸の動きを促進し、ガスが腸内に溜まりにくくなります。
ただし、ゴールデン・レトリーバーなど胸が深い大型犬では胃捻転(GDV)のリスクがあるため、食後は1.5〜2時間休ませてから散歩に行くようにしてください。
腸内の善玉菌を増やす
腸内環境を整えるため、犬用の乳酸菌(プロバイオティクス)やオリゴ糖(プレバイオティクス)を配合したサプリメントを取り入れるのも有効です。
腸内の善玉菌を増やし悪玉菌を抑えることで、臭いの元となる腐敗ガスの発生を抑える効果が期待できます。使用を始める際には、念のため獣医師に相談してから行いましょう。
お腹を優しくマッサージする
犬がリラックスしているときに、お腹を優しく「の」の字を書くようにマッサージすると、腸の動きを助けガスの排出がスムーズになります。マッサージが苦手な犬には、温かいタオルをお腹に当ててあげるだけでも血行が良くなり腸の働きをサポートできます。
まとめ
犬のおならが臭いと感じたら、まずはフードの品質や食事方法、運動習慣を見直すことが重要です。多くの場合、消化しやすい食事への変更や腸内環境の改善でおならの臭いは軽減できます。
しかし、おならの臭いが急激に強くなったり、嘔吐や下痢、体重減少、元気がないなどの症状が併発する場合は、消化器系疾患や膵外分泌不全、腫瘍など病気の可能性があるため、速やかに動物病院を受診しましょう。
日頃から愛犬の健康状態をよく観察し、異常のサインを見逃さないよう心がけてください。