犬がチョコレートを食べてはいけない理由
犬にチョコレートは与えてはいけない食べ物として広く知られています。そのチョコレートの主成分であるカカオには、「テオブロミン」というアルカロイドの一種である成分が含まれています。このテオブロミンが中枢神経や心臓、筋肉などに対し、強い興奮作用をもたらすのです。
チョコレートに含まれるテオブロミンの量は、人間にとって害を及ぼす程の量ではなく、食べても問題なく排泄されます。しかし、犬ではこのテオブロミンの代謝が遅いため、ときには重篤な中毒症状を起こしてしまいます。
チョコレート中毒の症状
初期症状では、テオブロミンの興奮作用によって、嘔吐、異常な興奮、口の渇きなどの症状が現れ、悪化すると体がふらついて歩けない・立てないといった明らかな異変も見られます。そして、重症例では痙攣発作や昏睡状態によって、突然死する例が報告されています。
軽い症状で済むか、重篤な症状が現れるのかは、多くは食べたチョコレートの量や種類、犬の大きさ(体重)や体質によって左右されます。
「軽度」の中毒症状
- 嘔吐(おうと)
- 下痢
- 頻尿・失禁
- 震える
- 興奮して落ち着かない
- 呼吸が荒い(パンティング)
- 口の渇き(よく水を飲む)
「重度」の中毒症状
- ふらつく
- 不整脈、頻脈
(心臓がバクバクと過剰に拍動) - 体温の異常な上昇(発熱)
- 痙攣
- 昏睡
中毒症状が出るまでの時間
犬がチョコレートを食べてしまった時には焦るものですが、症状が現れるとすれば食べてすぐというわけではありません。
基本的に、チョコレートが犬の体内で吸収されてから現れるため、早くて4~5時間後から、少し長くても半日ほどすると犬に異変が起きることが多いようです。
危険なチョコレートの摂取量
- 【 小型犬(約5kg)の 場合 】
- ・板チョコ(ミルク):4~5枚分(240~300g)
・板チョコ(ダーク):約1枚分(約60g)
※ダーク系では、体重1kgあたり約30g以下でも危険量です。
胃の中に残っていた食べ物の有無や個体差も大きいですが、犬の体重1kgあたり約100〜200mgのテオブロミンが含まれていると、危険な中毒症状が現れると言われています。(軽度な症状は体重1kgあたり20mgの摂取から現れる可能性があります)
カカオの含有量が少ないミルクチョコレートなどでは、板チョコ1枚(約60g)で最大約120mgのテオブロミンを含みますので、5kg程度の小型犬ですと約4~5枚分で致死量となりえます。
反対に、カカオの含有量が多いダークチョコレートなどでは、板チョコ1枚(約60g)で約300~500mgのテオブロミンを含みますので、5kg程度の小型犬ですと約1枚です。
ちなみに、ホワイトチョコレートはカカオの脂肪分を使った製品で、テオブロミンの含有量はとても少ないです。そのため、よほど大量に食べなければ中毒症状が現れるリスクは低いと言って良いでしょう。
参考文献:禁忌食 チョコレートとイヌ・ネコの健康|国立研究開発法人 科学技術振興機構
参考文献:チョコレート製品及びチューインガム中のカフェイン及びテオブロミン含有量の測定|神奈川県衛生研究所
食べてしまったら まずは動物病院へ相談!
