動物病院で夏に多い質問は何?
私が、動物病院で犬猫の診察をしている時、飼い主さんからいろいろな質問をいただくことがあります。
獣医師からすると当たり前に思えても、飼い主さんが知らない愛犬のあれこれ。
飼い主さんとのお話を例に取りながらお話してみますね。
犬に大敵、夏の暑さ
夏ですから、やはり暑さに対するご質問は自然と多くなりますね。
犬の祖先である狼は、北の大地が出身の動物です。
その影響で自然とワンちゃん達は、暑いのが苦手・・・。
日常生活でおきやすいトラブルについて、実際にあったお話をしますね。
お散歩を嫌がるようになった「あいちゃん」
あいちゃんの飼い主さんは、犬の散歩をこよなく愛する紳士。
毎日楽しく散歩していたのに、ある時を境にあいちゃんが「散歩拒否」に。
耳の治療中に「散歩拒否」のお話をお聞きしました。
あいちゃんの散歩拒否の原因は、路面の暑さ。
人間は約1.5m、子供であれば1m、幼児であれば0.7mほどの身長がありますよね。
でも、犬の場合たいてい「体高」は50cm以下がほとんどです。
人間よりも地面に近い場所を歩いている犬達、その暑さは人間の体感の約2倍と考えておきましょう。
飼い主さんが、気をつけていたつもりだった散歩タイムも、あいちゃんにとっては暑すぎたということですね。
真夏のお散歩は、日が出てから1時間以内と、日が沈んでから2時間以上遅らせるのがベスト。
とくにアスファルトやコンクリートは蓄熱効果が高く、日が沈んでからも熱いまま。
飼い主さんが手のひらをアスファルトに押し当てて、30秒以上我慢できる状態でのお散歩をおすすめします。
室内で熱中症になった「チロちゃん」
夏は、熱中症で緊急入院するワンちゃんが増えます。
人間でも室内や夜間での熱中症が増えていることはご存知ですよね?
私がたまたま診たチロちゃんは、気をつけているつもりだった室内で熱中症になったワンちゃんでした。
チロちゃんが熱中症になった原因は、湿度でした。
ちょうど梅雨まっさかり、湿度は軒並み90%を超える日々が続いていました。
気温は25度くらいで、人間は蒸し暑いな~で我慢できる程度。
そんな中、チロちゃんは室内で熱中症を発症しました。
実は、犬は体温調節が下手な生物です。
ふわふわの毛皮に覆われた体の部分には、汗腺(汗をかくところ)がありません。
犬が体温を下げる方法は、
- 体を舐めて濡らすことで、気化熱(水分が蒸発することで温度が下がる)で冷やす。
- ハッハッハッと舌をだして呼吸することで、舌にある血管を気化熱で冷やす。
- 耳の血管を空気に触れさせることで血管を冷やす。
が主な方法です。
チロちゃんが熱中症になったのは、湿度が高すぎて気化現象が起きなかったことが原因でした。
ハァハァしても、手や体を舐めても空気中の水分が多すぎて蒸発せず、体温を下げられなくなってしまったんですね。
梅雨時から夏にかけて、蒸し暑い日は飲み水に氷を浮かべたりエアコンで湿度調節を心がけてくださいね。
夏は毎年皮膚炎でボロボロだった「リリーさん」
リリーさんは、ふわふわのゴールデンレトリバー。
いつも良い香りで、立派な毛並み愛想よしのリリーさんは病院のアイドル患者さんといっても良いくらい。
大型犬は夏が苦手な子が多いので、飼い主さんも気をつけてエアコンをかけたり、プールで泳がせたり気を使っておられます。
それなのに、毎年夏は皮膚炎で大わらわ。
抗生物質を切らすことができない年もあるくらいでした。
原因はりっぱな毛並みとその維持にありました。
犬には、2種類の毛並みがあります。
シングルコートとダブルコートといって、ゴールデンレトリバーはダブルコートの犬種です。
つややかな外側の毛と、内側にみっしり生える柔らかい毛がりっぱな毛並みの正体。
この内側の毛は、水を吸うとなかなか乾きづらく皮膚炎の原因になりやすいんですよ。
リリーさんも、泳いだりしたあと毛並みの付け根までしっかり乾かすことができなかったそうです。
耳の付け根、喉元、脇の下、尻尾の付け根など湿り気の残りやすい場所が皮膚炎を起こしていたのです。
いろいろ相談した上で、リリーさんは夏のあいだサマーカットしてみることにしました。
飼い主さんは、自慢の美しい毛並みが戻らないかもと心配されましたが、9月にはすっかり元通り。
その年から、夏の皮膚炎にはおさらばできましたよ。
このように、皮膚炎の悪化しやすいのが夏。
シャンプーや水遊びのあとは、しっかり乾かして皮膚の状態に気をつけてくださいね。
犬の夏バテについて
夏に食欲を失う現象を人間では「夏バテ」と呼びますよね。
犬でも夏バテしてしまう子も多いです。
暑くなると、いつもと同じ量をたべない、というご相談が増えるのは当然ですよね。
夏バテでも「上げ膳据え膳」は厳禁
食べないと心配だから美味しいものをあげたいと、おっしゃる飼い主さんがとても多いです。
でも愛犬の様子をよく観察してみてください。
- 食欲のある頃と同じくらい活動的でしょうか?
- 気温の高い時間帯に食事をあたえていませんか?
犬の祖先のオオカミは「薄暮性」という習性をもつ動物。
夜明けや夕暮れ以降の薄暗い時間帯に活動する動物なんですね。
ですから、夜明けが早く夕暮れの遅い夏の時間帯にいつもの時間に食欲がないのは当たり前ということ。
夏バテ?とおもったら、食事の時間を朝早く、夜は遅くしてみましょう。
夏の暑い時期は、犬はじっと動かずカロリー消費を抑えています。
獣医としての経験から、柴犬などの中型犬では夏と冬では1~2kgの体重差あるようです。
小型犬でも500g~1kg位の変動はあると思って間違いないでしょう。
一度おぼえた贅沢は忘れない
夏バテと思って、美味しいご飯をあげたら食べてくれる・・・。
こう仰る飼い主さんの愛犬は、秋になっても冬になっても夏バテ。
一度おぼえた美味しい食事、お腹がすいても待っていれば美味しいものが出てくる。
犬はとても賢い動物ですから、美食のためなら痩せ我慢も平気です。
ですから、夏バテかな?と思っても体重変化を見守って食事を変えないのがベストですよ。
まとめ
人間でも辛い夏の暑さ。
素敵な毛皮と、汗をかけない体質を持ったワンちゃん達にとっては大変なシーズンです。
サマーカットやエアコン、便利なクールグッズなど上手に活用して夏を乗り切れば涼しい秋がやってきます。
暑い夏だから、夜明け前の散歩を楽しむなど上手に楽しんで過ごしたいですね。