犬にアルコールは危険!飲んでしまった時の症状や対処法、消毒薬への注意点

犬にアルコールは危険!飲んでしまった時の症状や対処法、消毒薬への注意点

犬にアルコールは危険という事はご存知でしょうか?最悪、死にいたる犬には危険な物質です。近年、新型コロナの影響でより私たちの身近な物になったアルコールの犬への危険度について説明します。

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記事の監修

東京農工大学農学部獣医学科卒業。その後、動物病院にて勤務。動物に囲まれて暮らしたい、という想いから獣医師になり、その想い通りに現在まで、5頭の犬、7匹の猫、10匹のフェレットの他、ハムスター、カメ、デグー、水生動物たちと暮らしてきました。動物を正しく飼って、動物も人もハッピーになるための力になりたいと思っています。そのために、病気になる前や問題が起こる前に出来ることとして、犬の遺伝学、行動学、シェルターメディスンに特に興味を持って勉強しています。

犬にアルコールを与えてはいけない!

犬にアルコールは危険

玉ねぎ、チョコレートは命に危険を及ぼす可能性があるので犬に与えてはいけないことは有名ですが、アルコールはどうでしょうか?

近年では新型コロナの予防のため、どの家庭にもアルコールスプレーやアルコールを含むウェットティッシュなどが置いてあるかと思います。犬の足の裏に、消毒のためとアルコールをかけている方もいるかもしれません。

アルコールは、人でも急性アルコール中毒で命を落とすケースがあるように、犬にとっても危険なものの1つであり、犬にアルコールを与えてはいけないことは知らなかったでは済ますことはできない常識なのです。

犬のアルコール中毒の症状

アルコールの危険な中毒症状

犬のアルコール中毒の症状は、人間の急性アルコール中毒の症状と同様です。中毒を起こす量のアルコールを摂取した場合、摂取した量や空腹時であったかそうではなかったのかなどにもよりますが、摂取後30~60分ほどで現れることが多いようです。もちろん、摂取量が多いほど早く中毒症状が現れます。

人間では、遺伝的な体質によってアルコールに強い人と弱い人がいますが、それはアルコールの分解にかかわる酵素の量の違いによります。犬では、アルコールを分解する酵素の量が少ないためにアルコールがなかなか分解されず、アルコール中毒が起きてしまいます。分解されないままのアルコールは脳内に入って脳に影響を与えることによって体の様々な機能を低下させ、呼吸や運動機能、血圧などが正常に保たれなくなったり嘔吐を起こしたりします。

「飼い主がロックの焼酎を飲んでいる時に寝てしまい、それを犬が飲んで、起きたら犬が横で痙攣していた」という例もあるそうです(飼い主自らお酒を飲ませた…急性アルコール中毒になったチワワのお話)。

少ししか飲んでいなくても、アルコール濃度によっては小型犬にとっては大変な量のアルコールを摂取することになり、中毒を起こす事もあります。また、空腹時で胃の中が空っぽなのかご飯を食べた後で胃の中にたくさん食べ物があるのかによっても、アルコールが吸収される速度が変わり、中毒症状の有無や発症時間が変わってきます。

犬のアルコール中毒には以下のような症状があります。

  • 嘔吐
  • 昏睡
  • 下痢
  • 方向感覚の喪失
  • 呼吸の乱れ
  • よだれの量が増える
  • 喉の渇き
  • 活動性の低下
  • 震え
  • 体温低下
  • 低血糖

特に意識が朦朧(もうろう)としていたり、呼吸が弱い時、血圧が低下している時などは、命の危険に関わる確率と緊急性が高いので、一刻も早く病院に連絡しましょう。

犬におけるアルコールの致死量

犬のアルコールによる致死量

アルコールには様々な種類がありますが、お酒に含まれているアルコールはエタノールです。100%エタノールの犬での致死量は、体重1kgあたり5.5ml程とされています。

代表的なお酒だと、犬の体重1kgあたり以下の量が致死量になってきます(カッコ内は、計算に用いたアルコール度数)。

  • ビール(5%)   :約110ml
  • 日本酒(15%)  :約37ml
  • ワイン(12%)  :約50ml
  • ウィスキー(40%):約14ml

※約37mlは大さじ2杯強ぐらいの量になります。

アルコール中毒になってしまうかどうかは、犬の体重と飲んでしまったアルコール成分の量に大きく左右されますので、体の小さい小型犬や子犬では特に注意が必要です。また子犬の場合は、アルコール分解酵素の量が成犬よりも少ないことが考えられ、さらに注意が必要でしょう。色々なものに興味を持ってしまうという点からも、誤食・誤飲などしないように特に注意する事が大事です。

危険なものは犬の手や口が届かないところに置く事が、絶対にすべき対策の1つになります。

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お酒を飲む飼い主さんの中で、つい愛犬に与えてしまう人がいる事に対しての注意勧告や、犬にとってビールがどれくらい危険なのかを紹介していきます。