もしもチョコレートを食べてしまったら、たとえ食べた後に元気な様子であっても、必ずかかりつけの動物病院へ相談しましょう。以下のことを伝え、受診すべきかどうか確認してください。
- どんなタイプのチョコレートを
- いつ
- どのくらいの量を食べたのか
自己判断で様子を見た結果、数時間後に食べたチョコレートが吸収され、愛犬に重度の中毒症状が現れる危険もあります。
中には自宅で薄めたオキシドールや食塩水を使って吐かせる方法を取ろうとする人もいますが、消化管に強い炎症が起きたり、塩中毒などの危険があります。吐かせる処置は必ず獣医師に行ってもらいましょう。
動物病院での治療について
チョコレート中毒に対しては解毒剤はありませんので、対症療法しかできません。食べてすぐであれば、吐かせる処置をすることで吸収する前に可能な限り体の外に出すこともできます。
また、明らかに症状が出るであろう致死量を食べたケースで食べてから受診までの時間が短ければ、麻酔をかけての胃の洗浄処置が有効となることもあります。
処置後は、残ったチョコレートの中毒成分を吸着させ、排泄を促すために、活性炭(吸着剤)を投与したり、点滴を行って様子を見ることになります。
治療は、「吐かせる」「浣腸する」「吸着炭を飲ませる」「点滴する」などの間接的な治療になり、テオブロミンに対する拮抗薬(毒を中和する薬)はありません。食べてしまったチョコレートの種類、量によっては助けることは難しいということを知っておいていただきたいです。
高カカオのチョコレートに注意!
日本ではチョコレートの危険性が飼い主さんの間で広まり、致死量となるほどの量を食べてしまったり、食べた後に気にせず放置した例が減ったこともあって、時にチョコレート中毒は嘘なのではないかと噂されることがあるようです。
しかし、アメリカでは実際に死亡例も報告されており、日本でも中毒を発症する基準値に満たないテオブロミン量で、重度の中毒症状が引き起こした例が各動物病院から報告されています。
テオブロミンは、チョコレートの主成分であるカカオに含まれており、そのカカオの含有量が多いチョコレートだと少量であっても中毒症状が現れやすいです。
日本で販売されている高カカオチョコレートでは、カカオを30〜40%含む普通のチョコレートに比べてテオブロミンが4倍以上含まれているものもあるので、そのようなチョコレートやココアパウダー、製菓用の甘みの少ないチョコレートなどでは特に注意が必要です。
小さなミルクチョコレート一粒で死んでしまうという事はほぼありませんが、同じ体重の犬でも症状が強く現れる犬とそうでない犬とがいるため、たとえ少量だとしても動物病院へ相談・受診してください。
日頃から誤食対策を
子どもがいる家庭など、ついうっかりお菓子をそのまま出しっぱなしにしてしまったり、愛犬の口が届くところにゴミを置いてしまうことも少なくありません。
人には分からなくても、嗅覚の鋭い犬にとっては、包装されたチョコレートでも良い匂いがする魅力的な食べ物です。必ず「犬が開けられない・口が届かない場所に片づけ、外出する前には室内を見渡してから」出掛けましょう。
手作りお菓子の調理中や粗熱を取っている時なども、愛犬がキッチンに入ってこられないように仕切りを設けてあげてください。
先日、製菓用のチョコレートを約80g食べてしまった小型犬が来院しました。できるだけの対応をして入院で経過を見ていたらいきなり痙攣し、意識がない状態になりました。幸い助かり、今は元気にしていますが肝を冷やしました。
チョコレート中毒は食べる種類と量によっては命にかかわります。置き忘れたというようなことがないようにしっかり保管しましょう。
まとめ
最近では、「チョコレートは犬にあげてはいけないもの」として広く認知されるようになってきました。そのため、チョコレートを犬に与える人はほとんどいないはずです。
ですが、室内犬が増え人と近い場所で生活をすることにより、「知らぬうちに犬がチョコレートを食べてしまった!」という事例はかなり多いです。また、チョコレートの包み紙も一緒に食べてしまい、それらが腸内で詰まってしまうこともあります。
もしも愛犬がチョコレートを食べてしまったら、急いで動物病院に相談・受診しましょう。
チョコレート中毒は食べる量によって非常に重い症状が出て最悪の場合亡くなることもあります。食べてすぐ症状が出ず、数時間後に突然痙攣が起きて意識がなくなることがあり、食べてすぐに心配な様子がなくても油断できません。食べたチョコレートに含まれるテオブロミンの量が多いほど症状が重い傾向があります。ビターチョコレートや製菓用の甘くないタイプ、カカオが多く含まれているものなどは危険です。