動物病院の小さな仲間『院内犬』について

動物病院の小さな仲間『院内犬』について

動物病院で働いているのは獣医師や動物看護師だけではありません。院内犬として病院で飼われている犬もいるのです。今回は、そんな院内犬のお話です。

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院内犬について

動物病院にいるハスキー

動物病院によりますが、院内犬として犬を飼っている病院が多くあります。
院長先生が飼い主となっている院内犬もいますが、私が出会った院内犬は病院が住まいでした。
院内犬の仕事は様々ですが、スタッフの癒しになるだけでなく、治療が必要な子を助けるという仕事もあります。
飼い犬のように家はなく、1人の飼い主と共に生きる訳ではなく、病院で一生を終える院内犬。
私が以前務めていた動物病院にいた院内犬との思い出です。

はっちゃん

シベリアンハスキー

私が務めていた動物病院に大きなハスキー犬がいました。
名前は、ハスキーにちなんで「はっちゃん」。そのままですが、その名前の通り面白い犬でした。
体は大きいですが、小さな犬に吠えられても怒ることはありません。というより聞いてないような寝たふりをしてました。
お散歩やご飯の時間が遅れると大鳴きし、散歩が短いと、わざとのように足を踏んできます。新人の散歩だとわかるとすごい力で引っ張るし、シャンプーが嫌いでシャンプーしてる最中お風呂の中でウンチをしてしまい、私達を大笑いさせてくれました。
でも不思議な事に病院で亡くなる子がいる時は、いつもはご飯の時間になると大鳴きするのに、その時は全く鳴かずじっとその場を静かに見送ってくれました。
はっちゃんは賢くて、ちょっと怖がりで、ワガママな女の子でした。

はっちゃんが院内犬になった理由

動物看護師の先輩から聞いた話です。
はっちゃんが生まれた頃は、ハスキーブームで飼っているお家がたくさんありました。
仔犬の頃はムクムクで可愛いハスキーの仔犬ですが、大人になると運動量も多く抜け毛も多い、躾も大変な犬種です。ちゃんと躾をしないと言う事を聞かず、噛む犬になってしまうなど飼いきれなくなる飼い主が増えました。
飼いきれなくなると、保健所に連れ込む飼い主やひどい人になると山や家から遠い所に捨てる人もいたそうです。おそらく、はっちゃんも同じように捨てられた犬でした。
はっちゃんの場合、捨てられた場所は何処かはわかりませんが、保護された場所は小学校の校庭でした。子供達が遊んでいる所に突然現れたそうです。見た目が怖くて初めは怖がっていた子供も、同じように楽しそうに遊ぶはっちゃんをみて、いつの間にか一緒になって遊んでいたそうです。もしかしたら、飼われていたお家には小さな子供がいて、それを思い出して小学校に入ったのかなと先輩は言っていました。
ただそれを見ていた小学校の先生が驚き、保健所に連絡しすぐ捕獲されたそうです。
数日で処分される運命でした。
その当時、院長先生は開院して数年が経ち病院も順調に患者さんが増えている時期でした。患者さんからはっちゃんの事を聞いた先生は、ちょうど院内犬を探していた事もありはっちゃんを保護したそうです。
先生によって、はっちゃんの命は救われました。

院内犬の仕事

院内犬の仕事はいろいろあります。
まずは、私達スタッフの教育係。犬の扱いに慣れていない新人の頃、はっちゃんの体を使って保定(採血や注射をする時に犬が動かないよう押さえる事)の練習をさせてもらいました。
「どうすれば犬の動きを押さえられるか」それをはっちゃんに私は教えてもらいました。
はっちゃんはちょっとワガママな所もあったので、保定が下手だと暴れるのでいい練習になりました。新人の獣医さんも採血や注射の練習ではっちゃんの体を使わせてもらいました。

それにドックフードのモニターとしての仕事もあります。
これに関しては、はっちゃんは参考になりませんでした。なんでも基本美味しく食べてくれるので、どれが美味しいのかわかりません。
ただ、時々ちょっと大きい粒のドックフードだと残すので、食べるように口元に持っていくと一応は口に入れますがその場で「ブッ!」と吐くので、その姿が人間ぽくて私達を笑わせてくれました。

そして一番大切な仕事が「供血犬」としての仕事です。
供血犬とは、輸血の必要な犬に自分の血液をあげる犬のことです。
はっちゃんのすごいところは、はっちゃんからもらった大切な血液を輸血した犬は、ほとんどが元気になって帰っていったことです。はっちゃんの血液無敵説は、私が務めていた病院の伝説です。
いろいろな思い出と伝説を残したはっちゃんですが、私が辞めた数年後病気で亡くなってしまいました。年齢はわかりませんが、16歳以上生きてくれたと思います。大型犬にしたら本当に長生きです。
たくさんの犬を助けてくれたはっちゃん。今でも私の大切な仲間です。

最後に

見上げるハスキー

家族にはっちゃんの話をしたら、「他の犬の為とはいえ、血液を抜かれるのは可哀想。それに犬の幸せは飼い主に尽くすことなのに、飼い主のいないはっちゃんは幸せなのかな。」と言われました。
確かに、決まった飼い主はいません。散歩やご飯も看護師が交代でしていたので、誰が特別好きとかはなかったと思います。
院長先生の家は病院から少し離れた所に住んでいたので、入院している動物がいなければ夜は病院で一人ぼっちです。
寂しいだろうなと思うこともありました。
でも、はっちゃんが助けた命はたくさんあります。それは事実です。
幸せだったかは、はっちゃんに聞いてみないとわかりませんが、私ははっちゃんに会えて幸せでした。スタッフみんな同じだと思います。
時々その当時のスタッフと会うとき、はっちゃんの話になります。はっちゃんの話をするとみんな笑顔になり、自然に笑いが生まれます。
病気の犬の為にその一生を捧げる犬が院内犬です。
そんな犬がいることを知ってもらいたくて、この話を書きました。

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ユーザーのコメント

  • 投稿者

    女性 匿名

    我が家のワンコがお世話になっている病院にもブルの院内犬がいます!
    やはりドッグフードの試食をしているらしく、先生が『これは美味しいのかよく食べるよ』などの情報をもらえます。
    先生や看護師さんが病院のまわりをよく散歩しているのを見かけます。体は大きいですが誰にでも尻尾を振って近づいてくるので、みんなに可愛がられています!
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