  • 食べ物
  • その他食べ物・飲み物

犬がアルコールを飲んでしまったときの対処法

犬がアルコールを舐めたときの対処法

万が一、犬がアルコール飲料を口にしてしまった場合、手遅れになる前に対処する必要があります。よほどアルコール度数の高いお酒ではない限り、ペロペロと少し舐めただけでは中毒量のアルコールを摂取することにはなりませんし、アルコール臭によって犬が好んで飲まないお酒も多いでしょう。しかし、度数の高いお酒を小型犬が飲んだ場合は少量でも中毒を起こす可能性がありますし、人間にとって甘くて飲みやすいお酒を好んで飲んでしまう犬もいますので、犬がお酒を飲んでしまった場合には、やはりまず動物病院に電話をするのが良いでしょう。

そして、飲んでしまってすぐだとしても、間違っても自己判断で吐かせることはしないようにしましょう。状況によっては犬の体調の悪化を加速させる場合もあり、誤嚥(ごえん)の危険も伴います。アルコールを飲んでしまってすぐの場合には吐かせることで中毒が起きるのを防げることもありますが、それは動物病院に任せることにして、飼い主さんはすぐに動物病院に連絡をして連れて行くことを優先しましょう。

飲んでから時間が経っていて症状がすでに出ている場合やいつ飲んだか分からないがアルコール飲料を飲んでしまった可能性がある場合、アルコール中毒を疑わせる症状が出ている場合などは、インターネットなどで調べるのではなく、やはりできるだけ早く動物病院にコンタクトをとりましょう。

病院に連れて行く

アルコール飲料を飲んでしまった場合は、詳細がわかるほど、適切な診断と治療の助けになります。「いつ飲んだのか、量、アルコールの種類、度数など」を把握しておくと良いでしょう。

経過観察

アルコール飲料を飲んだとしても、ごく少量であったり犬の大きさや経過時間などから考えて中毒を起こす可能性は低いと獣医師が判断した場合、自宅で様子を見るように指示されることもあるでしょう。摂取したアルコールはすぐに体内に吸収されますので、遅くても2時間程度で症状が出ると言われています。また、一旦出た症状は半日以上続くことが多いようです。経過観察中に上記のような症状やいつもと違う様子が見られたら、すぐに病院に連れていきましょう。

飲み物以外にも気をつけるべきアルコール

犬をアルコールに近づけてはいけない理由

近年では、新型コロナウイルス対策で家で飲んだりする機会も以前に比べ増えているだけではなく、アルコールを含む消毒薬が犬の生活空間の中にあることも多いかと思います。また、他にもアルコールを含む物が意外と多く犬の近くにあるかもしれません。

アルコールを含む消毒薬

アルコールを含むタイプの消毒薬で最も多いものがエタノールを含む消毒薬です。この場合、エタノール濃度はお酒よりはるかに高い70%程度となります。犬の体重1kgあたり8ml程度で命が危険にさらされる可能性があります。また、エタノールではなくイソプロパノール(イソプロピルアルコール)を含む消毒薬もあります。イソプロパノールも犬に中毒を起こし、その毒性はエタノールより強いそうです。アルコールを含まないタイプの消毒薬でも、犬が飲んでしまうと中毒を起こす危険性があります。また最近は、犬が好むかもしれないフルーツや甘い香りのついた消毒薬も多く見かけます。どんなタイプの消毒薬でも犬が間違って飲んでしまわないようにしてくださいね。

また、飼い主さんが家の中を消毒した後は、消毒液やジェルが完全に乾き、空気の入れ替えが済むまでは、犬を別の場所に移動させておきましょう。

盲点なのは、飼い主が消毒した自分の手です。消毒液だけでは舐めなくても、飼い主さんの手についているものだったら舐めてしまう犬も多いと思われます。消毒してから手が乾くまでは、犬を触ったり、犬が手を舐めたりしないようにしましょう。

アルコールを含む除菌シートは、アルコール中毒という点では犬の体を拭くのに使っても問題はないでしょう(もちろん、人の体に使えるものであれば、です)。ただし、除菌シートで拭いた後に皮膚が赤くなったり乾燥したりするようであれば、その除菌シートを使うのは控えましょう。アルコールを含む除菌シートで拭いた所を犬が舐めてしまったとしても、アルコールはすぐに揮発するので犬がアルコールを摂取してしまうことにはならず、問題となる可能性は低いでしょう。しかし、あまりにも拭かれた所を舐めるのは良くありませんね。そんな時は、拭いた後に舐めても大丈夫なペット用の商品を使ってあげましょう。

アルコールは皮膚からも吸収される?

アルコールを含む消毒液や除菌シートを使う際、皮膚からもアルコールが吸収されないのかが心配になる方もいらっしゃるでしょう。傷やただれなどがない皮膚からは、アルコールが吸収されるとしてもごく微量で、アルコールはすぐに揮発してしまいますので問題になるとは考えにくいようです。

皮膚からの吸収より問題となるのは、スプレーやポンプから出たアルコール消毒液が空気中に舞い、それを吸ってしまうことだそうです。飼い主さんが自分の手や家の中を消毒する場合、犬を近くにいさせないようにするか、液体が飛び散らないタイプの容器やジェルタイプの消毒液を利用すると良いでしょう。普段、ご自宅で耳掃除をしたり目やにを取ることがある飼い主さんもいらっしゃると思います。そのような場合に除菌シートやウェットティッシュを使う場合は、必ずアルコールが入っていないタイプのものを選んでください。アルコールが刺激となって状態が悪化する可能性があります。

新型コロナウイルス感染症の流行により、「次亜塩素酸水」が注目され始めました。次亜塩素酸水は手指、物品、食品に使われることもあり、動物病院、ペットサロンなどで多くのペット施設でも使われています。一般家庭でも物品の消毒に使える次亜塩素酸水が販売されていますので、決められた用法・用量をよく守って使ってみるのも良いでしょう。次亜塩素酸水は衣類やキッチン用の漂白剤などに含まれている「次亜塩素酸ナトリウム」と名前は似ていますが全く異なるもので、漂白剤を薄めても「次亜塩素酸水」にはなりません。間違わないようにして下さい。

《次亜塩素酸水についての参考サイト》

こんな物にもアルコールが

ネイル落とし、香水、化粧水、加熱前のパンやピザの生地などにもアルコール(エタノール)が含まれていることがあります。パンやピザの生地の場合、エタノールは発酵過程で生じます。犬が焼く前の生地を食べてしまっての中毒は、度々報告されています。生地を食べてしまう量によっては、エタノールによる中毒の他に、胃の中で生地が発酵して膨らんでしまうことで、最悪の場合は胃拡張捻転症候群を起こし命を落とすこともあります。どれも、犬が口にしてしまわないように注意をし、万が一ある程度の量を食べてしまった場合はすぐに動物病院に連絡しましょう。

最悪突然死の可能性もある

犬が酔っぱらっている様子を面白がっているうちに突然死してしまった体験談もネット上で紹介されています。

犬の大きさと飲んでしまったアルコールの度数、量によってはあっという間に亡くなってしまう可能性もあります。お酒でも消毒薬でも、アルコールを含むものを絶対に犬に摂取させないようにしましょう。

まとめ

アルコールを含むウェットティッシュ

アルコールも玉ねぎ、チョコレートと同じく犬には与えてはいけない物の1つです。最近は、アルコールの含まれた消毒薬やウェットティッシュを家庭に置く事も増えているので、扱いには注意しましょう。

お酒が好きな飼い主さんの中には、軽い気持ちで犬にお酒を与えてしまう方もいらっしゃるかもしれません。家飲みが増えてきる昨今、飲み会で盛り上がるとふざけて犬にお酒をあげてしまうこともあるかもしれません。

犬がアルコールを飲むと、お酒が飲めない体質の人が無理にお酒を飲んだ時と同様に少量でも中毒を起こしたり、場合によっては命の危険に関わる事を頭に入れておきましょう。そして、犬から目を離して飲食物を放置しない、もしくはアルコールを含むものは犬のいる部屋とは別の部屋に置いておく、家飲み中は犬を別室やケージに入れておく、などの対策をとりましょう。

犬の命を守るには飼い主の行動が鍵を握っています。

《参考文献》

Richardson JA. Ethanol. In: Peterson ME, Talcott PA, eds. Small Animal Toxicology. 2nd ed. St. Louis: Elsevier Saunders; 2006: 698-701.

【ビールについての補足】

アルコール度数が1%未満であれば、日本でも個人が自家製ビールを醸造することができ、手作りビールキットも販売されています。アルコール中毒とは異なる話になりますが、ビールを作る際に使うホップは犬にとって毒性があるため、取り扱いには充分注意してください。ホップが犬に中毒を起こす理由はまだ分かっていませんが、「悪性高熱」様の症状が出ると言われています。悪性高熱とは、一般的には麻酔時に起こる筋肉の異常な収縮とそれに伴う発熱で、死亡することも多くあります。

ホップはつる性の植物で、ホップで緑のカーテンを作る方もいます。ホップのどの部分も犬にとって毒性があるようですので、ホップを植えてガーデニングを楽しんでいる方もご注意ください。

《ホップによる犬の中毒症例71例をまとめた論文》

Pfaff, A., Sobczak, B. R., Babyak, J. M., O'Toole, T. E., & Rozanski, E. A. (2022). Retrospective analysis of hops toxicosis in dogs (2002-2014): 71 cases. Journal of veterinary emergency and critical care (San Antonio, Tex. : 2001), 32(1), 90–97.

https://doi.org/10.1111/vec.13141

《上記論文を紹介している日本語のサイト》

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